第三章第4話 模擬戦をしました
「ローザの嬢ちゃんはテイマーって聞いてるが、そのおチビちゃんたちが戦力なのか?」
「えっと? えっと?」
「わかったわかった。じゃあ、ちょっと離れて立っててやるからな。そんで、ローザの嬢ちゃんから先に攻撃していいぞ」
「はぁ」
よくわかりませんが、ロバートさんは歩いて二十メートルくらい離れた場所に移動しました。
「ほら。いつでも攻撃してきな」
「あ、あの? えっと?」
「おーい。どうした?」
「ヴィーシャさん。あたし撃っちゃっていいんでしょうか?」
「え? ああ。そうだね。ピーちゃんが治せる程度ならいいんじゃないかな? もうローザが魔法使いってこと、偉い人はみんな知ってるだろうしさ」
「はあ。じゃあ」
あたしはロバートさんが手に持っている剣を目掛けて炎弾を撃ち込みます。
ガキイィィィン。
ものすごい音ともにロバートさんの持っている剣がはじけ飛びました。
「なっ!? 今のは一体!?」
一瞬呆けたような表情になりましたが、ロバートさんは一気にあたしに向かって距離を詰めてきます。
あ、えっと? 炎弾は……ダメ! 大怪我させちゃいます。
迷っている間に近寄られ、ロバートさんはあたしの服をつかもうと手を伸ばしてきました。
「シャーッ」
ユキが威嚇をするとロバートさんの足に思い切り噛みつきました。
「ぐおっ!?」
ユキの噛んだ場所が少し凍っています。
「うおっ! 上からもかっ!?」
ロバートさんは慌てて伸ばしてきていた手を引っ込めるといつの間にか上空いて、ロバートさんの背後から襲い掛かったホーちゃんを振り払いました。
あたしはその隙に数歩下がって距離をとりますが、ホーちゃん必殺の奇襲が通じませんでした。
ロバートさんはユキを力づくで振り払うとまたあたしに向かって手を伸ばしてきました。
あ、捕まる……。
そう思ったのですが、今度はピーちゃんが飛びついてロバートさんの足に絡みつきます。
だけどロバートさんは全く気にする素振りも見せず、あたしの服を掴んで力づくで引き寄せます。
「あっ!」
「……おっと、悪いな。ローザの嬢ちゃんの一発があまりにも強かったんでつい、な。申し訳ない。ここまでやるつもりはなかった」
そう言ってロバートさんはあたしの服を放してくれました。
「それと、手加減なんて言ってすまなかった。ローザの嬢ちゃんは、やる気なら最初の一撃で俺を殺せていたな。舐めたことを言って申し訳ない」
「え? え? あの? えっと?」
「ただ、ローザの嬢ちゃんは近づかれたら終わりなのがちょっとまずいな。もうちょっと大型の盾にできる魔物を従えたほうがいいかもしれないぞ。あとはローザの嬢ちゃん自身が動けるようになってないと、いざってときに数で押し込まれるかもな。こんだけ強力な魔術が使えるなら、真っ先に狙われるはずからだ」
「え、えっと……」
でも、ユキたちはお友達なので盾になんてしませんよ?
「まあ、でもこんだけ強いなら安心だな。敵の数が多いときは頼るかもしれねぇが、よろしく頼むぜ」
「は、はい」
「といっても、魔物は俺たちが定期的に駆除しているから出てもゴブリンくらいだろうがな」
「はぁ」
よくわかりませんが、もういいんでしょうか?
「いやぁ。しかしその猫、魔物だったとはなぁ。なんて魔物なんだ?」
「え? えっと、たしかスノーリンクスっていう種類だったと思います」
「は!?」
ロバートさんが固まりました。
「あ、あの? もしかして何かおかしかったんですか?」
「おかしいに決まってるだろ! どうしてスノーリンクスが従魔になってるんだ! 雪山で出会ったなら確実な死が待っていると言われているあのスノーリンクスだぞ!? 従魔になったなんて聞いたことがねぇ!」
「え? え? で、でも! ユキはあたしのお友達ですから! ユキは優しい子で、怖い子じゃありません」
「……」
ロバートさんはあたしとユキをじっと見つめ、それから肩をすくめると大きくため息をつきました。
「ま、だからお嬢様のお客なんだろうな。噛まれたところが少し凍ってやがったし、事実なんだろうよ。それにある程度は自分の身は守れそうだしな。今は信用しておこう。変なことを言って悪かったな」
「はぁ」
なんだかちょっとムッとはしてしまいますが、そういうものなんでしょうか? ツェツィーリエさんも、ホーちゃんは普通従魔にならない種類の魔物だって言っていましたしね。
でもですね。あたし思うんです。あの先生が言っていたみたいな、無理やり従えようとするのがいけないんじゃないでしょうか?
だって、あたしたちはお友達ですから。そうやって他のテイマーさんたちもお友達になればいいだけだと思うんです。
うん。そうに決まってます。
そんなことを考えていると、リリアちゃんがおずおずとロバートさんに声をかけました。
「あの、ロバート様」
「うん? どうした?」
「足のお怪我、治療させてもらえませんか? まだ簡易治癒しかできないんですけど……」
「おっ? もしかして光属性なのか? それじゃあぜひお願いしようかな」
「はい」
リリアちゃんはそう言うとユキの噛みついた傷痕に手をかざし、詠唱を始めました。
「簡易治癒」
暖かな光が血のにじんでいるロバートさんの足を包み込み、やがて傷口はきれいに塞がったのでした。
やっぱりリリアちゃんはすごいです。あたしもあんな風に怪我を治せるようになるんでしょうか?
不安ですけど、ツェツィーリエさんの授業を受けるのが楽しみです。