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第79話 ツェツィーリエさんはすごい人でした

2021/07/24 ご指摘いただいた誤字を修正しました。ありがとうございました

 十体に増えたゴーレムたちはあたしたちのほうへとゆっくり歩いてきています。


「おい、ローザ。無暗に破壊するなよ? これ以上増えられてはたまらん」

「で、でもどうすれば……」

「……ゴーレムは核を壊せば倒せるはずだ」

「核ってどこにあるんですか?」

「知らん。あれを作ったのは俺ではない。この女ならば知っているかもな」


 そう言って王太子様は床に寝かせられたバラサさんをちらりと見ました。


 それからすぐにあたしの胸に視線を戻そうとしてきたので、体を横に向けてマントで体のラインを隠します。


 するとようやく自分のしていたことに気付いたのか、視線をこちらに向かってゆっくり歩いてくるゴーレムに戻しました。


「でも、この様子じゃバラサさんは……」

「長くはもたんだろうな。……そうだ。今のうちに叩き起こして話だけ聞いておくか」


 そう言って王太子様はバラサさんの頭に手を置きました。


 するとバラサさんの体がビクン、と跳ねます。


「あ、い、痛い痛い痛い痛いぃぃぃぃ」


 目が覚めたらしいバラサさんは大声で叫びます。太ももがひどいことになっていますから、ものすごく痛いんだと思います。


「おい! あのゴーレムは何だ? コアはどこだ?」

「あ、い、ひぃぃぃぃ」


 ですが、バラサさんは顔面を恐怖と苦痛で歪めていてとても会話ができる状態ではなさそうです。


「ちっ。ならば仕方ない。おい! ツェツィーリエ先生が来るまでこの女を守れ」

「え?」

「俺がゴーレムを引き付ける!」

 王太子様はそう言って一人で闘技場の中へと戻っていきます。そしてわざと近づいたり離れたりをしながらゴーレムを巧みに闘技場の中央へと誘導していきます。


 なんだか、すごいです。


 あの人がおっぱい王子じゃなければかっこいいと思ったかもしれません。


「ローザちゃん!」

「大丈夫かい?」

「え?」


 なんと、リリアちゃんとヴィーシャさんが来てくれました。


「避難したんじゃ?」

「友達がいるのに避難なんてできないよ。ローザちゃんも一緒にって、え? バラサ……男爵令嬢?」

「うわ……」


 リリアちゃんとヴィーシャさんが私の足元にいるバラサさんを見て絶句しました。バラサさんはいつの間にかまた失神しています。


「あ、これは……ううん! 簡易治癒」


 リリアちゃんがバラサさんに治癒魔法を掛けました。


 でも、簡易治癒ってたしかちょっとした擦り傷とか切り傷を治せるくらいだったはずです。


 こんな重症じゃきっともう……。


「ねえ、ローザ。どうしてゴーレムがあんなに増えているんだい? それに、どうして王太子殿下が一人で戦ってらっしゃるの?」

「それは……あたしが攻撃して増やしちゃったから……」

「わかった。私だって騎士を目指す身だ。殿下お一人に戦わせるわけにはいかない。二人はここに隠れているんだ! 殿下! 助太刀します」


 ヴィーシャさんは剣を抜くと闘技場の中に飛び出していきました。


「あ、あたしは何をしたら……」

「心配ありませんよ。ローザ嬢」

「公子様? あ、それにレジーナ様と……ツェツィーリエさん?」

「はい。久しぶりだねぇ、ローザちゃん。わたしが紹介したせいで大変なことに巻き込まれてしまったみたいだけれど、よく頑張りました」

「あ……」


 ツェツィーリエさんは優しくそう声を掛けてくれると、あたしのことをそっと抱きしめてくれました。


「う、ツェツィーリエさん……。う、う、うぇぇぇぇぇぇぇ」


 何だか、安心したせいか涙が止まらなくなってしまいました。あたしはツェツィーリエさんに縋りつき、大声で泣いてしまったのでした。


◆◇◆


「さ。少し離れてくれるかしら?」

「う、は、はい」


 ちょっと恥ずかしかったです。こんなところで大泣きしちゃうなんて!


 別にツェツィーリエさんとはものすごく親しかったわけじゃないのに、どうしてでしょうか?


「さ、次はこの娘の治療ですね。リリアちゃんと言ったかしら? 諦めずによく治療をしようとがんばりました」

「え? どうしてあたしの名前を?」

「そりゃあ、これから見る生徒の名前くらいは知っていますよ」


 え? 生徒? そういえば王太子様はツェツィーリエさんのことを先生って呼んでいたような?


「これだけの大怪我ですと、特大クラスの治癒魔法を掛ける必要があります。まだあなたには難しいでしょうけど、よく見ておいてくださいね」


 ツェツィーリエさんはそういってバラサさんの体に触れると詠唱を始めました。


 少しするとツェツィーリエさんの体から暖かい光が漏れ、バラサさんの体を優しく包み込みました。


 するとひどい状態だったバラサさんの怪我がみるみる治っていきます。


 す、すごい……!


 その光景に見とれているうちに、バラサさんの怪我はまるで何事もなかったかのようにきれいに治ってしまいました。


「はい。これでもう大丈夫よ」


 そう言ってツェツィーリエさんはにっこりと笑いました。


「あ、あの! もしかして光属性の魔術を教えてくれる先生って……」

「そう、わたしのことですよ。リリアちゃん。ツェツィーリエ・イオネスクというの。来期からはよろしくね」

「は、はいっ!」


 リリアちゃんはすごく嬉しそうな表情をしています。


 でも、ツェツィーリエさんだったらあたしも一緒に教わりたい気もします。だって、なんだかツェツィーリエさんはすごく親切で優しいですから。


「さて、今はあれを何とかしなくちゃいけませんね。ゲラシム先生はまだですか?」

「今、学園長先生が大急ぎで呼びに行かれていますわ」

「そう。レジーナさん。それじゃあ、まずはあれが動き回れないようにしましょう」


 ツェツィーリエさんはそう言って闘技場の中へと向かって一歩を踏み出したのでした。

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