Desperado ①
今回のタイトル“Desperado”はEaglesの曲からとっています。
本来、私はここに立つべきではない。
通夜に弔問にいらした方のお相手を加奈子さんにお願いして私は黒エプロンを付けた。
おばあちゃまが用意された段取りは、私と出会う前に用意されたものだったこともあり、かなりの部分を加奈子さんに動いていただいた。
英さんの横に立つ洋装の加奈子さんは、故人と長く時を分かち合った者の自然さと落ち着いた雰囲気があった。
私などの出る幕ではない。
せめてこれ以上のご迷惑を掛けないよう、失敗しないようにと、通夜の席のお茶出しや配膳などをクルクルとやっていた。
と、後ろから不意に腕を掴まれた。
「さえ!! ちょっといらっしゃい!!」
津島のお母さまだった。
お母さまは私を湯沸室の壁際に引っ張って行った。
「後ろを向きなさい!」
お母さまは私を壁の方へ向かせ、立てかけてあった手帚の柄で私のお尻を思いっ切り叩いた。
「あなたは何をやっているの!!」
着物の上からなので、さほど痛くはないが、突然の事にびっくりし、私は茫然とした。
「しっかりしなさい!! どのような経緯があろうと今、あなたは喪主の妻の立場で、それ相応の服装もしているのです。なのにこの有様は何ですか?! ましてやあなたはそれを仕事として請け負ったのでしょう?! 未来に何があろうとあなたにはその責任を全うする義務があります。」
私は目をしばたたかせた。
「まだ目が覚めませんか? 本当ならあなたの頬を思いっ切り叩いてあげるところです。跡が付くからしないだけです!」
私は襟元を正した。
「いえ、 目が覚めました。」
お母さまは頷いて、私の手にメモを握らせた。
「なすべきことをしなさい。それが済んだら私達の家に来なさい。灯子の部屋に」
それから私は、加奈子さんにフォローはお願いしたけれど、一所懸命に喪主の妻であろうと努力した。
通夜が終わって皆様がお帰りになった後、
“寝ずの番”をしている英さんの傍らに寄り添った。
「もうすぐローソクが短くなりますね。次のローソクから私が見ますから、英さんは少し寝てください」
ひとりになって
私はようやく、涙ながらにおばあちゃまに謝った。
「出過ぎた真似をして本当に申し訳ございません」と
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おばあちゃまの棺には御髪も入れたのだけど、巾着袋の中に幾筋が残っていた。
初七日の後、津島のお母さまと電話でお話ししていたら、たまたまその話になり「手元に、灯子には使う事のできなかったメモリアルペンダントがあるからいらっしゃい」とおしゃっていただいた。
おばあちゃまの遺言で、お店を開ける準備をしていた英さんとおやじさんには申し訳なかったのだけど、途中でお暇してタクシーに乗り込んだ。
タクシーは住所を告げるまでもなく、私を津島の家に運んで行った。
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「ここはね、 灯子が高校を卒業するまで使っていたお部屋なの」
お母さまは、私を部屋に通して、すぐひとりにしてくれた。
女の子らしい可愛いグッズといくつかの賞状。
整然と並んだ本棚に飾られたフレーム
部屋に抱かれた私は、ここに居たあかりは確かに幸せに満ち溢れていたと、ひしひしと感じた。
なのに、あかりは…
どうして!!
どうして!
どうして
私の愛する人は
逝ってしまうのだろう
どうして
別れなければいけないのだろう
「グフッ!」
嗚咽が洩れた。
あかり!
おばあちゃま!
どうして!!!
死んじゃうの!!
いやだ!!!
いやだ!!!
英さんとだって
離れたくない!!!
大声で号泣していた。
後で教えてもらった。
たまたまお父様とお兄様が帰って来られて
外まで響く泣き声を耳にされたと。
お父様はその時、顔さえ知らない私を
養子に迎えたいと思ったと。
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イラストは喪服の冴ちゃん(塗っていませんが…)
目の表情って難しいです(^^;)
この章のタイトルには“Desperado“をつけようと、ずっと前から決めていました。
ところが先日、このタイトルを『しいな ここみ』様に言い当てられてしまいました。
大変驚いたと同時にとても嬉しく思いました。(*^。^*)
この場を借りてお礼申し上げます。
ここみ様 本当にありがとうございました<m(__)m>
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