第55話 入学しました
どうもおはようございます。ローザです。四月になり、あたしは晴れて魔法学園の生徒になりました。
あたしは今、真新しいブレザーとマントというとっても魔法学校の生徒っぽいのにすごくカワイイ格好をしています。
えへへ。実はこれ、制服なんです。とってもカワイイのであたし気に入っちゃいました。
真っ白なブラウスの上にロイヤルブルーのジャケットと黒のプリーツスカート、そして上には外側が黒で裏地がワインレッドのマントを羽織るというコーデです。このマントにはフードもついているので寒い日も安心なんですよ。
それから細身でおしゃれなワインレッドのリボンタイがあたしの襟元を飾ってくれています。このリボンタイの色は学年で分かれていて、あたし達の学年がワインレッド、二年生がライトブルーで三年生がグリーンなんだそうです。
ただスカート丈が膝上と短いのでちょっと恥ずかしいです。一応、肌が見えない様に黒のしっかりしたシルクのタイツを履いてさらに靴も黒のしっかりしたレザーブーツです。スカートが短いのは、授業で激しく動くことがあるのでロングスカートだと支障をきたすからなんだそうです。
それと驚いたことにですね。この制服一式がなんと全部魔道具なんです。しかもちょっとやそっとじゃ破れないというだけじゃなくて、対魔法防御から耐火防寒防汚まで施されているんです。
これ、普通に入学していたらいくらかかったんでしょうね?
あたしの場合は特待生なので全部無料で貸与してもらっているので大丈夫ですが、そうじゃなければレンタル料を支払うか買うかのどちらかになっていたみたいです。だから、特待生にしてもらえていなければ絶対に通えなかったですね。
あとこの制服なんですが、魔法学園の生徒は学園の外でも身につけていることが義務付けられているんです。ただ、制服を着て歩いている生徒を学園の周りでは見かけたことはあるのですが、町中では見かけたことがないんですよね。
学園の生徒は町にお出かけするときはどこに行っているんでしょうね?
「おはよう、ローザちゃん、かわいいね」
「おはようございます。リリアちゃんこそすっごく似合ってますよ」
「えへへ。ありがとう」
リリアちゃんが嬉しそうにはにかんでいますが、その表情もまたとても可愛いです。
さて、あたしはリリアちゃんと一緒に入学式の行われる大聖堂へと向かって歩きだしました。
この学校、なんと敷地の中に正教会の大聖堂があるんですよ? すごいと思いませんか?
あたしはそこまで熱心ではないんですけど、人によってはよくお祈りをしに行きますからね。それが学園の中でできちゃうなんてすごいと思います。
「ローザちゃん。なんだかあたしたち、すごい見られてるよ?」
「え?」
あたしが周囲を見渡してみると確かに視線が注がれています。
男の子の視線は……はあ。また胸ですね。
女の子は……あ! もしかしてユキ達でしょうか?
まだ寮に入れなかったので、荷物だけ預かってもらってユキたちはこうして連れているんですよね。
今日は鞄を背負っていないのでおねむのホーちゃんは抱っこ、ピーちゃんはいつもどおりに頭の上でユキは自分で歩いています。
あたしは周囲を見渡してみますが、従魔を連れている生徒は誰もいません。でも、生徒の中にはあたしたちとは色違いな従魔科の制服を着ている子もいます。
ブレザーがダークグレーでスカートとマントの外側が深緑、そしてマントの内側がダークブラウンになっているのが従魔科の制服なんです。ただ、その制服の子たちも従魔を連れていないんです。なんででしょうね?
そんな疑問を抱きつつもあたしたちは大聖堂へと入ります。
大聖堂はとても荘厳で、オーデルラーヴァの大聖堂よりも立派かも知れません。高い天井に彫刻にフレスコ画にと、どれをとっても圧巻の一言です。
そんな立派な大聖堂に圧倒されつつも、あたしたちは新入生の席がある前の方へ適当に座りました。今年の新入生は全部で五十三名。そのうち四十二名が普通科、残りの十一名が従魔科なんだそうです。
あたしたちが着席してからしばらくすると続々と生徒たちが入ってきます。中にはいかにも貴族然とした貴公子やご令嬢っぽい人たちも続々と入場してきます。やっぱり魔法王国の貴族はみんな入学するんでしょうか。
そうこうしているうちに席は埋まり、入学式が始まりました。
えっと、国王様という偉い人が祝辞を述べ、それから上級生らしい王太子様という偉い人が祝辞を述べました。
あたしはもう、何だかボーっとしてしまいました。だって、そんな偉い人が目の前にいるなんてびっくりじゃないですか。
あんまり覚えてないですけど、王太子様という人が美形だったような気は何となくします。
それから新入生代表として何とか公爵の何とかさんっていう人が答辞を述べていました。この人は何だか髪を編み込んでいてすごいなって思いました。
あ、もちろん何を言っていたのかは全然覚えていません。
だって、貴族様ですよ?
そんな、雲の上の存在じゃないですか。本当は頭を下げてなきゃだめで、お顔を見るだなんてあり得ないことですよ。だから、同じ空気を吸っているというだけで気後れしちゃいます。
ただ、この学園は身分の貴賤は関係ないので頭を下げる必要はないそうです。
こうやって実際に体験してみると、何だか本当にすごいところに入学したんだっていう実感が湧いてきます。
こうして何だかふわふわとした気分の中入学式が終わり、あたしたちは寮へと向かいました。
この学園は全寮制で、身分に関係なく男女で建物が分かれている以外は全員同じ場所で寝泊りして同じ食事をとります。
ただ、追加でお金を払えば従者を一人連れてこられるらしくてですね。偉い貴族のご令嬢なんかはメイドさん兼護衛の人を連れてきているんだそうです。
それから、そういう偉いご令嬢たちは管理をしやすいように上の方の階にまとめて割り当てられるのだそうですよ。
貴族のご令嬢だと狙ってくる不埒な輩もいるでしょうからね。きっと警戒するに越したことはないということなのでしょう。
あたしは預けていた荷物を受け取るため、寮母さんのいる女子寮の受付へとやってきました。
寮母さんはアリアドナ・コンスティネスクさんという、おっとりとしたとても優しそうな人です。背はツェツィーリエさんと同じくらいで、あたしよりも 20 cm くらいは高そうです。年齢は多分、 60 歳くらいじゃないでしょうか。
「すみません。荷物を受け取りに来たんですが」
「はい。ローザさんね。あなたのお部屋は 209 です。それと、はい。これがお部屋の鍵。鍵は魔道具になっていて、ドアノブに軽く触れることで鍵が開きますからね。それからこちらは預かっていた荷物ですよ」
すごいです。鍵まで魔道具なんて、さすが魔法学園ですね。
「ああ、ローザちゃんはオーデルラーヴァから留学に来ているのでしたね。分からないことだらけで大変でしょうけれど、わたくしの事はこの学園での母親だと思って何でも相談してちょうだい」
ものすごく優しく微笑んで穏やかな口調でそう言ってくれたので、何だかすごく安心してしまいました。
「はい。ありがとうございます」
それから寮の決まりなどを教えてもらったあたしたちは二階へと上がります。リリアちゃんのお部屋は 261 なのですが、なんと真向いでした。
これならすぐにお話できるので寂しくないですし、ルームメイトがどんな人なのかとても楽しみです。優しい人だと嬉しいのですが……。
「あ、あたしのお部屋はここだね。じゃあ、また後でね」
「はい。また後で」
そう言ってリリアちゃんは自分の部屋へと入っていきます。
さあ、あたしも自分の部屋へと入りましょう。
あたしも鍵を開けると扉を開けて部屋へと入ったのでした。
次回更新は 3/6(土) 20:00 を予定しております。





