Desperado ②
Desperadoを聴きながら書いているのですが、沁みます(/_;)
いつの間にか日が落ちていた。
涙やその他もろもろでグシャグシャになった顔のまま、ぼんやりと思いを馳せる。
晩夏って今ぐらいなのかなあ…と
「さえ!開けて」
外の声に私は居住まいを正し、ドアを開けた。
お母さまはお盆とポットで両手を塞いでいる。
ああ わざとなんだろうな…
私にドアを開けさせるために…
ポットを受け取るとお母さまはお盆をあかりの机の上に置いた。
いなり寿司だ。
「灯子にもよく作ってあげたの。この部屋で、こうやってお茶飲んで… そうそう…」
とお母さまは賞状の1枚に目をやる。
「優勝出来なくて大泣きした時も…。 ほら、さえも食べなさい。泣いた後は意外とお腹が空いているものよ」
お母さまとふたり、いなり寿司をいただく。
嚙み締めると出汁と優しい甘さが口の中に広がり、ほんのりと炒りごまの香りがする。
「英さんのこと…」
言われて箸が止まる。
「好きになってしまったのね」
私はコクリ!と頷いた。
お母さまは私の頭を抱いて撫でてくれた。
「あなたが今日いらしてくれると聞いて、主人と息子がご挨拶したいと帰って来ているの。少しだけいいかしら?」
--------------------------------------------------------------------
「主人と息子…灯子の兄です」
紹介いただいたお父様はこの土地の事に疎い私でも、ポスターか何かで見たことのあるお顔の方だ。
お兄様はご自分の名前を「大きいに朗らかと書いて“たろう”と読みます」と教えてくれた。
お二人は私に向かって深々と頭を下げた。
「灯子の為に本当に良くしていただき有難うございました」
「私の方が、灯子さんに助けてもらったのです。それなのに…なにもしてあげられなくて…申し訳ございませんでした」
逆に頭を下げた私にお父様は語り掛ける。
「実は、あなたにお願いがあるのです。あなたのこれまでのご事情は家内から聞いております。その上でのお話です。 私達夫婦の養子になっていただけませんか あなたが前橋さんへお嫁に行きたいとおっしゃるのなら、津島の娘としてお嫁に出したい。 そうでないのなら、私達はあなたと寄り添って生きていきたいのです」
「寄り添って?」
「はい。苦しい時は苦しみを分かち合い、嬉しい時は一緒に喜ぶ。この街の人々の多くはそうやって人生を歩んでいるのです。あなたにも私達と共に人生を歩んでもらいたい そう願っているのです」
「私の素性をご存知なのでしょうか?」
「はい。あなたの歩んできた道のりから…推察はできます」
「とてもありがたいお申し出なのだとは分かります。ただ、突然であまりにも思いがけない事ですので、私の中で今は整理が付きません。お時間をいただけますか?」
「もちろんです。 それとは別に…今は大変な時と存じ上げてはいるのですが…よろしければ今日はここに泊まって行って、家内の相手をしてやって下さい」
「ありがとうございます。前橋の家の都合を聞いた上での事にはなりますが、お言葉に甘えさせていただきます」
--------------------------------------------------------------------
お母さまはあかりの机の引き出しからメモリアルペンダントを出して、私に見せてくれた。
綺麗な細工の中にガラスのシリンダーがある。
私は自分の左手の薬指を見た。
おばあちゃまの御髪はこのプラチナのように、シリンダーの中で輝くように思えた。
「綺麗な指輪ね」
「はい、おばあちゃまからお預かりしています」
「お預かり?」
「はい。この指輪は英さんのお嫁さんが付けるべきものです。 私にはその資格がありません」
私は自分の浅ましさと前橋の家を離れる決心をしている事を、お母さまに話した。
話を聞き終わったお母さまは私にこんな話をしてくれた。
「私が高校生の時、一甫堂はお友達との憩いの場所でした。前橋の女将さんにはその頃から良くしてもらったわ。美しくて溌剌としていて…そう、洋楽がお好きでレコードも良く貸していただいてね。 今の主人との縁結びもしていただいたの。 そして今度も…さえとの縁も結んでいただいた。 実は入院先から電話をいただいていたの『津島のお墓にお参りにいらした方を私の方でお引止めしているから、是非一度、お会いになって』と… 先にお話ししたように私達にもあなたの事が聞こえていて…少し時間は掛かったのだけれども…」
お母さまは私を抱きしめた。
「こうやって、あなたを抱きしめる事ができました。 このお部屋は今日からあなたと“あかり”のお部屋です。 好きな時に来て、好きなだけいらしてね。そしてあなた自身の事やあかりの事をもっともっと深く知ってあげて 例えあなたが私たちの願いを受け入れなくても、この土地を離れると決心していても、 いつでも、いつまでも 待っていますよ」
あたたかい
おかあさんのぬくもり
こんな私が
受け取ってもいいのだろうか
少しなら
いいよね
私にとって、辛いこと… 自分の事ではなく、英さんや加奈子さんを傷つけることになるかもしれない手紙を
ここで書こう
この章は、まだまだ辛いのですが… 早く冴ちゃんをネバーランドへ連れていきたく、つい焦ってしまいます。(^^;)
ご感想、レビュー、ブクマ、ご評価、切に切にお待ちしております♡




