煙草のけむり ①
いよいよ最終章です。
やっとここまでたどり着きました(^^;)
電車を乗り継いで行く間に私はスマホを立ち上げ、津島のお母さま以外の番号を次々と着拒にして行った。
空がどんどん暗くなって行く。
私の胸を“赤い月”の恐怖がよぎる。
でも今度は…
助からなくてもいいのかもしれない。
ここまで考えてため息をつく。
また投げやりになった。
あの街に置いてきたしまった“前橋冴子”はいったい私の何だったのだろう…
それとも今の私こそが幽霊なのだろうか
わからないけど
幸せだったのは分かる。
手放したものの重みは
否応もなく分かる。
ええい!
夢だったから
幸せに思えたんだ。
現実に色を変えたら
そうはならない。
手に持ったスマホが鳴り、ドキリとする。
社長か
電車降りたら電話しよう
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「ごめんね~ 電話もらった時 電車の中でさ…こっちへ戻って来る途中だったんだ」
『そっか、悪いんだが…会社来れるか?何ならクルマで迎えに行くから』
「社長! どうかした? なんか変に気を遣うね タクシー使うから迎えはいらんし」
『バカヤロ 疲れてるんじゃねえかと思っただけだよ。 お前瘦せてたしな。じゃ!会社で待ってるから』
何となく違和感がある…
けどいいや
こちらも疲れて…意味を汲み取る余裕がないし…
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会社に着くと、もう社長一人だけだった。
私はキャリーバッグの中から書類を出して何となく整理をしている。
と、社長がジャックさんのどでかいボトルを提げてきた。
「飲らねえか?」
「どれだけ飲む気だよ」
「好きだろ?」
「どうかな?」
「また好きになるさ」
「さてねえ」
黒に白抜き文字のラベルのそいつは3リットルあるやつで、既に半分近く空になっている。
ひとり会社でこれを飲んでいる社長も、相当ただれているなと思う。
まあ、そんなこと 前は考えもしなかったが
実際今も、グラスや氷はもちろんのこと、取り皿や灰皿、台ふきんまで、せっせと用意してしまっている。
「お前、変わったな」
「ーん、そうかな」
応接室のテーブルの上にお店を広げて二人して飲み始めた。
「前から気になってたんだけど、あのジュークボックスって動くの?」
「ああ、オヤジの趣味でな。ちゃんと動くぜ。昨日も動かしてた、コイン入れて」
と5セント硬貨の入ったかごを機械の脇から出してきた。
「へえ~ 『ムーンライトセレナーデ』ある?」
「あるよ Lの2か。 コイン入れてボタン押してみな」
やってみると、スイーっとアームが動いてレコードをセットし、針が置かれた。
曲が流れる。
「いったいお前に何があったのか、話してくれねえかな?」
「そだね、300万使っちゃったし、まだココには世話になりたいしな…」
暗くなった空は、大粒の雨を落とし始める。
私はタバコに火を点け、ふかした。
「さて、どこから話しますか アンタはある程度の事は、知ってるよね…」
今回のタイトル『煙草の煙』は五輪真弓さんの古い曲です。 最終章のタイトルは、この日本の曲をと決めていました。
ストーリーの中で流したくて… わざわざ『Hotel California ②』の冒頭にジュークボックスの描写を入れて仕込んでおきました。実際に、この曲はドーナツ盤で出ているのでジュークボックスに入れられるはずです。(^_-)-☆




