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第1話

 友達ゼロ歴=年齢。

 こんなことになってしまったのは……きっと離島生まれであるせいに違いない。島の学校では、同学年のものがおらず、クラスメイトとは年が離れていたため微妙に反りが合わず、親の反対を押し切って都会の学校に通っている今は口を聞けるものが殆どいない。

 都会に憧れを抱いていたのだが……

 甘かった。そして寂しかった。

 島の外に出てから余計に友達作りが難しくなった気がする。都会怖い。

 そんな俺がVRMMOの存在を知ることになったのはテレビのコマーシャルでのこと。

 ゲームなんか録にやったことのない俺とは縁のないものだと思い、当初は大して興味がなかったのだが……


 ある日。つむぎ姉さんが俺が一人暮らししていた家に訪ねてきた。――つむぎ姉さんは俺よりも早く都会に進出していてこっちでの友達も多い。何故、姉弟でこうもコミュ力に差があるのかはわからないが、正直羨ましい。

 で、そのつむぎ姉さんはこう言った。


「一緒に暮らそ」


 俺は色々葛藤したのだが……結局強引なつむぎ姉さんに押し切られてしまった。


「家賃代わりにVRMMOセットを提供するから」


 とのことだ。言ってることがちんぷんかんぷんだ。

 なので俺は問い掛けた。


「なにゆえにVRMMO……? てか、弟と同棲って……」


 言いづらいが聞いておきたいことがある。話が逸れてしまいそうだが、大切なことだ。


「――えっと……彼氏とかいいの?」


 いたら、まずい。俺が弟であるとはいえ、まずい。


「友達いないんでしょ?」


 手痛いしっぺ返しを食らった。


「な、なんでその事をつむぎ姉さんが!」


 俺は慌てに慌てて、一瞬のうちにVRMMOのことを忘却に追いやってしまう。俺の秘密を知られてしまったのだ。それどころではなかった。


「ここに君のスマホがあります」


 畳み掛けるように、つむぎ姉さんがスッとスマホを出した。――しかもそれは俺のスマホときた。


「なんでつむぎ姉さんが俺のスマホを……」


 驚きが心中を埋め尽くしているせいか、か細い声が出た。

 そんな俺の疑問をスルーし――声のボリュームがちっちゃかったので聞こえなかった可能性もあるが……――、つむぎ姉さんは続けた。


「そして、ロックはかかっていません。つまり……」


 つむぎ姉さんは勿体ぶるが、俺は事情を察した。


「そういうことかよ!」


 俺はスマホをふんだくりながら絶叫した。


「そういうこと」


 まったく悪びれず様子もなく言う、つむぎ姉さん。

 人のスマホを勝手に見るなんてプライバシーの侵害だとは思ったのだが、つむぎ姉さんを叱りつけるなんて色々無理だった。つまり俺の行く先は泣き寝入りしかない。


「なんということだ……」


 がっくしと膝をついた俺。そんな俺の顔を覗き込むように前屈みになってくすくす笑うつむぎ姉さん。……なぜ、笑う!

 つむぎ姉さんは意地悪な顔をして俺の鼻頭をつんとつく。


「というのは、冗談で。よもぎから聞いたの」


 と言って、つむぎ姉さんはスマホのメール画面を出した。

 そこに書かれていたのは……


『お兄ちゃん都会でぼっち(笑)。

 だから毎日のように連絡くるんだよ……(やれやれの顔文字)

 捨てられた犬みたいな感じでかわいそうだから気にかけてあげて』


 妹――名をよもぎという。が書いたと思われる文面だ。煽っているような文面に歯軋り。(笑)だとか顔文字がイラッときた。毎日連絡していた俺も俺なのだが……。

 というか……、最後に優しさが垣間見えるのが憎い!


「よもぎぃぃぃぃぃぃ!」


 つむぎ姉さんがプライバシーを侵害していた方がまだましだったと思えるくらいに憤慨した俺は怨嗟を込めに込めて妹の名を叫んだ。


「――呼んだ。お兄ちゃん」


 よもぎが一糸纏わぬ姿で、風呂場の方からひょっこり現れた。


「よもぎぃ!?」


 俺は素っ頓狂な声を出してしまう。そんな格好で何華麗にポーズ決めてるんだよ! 恥じらいを持て、恥じらいを!


「あれ、よもぎも来てたんだ?」


 つむぎ姉さんは完全に順応している。妹が素っ裸で出てきても驚かないらしい。妹がそんな格好で出てきたら、普通咎めるだろ、弟の前だぞ!? ……これじゃあ俺のリアクションがおかしいみたいだ……。


「あっ、お風呂借りたよ」


 俺の叫びを完全スルーし、そんなことを言うよもぎ。貸した覚えはないのだが……――それはまあ置いといて。


「お、おま、そんなかっこで恥ずかしくないのか! 服を着ろ! 服を!」


 喚きたてた。素っ裸でいられるのは色々まずい。


「ああ、ごめん。思春期お兄ちゃんには刺激が強かったね」


 と言って、引っ込んだ。

 まったくもう……。いくら妹だとはいえ、おなごの裸をこれ以上直視するのは危険だ。

 ……そう思っていたら、よもぎが下着姿で再登場。


「って、なーんで下着姿で出てくるかなぁ……」


 ……キャミソールくらい着てくれ、布面積が足りない。


「慣れなさいよ。これからこれが日常風景になるの。昔もそうだったでしょ」


 つむぎ姉さんは言った。その瞳に宿るのは諦めだった。そういうつむぎ姉さんの部屋着も大概だけどな……。キャミソールだし。

 ともあれ、よもぎは家では裸族なのだ……。と、島暮らしの時も、発言力のある存在(父さん)がいない時に限り裸体を披露していたのを思い出す。恥を知らない痴女である。うっかり宅配にでも出たら猥褻物陳列罪に処されそうだ。――わりと人見知りなので出ることはないが。

 サービス精神旺盛なのは良きことではあるが、ずーっとそんな姿だと目のやり場に困るのでやめてほしい。咎めると、流石に下着は着てくれるが油断すると脱ぐから注意が必要だ……。ちなみに、人が訪ねて来たときはちゃんと着る。


「ねえ。着替えどうしよ」


「タンス空いてるみたいだから詰めちゃっていいんじゃない?」


 ――ん?

 思考から意識を呼び覚ましたのは、姉妹の話し声だ。

 見ると、お尻が見えた、俺のタンスに勝手に服を詰め込んでいるらしきことがわかる。


「おいおい……住み着く気か?」


「その通り」


 よもぎが片目を瞑って人差し指を立てる。指にパンツが引っ掛かっていた。脱いだわけではなく詰め込み途中の奴だ。てか、堂々とこっちに見せなくてよろしい。それを言ったら、常時下着姿の時点であれなのだが……。


「……」


 こうなると俺に拒否権はない。姉妹と不仲というわけでもないので、拒否する理由もないが……。

 こうして俺は済し崩し的に姉妹と生活を送ることになった。


 俺も手伝い、姉妹の受け入れ体制は万全となってしまった。不本意だが仕方がない。


「助かったよ。お兄ちゃん♡」


 よもぎが抱きついてきた。胸を押し付けてくる。……柔らかい。


「お……、おい引っ付くなよ……」


 とはいえ、俺も男の子である。引き剥がそうとはしなかった。


「いいじゃん。久しぶりの再会なんだよ。もっと喜んだら?」


「つっくんはちゃんと悦んでるわよ」


 つっくんというのは、俺の愛称だ。ちなみに俺の名前はつくし。


「つむぎ姉さんちょっと黙って」


 よもぎにばれちゃったじゃんか。恥ずい。


「私もつっくんとの再会は久々だし――」


 つむぎ姉さんも抱きついてきた。いい香りがする。


「ああ、あったかいわ。こうしてるの好き」


「そうだね。お姉ちゃん、あったかいよね」


「たしかにな……」


 俺は、幸せな気分に包まれていた。都会で人恋しかった俺には深く染み渡る。


「というわけで――」


 つむぎ姉さんが手をパンと打ちならした。


「――皆でVRMMOやりましょうか」


「……どういうわけだよ」


 なんかVRMMO始めることになったぞ。

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