もうひとつの”煙草のけむり ④
加奈子さんは自らの心に苦しみます。
ここは職場!!
泣いちゃダメ!!
私は震える手でスマホを握り締め、懸命に涙を堪えた。
冴ちゃん!!!
アナタは
悲しすぎる!!!
どうして、いったいどうして?!!
今すぐにでもアノ子を探し出して、抱きしめたい。
アノ子にこれ以上
悲しい出来事が起こらないよう
守ってあげたい。
しかし
それとは裏腹に
私の頭の中は
アラームが鳴り続けている。
『アノ子は危険!!』『アノ子は危険!!』『アノ子は危険!!』『アノ子は危険!!』
『アノ子は危険!!』『アノ子は危険!!』『アノ子は危険!!』『アノ子は危険!!』
そう!スグルの命を脅かしかねない!!
アノ子が握り締めたハサミでスグルを刺さないなんて
誰が言いきれる?!!
アノ子の闇が
愛するスグルを壊してしまう事はないなんて
誰が言いきれる?!!
アノ子が…
私の愛するスグルを
奪ってしまう
どれも起こりうる真実に思える…
アノ子自身が言っている
『この邪悪な私から彼を遠ざけて下さい。どうか末永く、彼を守ってあげて下さい。』
と。
それがアノ子の願いなのだ。
きっと私はどうしようもなく酷い女だ。
アノ子が自分自身を粉々にしようとしている事を、幸いとしているのだ。
だけど、どんなに自分自身が嫌いでも、憎くても
アノ子も私も
それが自分自身なのだ。
だから私は
今度こそスグルを守り
離さない。
だけど…
だけど…
冴ちゃん!!
私はアナタも守りたいの!!
たとえ私とのつながりが壊れてしまったとしても
アナタが自分自身を壊しつくして
無限の暗闇に落ちていくような事を
私は見過ごすことができない!!
カオスになった頭の中を一瞬、ある言葉がよぎる。
『アイツの推薦でしかも“オンナ”だから…』
あっ!!
あの人がいる!!
私は院外に駆け出し、スマホを立ち上げ、画面を少し戻してリダイアルした。
コールしても出ない!!
頼む!!
出て!!
私がアノ子の行方を追えるうちに
とにかく私は自転車に飛び乗って
一甫堂へ向かって漕ぎ出した。
向かう途中の何度目かのコールでようやく彼が出た。
『上川です』
「もしもし箭内です。あの、社長!」
『どうかしましたか?』
耳当たりのいい声に私の心は少し落ち着いた。
深呼吸してスマホに語り掛ける。
「冴ちゃんが居なくなったのです」
『えっ?!』
「アノ子は自分の素性を手紙に書き残して、黙って出ていったのです」
『…そうでしたか…』
「あなたも彼女の素性を…ご存じだったのですね?」
『いや、 それは言うべきではないでしょう』
「そう! それはもう、どうでもいいのです。ただ、あなたがアノ子を任せるに足る人かどうかなのです」
『随分な言い方ですね』
私は電話の向こうにも分かる様にため息をついた。
「駆け引きしている暇はないのです。アノ子の行方が分かるうちに何とかしないと、アノ子は…死んでしまうかもしれない。でもその前に必ず! 会社に…あなたのところへ戻るはず!」
『死ぬ?!バカな…、いや、しかし…』
私は思いっきり息を吸ってスマホに怒鳴りつけた。
「四の五の言うな!! あなた!冴ちゃんの事、モノにしたいんでしょ?!! 今ならアノ子だって!!…自分からそれを望むわ」
『なぜ、そんなことが言える?!』
「うるさい!! 男だったら押し倒しても何してもモノにしろ!! 女にこんな事、言わせるな!!」
色々な感情が入り混じって自転車のサドルをバン!!と叩いてしまう。
「だめだったら…私が骨、拾ってやるから… 頼むよぉ」
『分かった』
のひと言で電話が切れた。
私は深いため息とともにスマホをポケットにねじ込み、自転車を押し出した。
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スグルが何か所かに電話したのと、SNSに上がったせいなのか、一甫堂に着いてみると、冴ちゃんの行方を心配して入れ替わり立ち替わり人が来ていた。
それは、アノ子がこの街の人々といかに心を通わせていたかの証でもあった。
代表で学校をサボって来たあーちゃんは半泣きになって
「もし、スグル兄が無理強いしたのが原因なら、絶対許さない!!」
と言うので
「スグルはそんな事しないし、冴ちゃんをきっと探し出すから」
と慰めた。
そう、スグルはきっとアノ子を見つけ出すに違いない。
そして決定的に遠ざけられて
一人で帰って来る事になる。
私がその采配を取ったのだ。
全ての責任と罪は私にある。
だからどうだと言うのだ。
欲しい物は取り、ふてぶてしく生きるだけ!と
私は、ひとり 強がった。
愛憎とは違いますが、相反する感情に責め立てられた加奈子さんは社長に縋るのですが… その結果は先の章で書かせていただいた通りです。
その結果の後、どうなるのかを次から書かせていただきいのですが…
今回も書いてて辛かったです(/_;)




