私が見えていますの?
「はぁ~……」
チハルは大きくため息をついた。
理事長の話を聞いてチハルが思っている以上にチハルの存在は危険らしい。
過去に十一人の転生者が確認されている。そしてチハルで十二人目だった。
転生者はみんな強力な魔力を持ち、高度な知識も備えていた。
そんな転生者たちは意識的にも無意識的にも世界を乱していたみたいだ。
「はぁ~……」
また大きくため息をつく。
(星の魔石……か――)
星の魔石は異世界人の持つ魔力を込めることで半分に割れるらしく、理事長はわざと割らせたという。
前世の記憶があって、肉体はこの世界の住人でダニエラの今までの記憶もある。
なのに魔力だけ異世界人特有という謎仕様。
(魔力って記憶と関係あるのかな?……いや、魔法使うたびに記憶失ってたらもっと問題になっているはず)
チハルはこの世界で第二の人生楽しもうと思っていた気持ちが薄らいだ。
ひっそり迷惑を掛けないように日陰の暮らしをするしかないのだろうか。
そんなことを考えてるとは露知らず、ダニエラは上機嫌だ。
――とりあえず何もお咎めなしで万々歳ですわ~。
空中をふよふよとしながら踊っている。
――そ・れ・と。私以外にも同じような方たちがいたのなら、何か元に戻る手段があるかもしれませんわね。
しかし「どうやって手掛かりを探すのか」、誰にも見えないし誰とも話せないダニエラだ。
――せめて声だけでも佐々木チハルに届けれないのかしら?
チハルの耳元で何度も呼びかけたが聞こえてる素振りはなかった。
――ホント不便な体ですわ!……体はないんですけど。
ダニエラはこの数日で自分のできることを確認した。
――私にできること……。
その一。
人も壁もすり抜けられますわ。覗き見し放題ですわね。
その二。
チハルから離れられるのは半径五メートルまで。それ以上はどう頑張っても離れられませんでしたわ。
その三。
チハルが眠ると私も眠れますわ。夜中ひとりで暇にならなくてよかったですわね。
――以上ですわ……これでどうしろと!
ダニエラが頭を悩ませていると。
「ごきげんよう、ダニエラさん」
――「「――」」
チハルに挨拶をしたのは月の乙女――副会長のクララ・フェルナンデスだった。
「ご、ごきげんよう、月の乙女」
言葉を詰まらせながらもなんとか振り絞って答えた。
「……」
「……」
月の乙女は笑顔でチハルを見つめている。
「な、なんでしょうか?」
チハルが話しかけると、月の乙女は「はっ」とした。
「申し訳ございません。ボーっとしてしまいました」
「はぁ……?」
(え? このタイミングでボーっとする?)
チハルは困惑した。
頭の中を疑問符で埋め尽くしていると。
「え~っと……どうかしましたか?」
「はへ?」
思わず変な声が出た。
先に話しかけてきたのは月の乙女で、かと思えばボーっとして、「どうかしましたか?」ときたもんだ。
(どうかしましたか? と言いたいのは私ですが……)
チハルは問いたいが、相手はこの学院のトップのひとり月の乙女。
そんな人に問えるはずもない。
(誰か助けて~)
――な、なんとも捉えどころのないお方ですわね。
チハルと月の乙女のやり取りを見ていたダニエラも困惑していた。
――一体、佐々木チハルになんの用が?
ダニエラが月の乙女の周りを漂うと、それを追うように月の乙女が視線を巡らせる。
(え? なに? 何を見ているの~)
月の乙女が猫のように何もない所を目で追うのを見てチハルは恐怖した。
――ん?
ダニエラも視線に気づき、改めて周りをふよふよと移動する。
――私を見ている? もしかして私が見えてますの?
月の乙女の顔の目の前で話しかける。
「……」
反応はない。
――き、気のせい?
もう一度辺りを漂うと、やはり目で追っている。
ダニエラは確信した。
――私のことが見えてますのね!
「あ、あの!」
チハルは恐怖に耐えられず思い切って質問してみる。
「い、いいいいいったいな何をごごごご覧になっているいるのでしょうか?」
声が震えた。
何を見ていたか想像してチハルの言葉がぐちゃぐちゃになって飛び出してきた。
「ダニエラさんの周りには不思議な魔力の塊が漂っていますね」
「ふ、不思議な魔力の塊?」
(まさか……)
「はい、霊体に近い物を感じますね」
「ひっ……」