「夜」by よあけのまくらもと
「夜」
ふと、懐かしい風の音がした。呼ばれた気がした。
私は灯りを消す。夜が手を振っていた。こちらも手を振って駆け寄る。
「久しぶりだね。元気だった?」
夜はこの間話した時よりもっと暗く、色濃くなっていた。
「やっぱり会うたびに暗やんでいくね。」
私が笑いながら話すと、夜も苦笑いしながら言った。
「そういう君はまた眩しくなったなあ。」
しばらくいつものように夜の話を聞いていた。
誰かに背を向けた日のこと。何かを失った日のこと。
深く、色濃く残る、後悔。
どうしようもなく襲われる、虚無感。
ずっと、ずっと苛まれる、罪悪感。
過ちを省みながら、一緒に涙を溢しながら、暗やみに溶け込んでいく。
「でもね。」
私は夜に語りかける。
「俺は夜がいるおかげで、今の自分として生きていられているんだ。夜が暗やんでいくほど、より今を明るく噛みしめられる。ありがとう。そしてごめんね。」
私は夜の涙を手で拭った。
「俺はこれからも夜と共に生きていくよ。会いにきて、一緒に泣くよ。絶対に忘れないし、忘れちゃいけない。夜のいない俺は俺じゃないから。」
私は夜の手を解いて、立ち上がる。
「俺、夜のこと、嫌いじゃないぜ。」
夜は笑っていた。私も笑って、手を振る。
「じゃあな。また会いに来るよ。」
気がつくと夜明けだった。枕元に光が差し込んできていた。
おそらくこれからも私は夜に会いに行く。この先の人生がどんなに眩しくても、ときに夜に向き合い、思いを馳せるその時間が、夜が、今とこれからの自分を照らし続けていく。
また今日も懐かしい風の音がする。
夜が、更けていく。




