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こんな故郷の片隅で 終点とその後  作者: しまうまかえで
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Try 

今回のテーマ曲は聴覚障害のあるジャズシンガー、マンディ・ハーヴェイ(Mandy Harvey)の自作曲“Try”です。 この曲が広く世に出るきっかけとなったテレビ番組のビデオは何度みてもウルウルします。

おばあちゃまからいただいたそのほうじ茶を淹れた時、私の生きる目的のテーマが繋がった。


ひとつは、

『少しでもおばあちゃまにご恩返しがしたい』という事


おばあちゃまのベッドに椅子を寄せて、そのほうじ茶をお持ちになられた製茶工場の方のお話を詳しくお聞きした。


「…今の社長さんは、私の亡くなったお友達の息子さんでね。奥様と二人で切り盛りしているのだけど…裏書した手形が不渡りになったの…それで支払い遡求をされていて…」


「今時、手形ですか…おいくら位なんですか?」


「詳しくはおっしゃってなかったけど…230万とか… 何とかできない額ではないけれど… こういうことがあるとね… 商いが細くなってしまうから… 皆様にご迷惑が掛からないうちに廃業しようかって… 」


「社長はおいくつくらいの方ですか?」


「まだお若いのよ。 40歳くらい」



よし! これは必ず上手くいく!!


私の顔の色を読んで、おばあちゃまはおっしゃる。

「冴ちゃん!あなたの持っているものを使ってはいけませんよ。 それはね、善意から出たとしても、一時の凌ぎにしかならないのよ」


「おばあちゃま。分かっています。私はこの素晴らしいほうじ茶をつくる方とお仕事がしたいのです。 だから紹介していただけませんか?」



店に戻って、帳場のノートPCをチェックした。

WEBカメラも付いているし問題はない。


「英さん! ノートPCをお借りしますね」


英さんが手を挙げるのを確認して、私はパソコンを立ち上げた。


そしてこの目的達成の鍵となる人に電話を掛けた.


「社長! 商談と開発がしたい。 私にいくら掛けてくれる?」


『うぉ~!! いいねぇ お前からそんな話が聞けて! 1億くらいまでなら何とかするぞ』


「悪いなあ。そんな社運を賭けるような大きな話じゃなくて…」


電話の向こうで社長は笑った。


「師匠の力もお借りしたいからZ●●mでやりたいんだ。ミーティングIDとパスコード言うからメモって!」



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「商談の内容はね。 冴茶ソのほうじ茶バージョンのOEM依頼。 これは私主導で先に進める。 社長はクロージングの時に、お願い。 副資材の作成はまたユーケー企画さんにお願いするから…私としては“冴茶ソ”のイラストは外して欲しいけどね…」


『キャラクターのイラストを外すのだけは却下だ!』と社長


「開発の方は、『まろやか音(まろやかね)』のポータブルサーバーを作りたいんだ。 本体に接続して本体側で既に作られたプロダクトウォーターの給水とポータブルサーバーへの充電ができるようにする。ポータブルサーバー自体で93℃まで加温と給湯を行いたいから充電式ケトルなどに使用されている18Vリチウムイオン電池2本でいけるのではと思う。充電式ケトルくらいの大きさで容量は1ℓは欲しい。 筐体はコンパクトイオン発生装置のDタイプを流用するのでどうだろうか?」


『いい案だと思う』と画面の向こうの師匠に褒めてもらって私は笑顔になる。


『冴ちゃソ!元気そうじゃねえか!』と軽口を叩く社長に私はもう一つの報告をした。


「社長、あの300万の使い道が決まったよ…」



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私の願いを叶える為に色んな人が手助けしてくれた。


作務衣でパソコンを打っている私の陣中見舞いに来てくれた()()()()()たちはグリグリ動くプレゼン資料の作成の手伝いや印刷(みーちゃんの顔で学校のプリンターで印刷してもらった)をしてくれた。


プレゼンに着ていく洋服は加奈子さんが選んでくれた。


おやじさんと英さんは私の“オサボリ”を甘々で見守ってくれるのは元より、おやつにお二人の自慢のお菓子を出していただいた。


そしてプレゼンに間に合うようにと、師匠が当日の朝着で『まろやか音(まろやかね)』の本体と試作のポータブルサーバーを手配してくれた。


ポータブルサーバーの師匠の手書きのマニュアルを読みながら、私はこれを送り出してくれた会社のみんなに画像付きのメッセージを出した。

『冴ちゃソ!行って来ます』と



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製茶工場は茶葉を焙煎する香りを元気に漂わせている。


これは絶対大丈夫だ!


あとは沈滞した気持ちを上げるきっかけさえあれば!


迎えてくれた社長夫妻は寄り添って立っていた。


素敵なご夫婦だと思う。


名刺をお渡しする。


「名刺の苗字は旧姓です。 今は前橋冴子と申します。 本日はお時間を戴き有難うございます。」

型通りの挨拶の後、私はデモ機やプレゼン資料の一切を脇に置いて社長夫妻とひざ詰めで話をした。


「弊社は、元々は社長の父親が経営していた鈑金屋でした。 私の嫁ぎ先はご存じのように和菓子屋です。 新米の私が申し上げるのは大変おこがましいのですが、時には薄氷を踏むような経営判断を毎日毎日続けなければいけない時もあるでしょう。

そんな時、わずかでも肩を貸し合える人がいたなら、それはきっと、とても大きな力になります。」


私は持ってきた3つの札束をそっとテーブルの上に置いた。


「弊社の社長は御社とそのような間柄になっていただけますかと申しております」


私は社長の左手に重ねた奥様の右手の上にそっと自分の手を置いた。

小刻みに震えてらっしゃる。


「どうか、弊社社長上川の意を汲んでやって下さい。あかりは、誰の心にもあって、大切に持ち続ければ、きっと明日を照らしてくれますから」



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もう寝ていると思ったのに


英さんはお風呂から上がった私を待っていてくれた。


「冴ちゃん。 お疲れ様 商談、決まりそうで良かったね」


「はい、本当にありがとうございます」

私は布団に三つ指をついて深々とお辞儀をした。


英さんはそっと両肩に手を置いてくれた。


「ん、やっぱり凝ってる」

ささっと後ろへ回っていきなり肩を揉んでくれる。

「ちょっと! ダメです! そんな…」


「ダメじゃないよ…」


「もう!… お返しさせて下さい!」


カレの腕から逃げた私は、後ろへ回ってカレの背中に抱きついた。


「襲ったり、グーパンしたりしませんから!」

とカレの肩を、腕を揉んだ。


私たち、じゃれ合ってる…



私の生きる目的のもう一つ


私はお母さまに抱かれて…


我が子をこの手に抱きたくなった。


我が子としてのあかりを抱きたくなった。


その為には、まずキチンと仕事をして、ひとりであかりを育てていけるようになる事。


そして、願わくは、あかりを産むきっかけに


この優しい人になって欲しい。


私がここに居させてもらっている間に…


それが叶えられたら


とてもとても幸せなのにと


私は心から願った。


。。。。。。。。。


今回は大人っぽく

英さんを描いてみました。



挿絵(By みてみん)



2022.5.16更新



英さんのラフ画を彩色しました。


英さん、本当に描くのが難しい(^^;)



挿絵(By みてみん)




2024.7.31更新



ほぼラフですが……

お布団の上でじゃれる♡冴ちゃん



挿絵(By みてみん)




2024.9.10更新


『冴ちゃソ!行って来ます』の時の冴ちゃん



挿絵(By みてみん)


いよいよお話も後半?です。

冴ちゃんはますます可愛くもなり、悲しくもなる予定です。


感想、レビュー、ブクマ、ご評価、切にお待ちしています!!<m(__)m>

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― 新着の感想 ―
機を見るに敏! って言うのですか? 冴ちゃんのビジネスでの行動力、とっても凄いですね! マンディ・ハーヴェイさん、存じ上げておりませんでしたが、折角音大に合格したのに完全に聴力を失ってしまうなんて可…
[良い点] ちょっとビジネス物の要素も入って、それでも軽快なテンポを崩さない文章のリズム感が素晴らしいと思います。 ラストの冴子さんの願いは、まだ少し後ろ向きな気がするけれど、失いたくない気持ちの裏…
[良い点] おおお後半入りましたね!? 私は理由あって完結を心待ちにしているのです。頑張ってください(^^) オトナだぁー……プロだー…… こんなしっかり者で心優しい冴ちゃんに、嫁ぎたいです(← …
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