Lovin' You ②
今回の冴ちゃんは泣いたり笑ったりです。
タクシーはお店から少し離れたところに停めてもらった。
もうこんな時間だ。
英さんを起こさないようにしなきゃ…
私ったら、ダンナは殴るし、酒かっくらって夜遊びするし…
ひどいヨメだ。
そーっとドアを開けたのに明かりが点いた。
英さんは待ち構えていたらしい。
「すっかり遅くなって…ごめんなさい」
頭を下げたが何故か英さんは固まっている。
「あの、怒ってます?」
「い、いや…怒ってない」
「でも、私の事、幽霊か何かみたいに… お母さま?」
「違う違う!! その、何だ… その… すごくかわいいから…」
「えっ?!」
私はあーちゃんたちにメイクしてもらった事を思い出した。
「あーちゃんたちにメイクしてもらったんです。いい歳して、みっともないですよね。お風呂入って落としてきます」
「ちょっと待って!」
と英さんに引き留められた。
「あーちゃんたちと楽しめた」
「ええ、とても 今日一日、本当にありがとうございました。 英さんにもおやじさんにもご負担をお掛けてして… 英さん、顔の腫れまだ引かないし…。早く寝ていただかないと…」
「いいから」
「えっ?!」
「もう少し…見ていても いいですか?」
「ひゅえっ?!」
私はびっくりして、しゃっくりみたいな発語をした。
「ダメ…ですか?」
私は胸に手を当て呼吸を整える。
「ダメではないけど… 見つめられているだけだと、かえって恥ずかしいから…」
じっと英さんの瞳を見つめる。
瞳の中に私の姿が映るかどうか見たくなる。
「キス、下さい」
そう言って目を閉じ、くちびるを少し尖らせた。
英さんの息遣いがして
英さんの匂いがして
髪に英さんが触れたけど
くれたのはほっぺに、だった。
「もう!! このすかしたイケメンは!! 風呂入っちゃいますからね!!」
プイッ!とそっぽを向いて、この場を離れた。
英さんがすかしたイケメンでない事はもちろん分かっている。
ただただ、自分が恥ずかしいだけなのだ…
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湯船につかりながら
ぼんやり考えていた
どうして英さんは
ああなんだろう
たぶん男色じゃない
たぶん
他に想い人が居る…
おやじさんの話は本当だろうから
だとしたら…
私はブクブクと顔を半分、お湯に沈めた
加奈子さんか…
私は頭の中で彼女の立ち居振る舞いを再生してみる。
とてもとても
敵わないなあ
えっ?!
今、私
何て言った??
なんで私が!
私がカレの中での存在を主張しなきゃいけないの?
落ち込んだり
恥ずかしがったり
そして
ときめいたり
色々落ち込む 色々落ち込む 色々落ち込む
私はえさにしっぽ振る子犬か?
あかりへの想いもそんなに軽いものだったの??
わからない わからない わからない わからない
ドブン!と
湯船に顔を潜らせた
目の前には“女”のからだ
そう!
私は
ヒモだった
自分自身を使い倒した
ヒモだった。
ガバッ!と顔を上げる。
流れ込め!! お湯!!
目の中に滝のように!!
滝が枯れた後、
バスタブのザラザラが目に付いた。
あ~
掃除しなきゃ
お湯を抜いて
裸のまま掃除する。
そう
私は所詮
裸でバスタブの掃除をする
“女”
いい人ぶって
おばあちゃまのお世話のままごとしたって
所詮はごっこ遊び
加奈子さんの足元にも及ばない
分かっていることじゃん
私の仕事は別
もしも、元の仕事に戻ることがあったら
こんなふうに満たさない想いを抱えた人たちを
もっともっと、その想いごと
抱きしめてあげよう
せっかくお金をいただくのだから
それで朽ちていくのが
本望だ
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鏡の前で髪を整える。
今の仕事は英さんのお嫁さん
なんて素晴らしい!
幸せな仕事
目いっぱい!!
可愛らしく
お嫁さんをしよう!!
ニッコリと微笑んだ
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客間に入ると、さすがに英さんは寝入っていた。
こうやって見ると、ムダにイケメンの英さんの寝顔は可愛い。
Tシャツの袖が少しめくれて、肌の色がツートンになっているのが見えた。
「ふふふ」
と思ってしまう。
英さんが、離して敷いてくれた布団をズルズルと引っ張って来てカレの布団にくっつけた。
それから2色アイス棒みたいなカレの腕につかまって、眠った。
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あかりに会えた。
月のあかりのようにやわらかくその姿を灯して少し上から私を見ている。
「いつも見てたよ あなたのこと」
「いま、あかりのふるさとにいるよ」
「わかってる。だって、私が呼んだから」
私の目の前に穏やかな海と空が広がってみえた。
「いいところだね」
「大切なひとは見つかった?」
「目の前にいるよ」
あかりはかぶりを振った
「大切なひとは見つかった?」
私は出かかった言葉を飲み込んだ。
「いない…よ」
「うそばっかり」
「うそじゃない」
あかりは降りてきて私の肩を後ろから抱いて耳元で囁いた。
「早く私を…産んでね」
「?!!」
ガバっ!と身を起こした。
そのまま縁側まで出て、
あかりの姿を探した。
外は昨日とはまるで違う月の色。
さっき確かに見たあかりのオーラの色
風が流れて、どこかの風鈴を鳴らす。
居たのに!
確かに居たのに!!
気配がした。
振り向くと心配そうな顔の英さんが立っている。
「さえ…ちゃん」
夢
だったの?
夢だったの??
涙で目の前がかすむ。
英さんに抱き留められて、
カレの胸に顔を埋めて、
私は声をあげて泣いた。
全身をギューっと、預けて…
どれくらい経ったのだろう…
私は
カレの変化に気が付いて
「あ、」
と小さく声をあげた。
途端にカレは私を抱き留めていた腕を離して、腰をひかせた。
バランスを崩してしりもちをつき、カレにしがみついていた私はカレを押し倒したようになった。
英さんは、私とカレのお腹とお腹の間に腕を差し込んでこじ開けた。
「ゴメン! 冴ちゃん、辛いのに… 僕ってどうしようもない! ホント!ゴメン!こんなヤツから…離れて」
私はブンブン首を振ってギューっとギューっとカレの腕ごと全身でしがみついた。
「私、アナタのお嫁さんだよ、していいんだよ。」
「それはあくまで“フリ”で… 僕が無理にお願いしたことだから」
「だから!! そのお願いを私は受けたんだから! アナタもキチンとダンナさんをして下さい。じゃないと… 悲しいヨ…」
何がカレを頑なにしているのだろう。
こんなにも優しい人なのに…
私が…
悪いの?
さっきと違う涙が滲む
可能性のカードがまだ手元に残されている事を
あかりに教えてもらった。
でもこんなにも温かい胸なのに
足元の溝の底は、見えないほど暗く深くて…
カードのはかなさは
少しも変っていないように
思えた。
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でも、朝起きたら、私は元気だよ。
先に逃げていった英さんの布団をもう一度押入れから出して、外に干した。
よし! 今日は髪を横に寄せてサイドテールをやってみよう。
チャレンジ!チャレンジ!
鼻歌だって歌う。
ミニー・リパートンの小鳥のさえずるような声は出せないけど…
今できることを
やるんだ!
精一杯の笑顔で
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「おはようございます」
と厨房に入ったら
おやじさんに帳場に引っ張って行かれて
ノートパソコンの画面を見せられた。
『グーパン冴ちゃソ、今日はぐうかわ』というタイトルで昨日のファミレスで撮った写真がUPされている。
『SN●Wなどの修正が入っていないことは私たちが身をもって証明しています♡』とのキャプションまで付けてあった。
「この画像の元データー、あーちゃんから貰ってプリントしてお店に飾ろう」
「おやじさん!! それは勘弁して!!! お店に立てなくなってしまう!!!」
私はそばにあったお盆で思わず顔を隠してしまった。
残念なイケメン野郎は背中を向けたまま、頭を掻いている。
私はお盆で顔を隠したまま言葉を投げつけてやった。
「それ、不衛生だからやめようね!」
「おーっ!冴ちゃソ怖いな! スグル! グーパンされるゾ!」
「おやじさん!!」
睨んだ先から吹き出して、笑ってしまった。
と、デスクの上の電話が鳴った。
私が取ってみると住職様だった。
「冴ちゃん? ちょうど良かった! 冴ちゃんに会いたがっている人が居るんだ。津島の奥様。こっちに来れるかな?」
あかりのお母さまに会える?
私は受話器を握り締めた。
。。。。。。
イラストです。
バスタブにブクブク潜った冴ちゃん
2024年8月1日追加
2022年4月22日差し替えました
↓
英さん ※ 未グーパンです。(笑)
2023年7月26日 追加
あかりちゃん
2話分を無理無理1話にしちゃった感じで、バタバタですね(^^;)
ある人に聞いたのですが“お仕事”している人は、その都度、お風呂を洗うそうです。まあこのお話は楓の頭の中の異世界のお話ですから… 現実の世界とは違うかもですが<m(__)m>
ご感想、レビュー、ブクマ、ご評価、切に切にお待ちしております♡




