第三章第16話 いっぱいやっつけました
2021/11/23 セリフ回しに不整合があったため修正しました。
それからしばらくゴブリンたちを狙い撃ちにしていると、ゴブリンたちはパニックになって逃げ惑うようになりました。そんなゴブリンたちが射線に入ったところをあたしは魔力弾で撃ち抜いていきます。
そうこうしていると、王太子様が騎士の人たちを引き連れてあたしが狙撃しているゴブリンの集団のところにやってきました。
王太子様は先頭に立ってゴブリンの群れに突入し、次々と打ち倒していきます。
あの王太子様って、決闘させられたときもそうでしたけどこういうシチュエーションのときだけは立派に見えるんですよね。
いつもはあんなですけど。
あの気持ち悪い視線さえ直してくれたら素敵な王子様、かもしれません。
……あれ? でもよく考えたら偉い人が先頭に立つのは当然なような?
あっと! 魔力弾!
あたしは王太子様を後ろから狙おうとしていたゴブリンの頭を撃ち抜きました。
危ない危ない。ちゃんと言いつけどおりにゴブリンを倒さないと何をされるか分かりませんからね。
あれれ? 王太子様? 何びっくりしているんですか!? 他の騎士の人たちも!
まだまだゴブリンが向かってきてますよ!?
もう! 仕方ないです。
射線をずらして、えい!
あたしは魔力弾で別のゴブリンを撃ち抜きました。
それでまだゴブリンたちがたくさんいることを思い出してくれたのか、王太子様たちは一斉に襲ってくるゴブリンたちに向き直って戦いを再開しました。
それからはあっという間でした。あたしの出番もなくゴブリンの群れは殲滅され、王太子様たちはそのままゴブリンを探して森の中へと向かっていきました。
えっと、あたしも他のゴブリンを……って、あれ?
突然、ホーちゃんの視界が途切れてしまいました。
「あ……」
この感覚は……。
「ローザ? どうしたの?」
「えっと、すみません。MPを使い切っちゃいました」
「そっか。森の中に何発も撃っていたもんね。休むかい?」
「はい」
こうしてあたしはヴィーシャさんに支えてもらいながら屋根を降り、休ませてもらうことになったのでした。
◆◇◆
それから一時間くらい経ったころでしょうか。全身が血まみれの王太子様たちが戻ってきました。
「ひっ!?」
「殿下! 大丈夫ですの?」
「ち、治療を……」
あたしは思わず悲鳴をあげ、レジーナさんとリリアちゃんは王太子様を心配します。
「問題ない。全て返り血だ」
「え?」
「変異種はおろか上位種すらいなかった。いくら数が多いとはいえ、ただのゴブリンなど敵ではない」
「ですが殿下。五百を超える数だったんですわよね?」
「ああ、そうだ。だがあれは間違いなく統率などされていなかった。理由は分からんが、数十もの小さな群れが我々を狙ってたまたま同じ日にやってきたとしか考えられん」
「そんなことって……」
王太子様の説明にレジーナさんが絶句しています。
「常識ではありえん。だが、たしかに上位種も変異種もいなかった。あり得ないことが起こった以上、休暇はすぐに切り上げて戻るべきだろう」
「……そう、ですわね」
えっと、よく分からないんですけど、あの親玉ゴブリンみたいなやつがいなかったってことでしょうか?
「それとローザ、話がある。レジーナとヴィクトリア嬢以外は席をはずせ」
「え?」
「わかりましたわ」
王太子様が場を仕切り始めたと思ったらいきなり他の人たちを追い出してしまいました。
あたし、何か悪いことをしちゃったんでしょうか?
もしかしてMP切れになって休んでいたのがいけなかったんでしょうか?
ど、ど、どうしましょう?
そうして他の人たちがコテージから出ていくと王太子様が話を切り出してきました。
「よし。ではローザ、お前はコテージの屋根からゴブリンを狙っていたはずだな?」
「は、はい」
「だが、コテージの周囲にはゴブリンの死体はなかった」
ま、まずいです。これはきっと、あたしが仕事をしていないって怒っているに違いありません。
「あ、えっと、その、森の奥にいるゴブリンを、その、ホーちゃんに助けてもらって、えっと、こう、狙って、その、魔力弾っていう魔法でこう、撃ち抜いていたら、えっと、MPが無くなっちゃって……あ! でも王太子様が襲われそうになったときのゴブリンはちゃんと倒しました! それに、そのあと襲ってきたゴブリンだってちゃんと! それからも、その援護しようと思ったんですけどMPが……」
あ、あれ?
必死に頑張りを説明したのですが、王太子様もレジーナさんもポカンとした表情を浮かべています。
隣にいるヴィーシャさんをちらりと見てみると、やっぱりヴィーシャさんも唖然としている様子です。
えっと? えっと?
「ヴィクトリア嬢はずっとローザの隣にいたのだな?」
「はい。私はコテージの上でローザと共におりました」
えっと?
どうしてそんな質問をされているんでしょうか?
よく分かりませんが、レジーナさんと顔を見合わせて小さく頷いた王太子様が私に質問をしてきました。
「つまり、ローザはコテージの屋根にいたにもかかわらず森の中の様子を目で見ることができたのだな」
「は、はい。あ! その、えっと……」
「分かった。ローザ、それのことは他言無用だ。ヴィクトリア嬢も、いいな?」
「は、はい」
「かしこまりました」
「下手をすれば命が危ない。これと比べたら収納を持っていることなど些細な話だ。ここでもこれ以上話すべきではない。ローザはコテージの屋根からでなく、森の中で木の上から攻撃していた。いいな?」
「かしこまりました」
あの? どうしてそんなに大事になっているんでしょうか?
「ローザ、あなたオーデルラーヴァに身寄りはあって?」
「えっと、家族はいないです」
「ああ、そうでしたわね。わかりましたわ。ローザ、あなたのことはこのわたくしが庇護しておりますわ。安心なさい」
「は、はい」
「近いうちに、わたくしの父と会う機会を設けますわ。殿下も、よろしいですわね?」
「はい」
「ああ、そうだな。話がまとまったら揃って城に来るといい」
「ええ。必ずや」
なんだかよく分かりませんけど、あたしの知らないところで何かが決まっているような気がします。
ヴィーシャさんをちらりと見ると、にっこりと微笑んでくれました。
ええと? これはあたしを安心させようとしてくれているんでしょうか?
次の瞬間、得も知れない悪寒が背筋を駆け抜けます。
「いてっ! おい! レジーナ!」
「踏んでいるんですわ! そんなことをしている暇があるなら早く血を洗ってきてくださいます?」
えっと、はい。その、はぁ……。





