Moon River ②
スピッツの『楓』を聴きながら書いてもいいなあと思ったお話です。
自分のペンネームに使っているのがおこがましいのですが…
私の話をした。
誰にも話した事の無い、あかりに辿り着くまでの長い長い道のりの話を…お母さまは静かに聞いてくれた。
「…私が灯子さんに会えない事を嘆いているその時に、カノジョはホテルの裏階段から身を投げました…」
お母さまは写真の裏に書かれた遺書を読んで、堪えきれずに嗚咽をあげられた。
私はお母さまを抱きしめ、唇を嚙みしめ、それでも上がってきそうになる慟哭を歯を食いしばって飲み込んだ。
身を分けたお母さまが泣いてらっしゃるのだ!!
私なぞが…そこに踏み込むわけにはいかない。
「私が灯子さんに惹かれたきっかけは、彼女の顔が昔の私に似ていたからだったんです。そんな…バカみたいに単純な理由なんです…私は…どうしようもない人間なんです。」
お母さまは写真を表に向けられた。
「そう…この子に…」
やがて顔をあげられたお母さまの目は不思議な表情を湛えていた。
私に向かって両手を広げて
「さ・え・ いらっしゃい!」
とおっしゃった。
私が戸惑っていると躙り寄ってきて私の頭を胸に抱きかかえてくれた。
「さえはいい子」
と頭を撫でてくれる。
私は涙が声に絡まないように必死に我慢しながら答えた
「私は…違います。あの子にとっても私で良かったのかどうかすら…分からないんです」
「いいえ 灯子が言ったように あの子はもう一人のあなた。あなたはもう一人のあの子。 こうやってあなたを抱いていると それを体中で感じます」
私は我慢できずしゃくり上げた。
「ああああああ」と赤ん坊が泣くような声をあげて、お母さまの胸を濡らしてしまう。
「よーし よーし 」
お母さまはあやすように私の頭をゆっくり揺らし、撫でて、キスをしてくれる。
「さえは一所懸命に歩いて来たんだね…私のところへ… もう休んでいいんだよ、いっぱい泣いていいんだよ」
一度泣き出すと
止まらなくなってしまった。
そんな私にお母さまは昔語りをしてくれた。
「灯子が夜泣きするとね… ちょうどこんな風に、お庭を見ながらあやしたのよ… その後は…お腹が空くんだろうね…おっぱい、たくさん飲んだよ… さえもね、たくさん飲みなさい…」
お母さまは私の顔をしっかりと胸に抱いてくれる。
私は…優しい香りと柔らかさ、温かさに包まれて、ただただ、しゃくり上げた。
。。。。。。
すっかり日が高くなって、私とお母さまは寄り添いながら縁側に腰掛けてお庭を見ていた。
「桔梗が咲いているわね」
「はい かわいい…」
お母さまは、優しい優しい眼差しで私を見てくれている
「…そうね、とっても」
それから庭に目をやって尋ねてくれた
「この事を……今のお家はご存じなの?」
「いいえ… かりそめの嫁ですから…ご縁が続くわけではないので…」
「そう… 残念ですね…」
「いいえ、黙っているのが心苦しいですから… これでいいんです」
お母さまは、また私を抱いてくれた。
「さえは私の…いえ、私達の大切な子供です。だから、出戻ってきなさい」
お母さま
帰ることのできる温かい場所…
その希望を与えてくれるだけで充分です。
それだけで充分です。
お母さまの胸に顔を埋めた私は
「はい」
とひとことだけ返事をした。
2025.8.26差し替え
。。。。。。。。
あかりのお母さまもとても優しい方なのです。
冴ちゃんが少しずつでも 癒れていきますように…
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