Desperado ③
今、書きなぐったものをUPしました。(/_;)
涙がヤバいです(/_;)
まずは仕事の話をしよう。
冴茶ソがウケてしまって、この街で他のお茶屋さんからも引き合いが来るようになった。
そこで、この街での取引に関しては、工場から直接卸して、本社へのマージンだけを工場から収め、一甫堂は一切噛まないようにした。
あと、お店の売価は私達の納め価格と同じにすることを約束させた。
社長にはこの条件にケチを付けるなら、その場で会社を辞めさせてもらうと釘をさした
少なくともそうしておかないと英さんは絶対首を縦に振らないと思ったからだ。
もちろん応援販売などは私が現場に行って全面的に協力した。
「主人が行ってきなさいと言ってくれたから」との言葉を添えて…
“湯の町温泉ホテル”に冴茶ソを納めた時、『お土産でも置きたいので地域限定商品の開発をお願いしたい』とのオファーがあった。
早速、工場にはその旨を伝えたが、私はこの街を去る身なのでこの案件は製茶工場の社長夫妻に一任した。
それより、一甫堂でのお仕事が私には大切だった。
お客様とお話をしたり、英さんやおやじさんのお手伝いをしているこの時間が何より愛おしかった。
英さんとふたりでおやじさんの自宅へお邪魔して、4人で晩御飯も食べた。
加奈子さんは幼い頃にお母さまを亡くされて、おばあちゃまに育てられたようなものだったから、おばあちゃま直伝の料理も教えてもらった。
不良妻もやってしまった。
忌明け(きあけ)前なのに、あーちゃんたちとファミレスで女子会をしてしまった。
あと、英さんウケする下着姿で英さんの布団の中に隠れて、風呂上りのカレを驚かせた。
思いっ切り抱きついて押し倒したが…
結局なにもされなかった…
ただ、
「冴ちゃん、少し瘦せた?」
と聞かれてしまったので
「最近は料理の失敗が無くなったから」と謎かけした。
「分かった! 失敗作の証拠隠滅をしなくて済むようになったんだね」
「ご名答!! 商品は… この下着の中!! 見ます?」
英さんが首を振って布団を被ってしまったので、その上からのしかかってやった。
「軽いから大丈夫でしょ?」と
喧嘩じゃないけど犬も食わないじゃれ合いも間もなく終わる。
そして、きっと深い溝の決別だ。
英さんと映画も観に行きたかったけれど…忌明け前なので…
リビングを暗くし、二人くっついてテレビで観た。
恋愛映画なんて絶対泣いてしまいそうなので…
私のお気に入りのコメディ映画『¡Three Amigos!』(サボテン・ブラザース)を観た。
ずっと二人して笑っていたのだけど…
ラストシーンで、なぜだか私はボロボロ泣いてしまった。
英さんはボロボロ泣く私をオロオロしながらも抱きしめてくれた。
英さん、オロオロさせてしまって
ごめんなさい。
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津島の家で私の送別会のようなものをやっていただいた。
お兄様のお嫁さんにも生後4か月の赤ちゃん同伴で来ていただいた。
最近はお父様のご相伴にあずかっていたのだが、夕方までには前橋の家に帰るつもりなので、今日は控えめにしていた。
少し寂しそうなお父様を見ていると、何とも言えない感情が沸き起こってくる。
最近は戸惑う事ばかりだ…
赤ちゃんも抱かせていただいた。
「縦抱っこしても大丈夫ですよ」と受け取ったその子は
想像よりずっと重かった。
顔を近づけると私の髪をニギニギと掴んで遊び始める。
こちらも恐る恐る抱いていた感じが少し楽になって、顔がほころぶ。
と、
ふと遊びの手を止めて
小さな小さな手で
私の頬を
ポンポンと叩いてくれた。
胸の中をノックされた気がして
涙がすーっと
流れた。
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「灯子さんの写真とストローハットはこの部屋に置いて行きます」
「もう、行ってしまうの?」
「はい。四十九日の法要も無事に済みましたし、手紙も書き上げました。
潮時です」
「寂しくなるわね…」
「養子のお話。とてもとてもありがたく、嬉しかったです。 ただ…」
私は自分自身に言い聞かせるように言葉を継ぐ。
「私はこれからまた、罪を犯します。それは簡単に許される事ではありません。いつか…英さんに本当のお嫁さんが来たら…それが加奈子さんなら私はとても嬉しいのですが…その時は、この部屋に来ます。」
「待っていますよ。あなたのあかりと私達に会いに戻って来てくれるのを」
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前橋の家に戻って、まずはお風呂に入って身を清めた。
それから仏間へ行って、仏壇に手を合わせた。
統お父様、今日子お母さま、そしておばあちゃま
大切な英さんを傷つけてしまう事を…
許してくださいとは申しません。
その傷跡が早く癒えるように、お力をお貸しください。
これは私の罪です。未来永劫背負います。だから英さんがなにも背負わなくて良い様に力をお貸しください。
おばあちゃま、私を拾っていただいて、この幸せな毎日を過ごさせてもらえました。
何もお返しができないのですが… この指輪は、今から外します。
本当のお嫁さんに付けていただけるように、一所懸命磨きます。
あと、
おばあちゃまの形見を傍に置くことを
お許しください
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ずっと眠れなかった。
朝の早い英さんが起きて、着替えて、部屋を出ていくのも
こっそり見送った。
それから更に時間をやり過ごして
いつもよりは早い時間に布団から出て
作務衣ではなく
英さんが『いいね』って言ってくれた服に着替えて
あーちゃんたちに教えてもらったメイクをして
最後に鏡に向かって笑顔を作った。
エプロンを付けながら英さんに声を掛ける。
「今日の午後、『まろやか音』の件で出かけなければいけないんです。お昼を早めにお出ししていいですか?」
「いいよ~! 忙しいのにゴメンね」と英さんの声がする。
私は朝の陽ざしを浴びながら、これが最後となるお店の掃き掃除に取り掛かった。
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英さんと加奈子さんのお二人に書いた手紙には物心ついてからの私の散々な歴史を綴った。
その後の、あかりの事や浅ましい私の事も、書いた。
この手紙の最後
加奈子さんへは
厚かましくも姉のようにお慕いしている加奈子様に、身勝手なお願いがあります。
もし、万一、英さんが私を追おうとしたら、この邪悪な私から彼を遠ざけて下さい。
どうか末永く、彼を守ってあげて下さい。
と
そして、英さんには
あなたのそばにいさせてもらって、私は本当に幸せでした。
だからこそ、私はあなたを傷つけてしまう自分を許すことができません。
最初にしていただいた約束は守ることはありません。
その代わりにお願いがあります。
ひとつは、私の事。とことんまで蔑んだら、きれいに消し去って下さい。塵も残さずに。
それから、おばあちゃまの指輪は、あなたの本当のお嫁さんに届けてあげて下さい。
最後に、
私にはおばあちゃまに書いていただいた婚姻届けを
どうしても破ることが出来ませんでした。
あなたにお返ししますから
後はお願いします。
さようなら
と
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「はい!冴茶ソです」
と英さんに湯呑を渡す。
英さんは口を付けて
ふっ!と息をつくと…
言ってくれた
「あの! 冴ちゃん! これからもずっと!」
その後を言わせないようにと
私は
キスで、その口を塞いだ。
命が
流れ込んでくる気がして
急いで離れて
噓をついた。
「ごめんなさい。 口紅ついちゃった」
口紅を拭うふりをして愛しく撫でた。
「慣れない事はしちゃだめですね。メイク落としてきます」
長い間 洗面台に居た。
メイクはとっくに落としているのに
水を盛大に出しっぱなしにして…
「冴ちゃんも出かける前にお昼食べてね」と英さんに声を掛けられて
背中で
「は~い」と返事をする。
英さんがお店に戻るのを見計らって、急いで部屋に戻り
“前橋冴子”を脱ぎ捨てて、ゴミ袋に突っ込む。
キャリーバッグから白シャツとケミカルデニムを出して着る。
キャリーバッグの片隅にあった潰れたタバコの箱をポケットに突っ込み、婚姻届けに指輪、手紙を取り出す。
これでキャリーバッグの中は仕事の書類の他は、おばあちゃまのメモリアルペンダントだけになった。
畳んだエプロンを椅子に掛け、テーブルの上に婚姻届け、手紙、指輪と置いていく。
さようなら
前橋冴子さん
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湯の町駅で電車を待っている。
いつの間にか慣れてしまった潮風と温泉の匂いを打ち消したくて、
タバコに火を点け
思い切り吸い込んだ
むせて
涙が出た。
空が暗くなってきた。
あの時の様に
雨が降り出すのだろうか…
私を運び出していく電車が近づいて来る。
私は
煙と一緒に
この街での最後の言葉を
ホームに置いた。
「いい夢、… 見たなぁ…」
。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。
イラスト①
『これからもずっと!』と言い掛けた英さんの言葉をキスで塞ぐ冴ちゃん
この瞬間の英さんって、どんな表情だったんだろう…
イラスト②
この街での最後の言葉
「いい夢、… 見たなぁ…」とつぶやく冴子さん
“前橋冴子”さんであった時と、そうでない冴子さんに戻った(なった)時の違いを、タバコを咥えた冴子さんで出せればよいのですが…
この章については色々書きたいことがあるのですが、今グシャグシャで
取りあえずひとつだけ
最初に思い付いた時はこの章が終点でした。
現実を突き詰めれば、きっとこうなるでしょう…
だけど、冴子さんがあんまりにも辛いので…
『このお話は異世界の話』というファンタジーの力を借りて
続きを書きます。