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第三章第6話 牧場遊びをしました

2021/10/15 ご指摘いただいた誤字を修正しました。ありがとうございました

「ごきげんよう。ネダ・ギレカと申しますの」


 レジーナさんが来た翌日、レジーナさんのお友達のネダさんがやってきました。ギレカ伯爵という偉い人の娘で、茶色い髪に黒い瞳の優しそうなお姉さんです。


「はじめまして。ローザです」


 リリアちゃんとヴィーシャさんも挨拶をしています。


「ネダはわたくしより一歳年下で、来年魔法学園に入学予定ですのよ」


 レジーナさんはあたしより三歳年上なので、ネダさんは二歳年上ですね。


「はい。ですから、皆様はわたくしの先輩になりますの。よろしくお願いいたしますの」

「えっ? あ、えっと、はい。よろしくお願いします。ネダ様」

「はい。ローザさん」


 あたしがそう返事をすると、ネダさんは優し気に微笑みました。


「レジーナ様。早速、いつものをやりに行きますの」

「そうですわね」

「いつもの、ですか?」

「ええ。いつもの、ですの。とっても楽しいんですの」

「ローザ。見てのお楽しみですわ」


 あたしはそう言われてリリアちゃんとローザちゃんと顔を見合わせます。


「さあ、早く行きますの」


 ウキウキした様子のネダさんを追いかけるようにあたしたちは歩き始めたのでした。


◆◇◆


「うわっ! おっきい……」


 あたしの目の前には、あたしの背丈よりも大きな白と黒のまだら模様の動物がいます。


 時折「モォ~」と呑気な鳴き声を上げるこの動物をあたしは知っています。これは、ホルスタインっていう動物なはずです。だって、あの不思議な夢で見た記憶がありますから。


「すごいね。ローザちゃん。牛だよ」

「リリア、これはただの牛じゃないよ。乳牛っていう種類だね」

「あら、ヴィーシャ。よくご存じですわね。この子はベアニーヌという、このベアヌ高原に生息していた牛をミルクの産出に特化するように品種改良した牛種の子ですのよ」


 あれれ? ホルスタインじゃなかったみたいです。


「フランソワーズ。今年も来たんですの」

「モォ~」


 ネダさんは嬉しそう牛さんに頬ずりをしています。フランソワーズと呼ばれた牛さんもまんざらではなさそうです。


「モォ~」

「あら? フランソワーズ、どうしたんですの?」


 牛さんがあたしのほうにやってきました。


 う、大きい。ちょっと怖いかもしれません。


 そして牛さんはあたしのほうに顔を近づけてきます。


 え、えっと……。


 ベロリ。


 生暖かい感触があたしの顔面に……。


 あ、ちょっと臭いかも?


 って、あれ? な、舐められた!?


 ベロリ。ベロリ。


 うひっ!? 舐めまわされてる!?


「ちょっと、フランソワーズ? 何やっているんですの? ローザさんは食べ物じゃないんですの!」

「わわわ、すみません。お嬢様! こら、フランソワーズ。お嬢様のお客様に何しとるだ」


 慌てて飼育員さんが出てきて牛さんを引き離してくれました。あたしの顔は牛さんのよだれでべとべとです。


「さ、お嬢様。こいつで顔を拭いてくだせぇ」

「ありがとうございます」


 飼育員さんがタオルを持ってきてくれました。あたしはお礼を言ってタオルを受け取ると、べとべとになった顔を拭きます。


「おかしいですわね。フランソワーズは普段こんなことをする子じゃないはずですのに……」


 レジーナさんはそう呟いて首をひねっています。


「さすがローザちゃんだね。ユキちゃんもホーちゃんも、普通は従魔にできない子なんでしょ?」

「そうらしいですけど、あたしはよく分かりません」

「でもほら。きっとローザちゃんは魔物に好かれる体質だから、従魔になってくれたんだよ。それと同じで牛にも好かれるんじゃないかなぁ?」

「ああ、それはありそうですわね。フランソワーズもローザのことが嫌いなわけではないようですし、このまま続行ですわ」

「あ、はい」


 続行と言われてもあたしたち、何をするか知らないんですよね。


「さ、用意はできているかしら?」

「ええ、もちろんです」


 そう言って飼育員さんは金属製のバケツを持ってきてくれました。


「ネダ。あなたから始めてよろしくてよ?」

「よろしいんですの? わたくし、嬉しいんですの」


 嬉々としてバケツを持ってネダさんは牛さんのところへと行くと、バケツを牛さんのお腹の下に置きました。


 何をやるんでしょう?


 近づいて見てみると、なんと牛さんのおっぱいをつまんでミルクを絞り出しています。


 あっ! すごい! これ、乳しぼりっていうやつですね!


 初めて見ました。こんな風にミルクは絞られていたんですね。


 すごい。本当にすごいです!


「あら、ローザ。そんなに乳しぼりが珍しいんですの?」

「はい! 初めて見ました。すごいです!」

「そう。じゃあ、次はローザ。あなたがやってよろしくてよ?」

「ありがとうございます! ……あ。また、舐められたりしないでしょうか?」

「ああ、そうですわね。ちょっと! きちんと抑えておいてくださる?」

「へいっ!」


 レジーナさんの命令で、飼育員さんが牛さんをなだめるようにしてその頭を抱きかかえます。


「さ、今のうちですわよ」

「やり方を教えてあげますの」

「お願いします。ネダ様」

「はいですの。ローザさん。まずはそこの乳首を掴むんですの」

「こうですか?」


 温かい牛さんの体温が伝わってきます。


「ああっ! 違うですの。こう、親指と人差し指で輪っかを作るんですの」

「こう、ですか?」

「そうですの。フランソワーズの乳首の根元をしっかり握って、それから輪っかをしっかり絞るんですの」

「こうですか?」

「そうですの。そうしたら後は中指、薬指、小指と順番に握るんですの」

「はい」


 あたしが言われたとおりにすると、乳首からピューっと温かいミルクが勢いよく出てきて置かれたバケツに溜まりました。


 あ! すごい! すごいです!


「後は、それを繰り返すだけですの」

「はい!」


 これ、とても楽しいです。あたしは夢中でミルクを絞り出します。


「ローザ。そろそろ終わりですわ」

「え?」

「リリアやヴィーシャの分がなくなってしまいますわ」

「あ……」


 名残惜しいですが、あたしは牛さんの乳首から手を放して場所を譲ります。


 するとリリアちゃんとヴィーシャさんが乳しぼりをして、最後にレジーナさんがして乳しぼりは終わりとなったのでした。


 それにしても乳しぼりがこんなに楽しいなんて思いませんでした。将来は牧場で乳牛を飼うのもいいかもしれませんね。

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― 新着の感想 ―
[一言] 乳しぼり下手な人はホントに下手なそうで(やったことある
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