第50話 王都にやってきました
どうもこんにちは。ローザです。ツェツィーリエさん達と一緒に乗合馬車でマルダキア王国の王都トレスカにやってきました。
え? 唐突過ぎる、ですか?
すみません。でも道中特に何も無かったんですよ。あの後は冒険者ギルドで売った分のお金を受け取ったらそのまま宿に泊まって、それから備品のお手入れをしたりユキ達と遊んだり過ごしました。そうしたらすぐに約束した日になったので乗合馬車の停留所でツェツィーリエさん達と再会して、後は馬車に乗っていたら着きました。
途中にいくつもの町を経由して十日もかかった長旅でしたが特に何のトラブルもありませんでしたから、良い旅だったと思います。
「ツェツィーリエさん、ラディスラフさん、ありがとうございました」
「いいのよ。こっちこそ助かったわ。それにあなたみたいな可愛い子と一緒だと楽しい気分になるもの」
「そういえばローザちゃんは冒険者をやるんじゃったな。ローザちゃんのとこのピーちゃんが処理した毛皮は質が良いからのう。儂の店に持ってくれば冒険者ギルドよりも高く買い取るぞ」
「本当ですか?」
「もちろんじゃとも。儂はイオネスク商会というところの前の会頭での。あれだけ質の良い毛皮ならいくらでも買い取れるわい。ああ、そうじゃ。売りに来た時はこの紹介状を見せるのじゃぞ」
「はい。ありがとうございます」
もちろんあたしは初めて聞く名前の商会ですが、冒険者ギルドより高く買ってくれるならそっちの方がありがたいですからね。狩りをしたらラディスラフさんの商会に持って行くことにしましょう。
あたしは貰った紹介状を鞄にしまうふりをして収納に入れると、グスタフさんに挨拶をします。
「グスタフさんもありがとうございました。色々と助けてくれて」
「ああ、気にするな」
ぶっきらぼうな感じですがニヤリと笑顔を見せてくれました。
「ところでローザちゃん。良かったら魔法学園を受験してみてはどうかしら?」
なんでこんなに熱心に進めてくるんでしょうか。でも、まだその日暮らしのあたしには学園に通っている余裕なんてありません。
「あたしじゃ入試に受からないですよ。それにお金もないですから」
「そんなことないと思うわ。それに、魔法学園には従魔科っていうテイマー向けのコースもあるのよ? その子達をしっかりと育てるためにも勉強をするのは悪くないんじゃないかしら?」
え? そんなコースがあるんですか?
ユキ達の事を言われるとちょっと心がぐらつきます。
「それにね。入学試験で優秀な成績を修めた子には学費免除に奨学金まで貰える特待生という制度もあるのよ?」
「ええっ! お金が貰えるんですか?」
「そうよ。どう? 挑戦してみる気になった?」
どうしましょう。確かにユキ達のためにお勉強をしながらお金がもらえるならこんなに嬉しいことは無いですけれど、でもあたしなんかが入学試験で合格できるんでしょうか?
それにあたし、学費免除じゃないと絶対無理ですよ?
「でも、受験するだけなら良いんじゃないかしら? きっといい経験になるわ」
「うう、それは確かに……」
「それじゃあ、この紹介状を持って魔法学園に行くと良いわ。きっと良いようにしてくれるから」
「……はい」
何だか説得に押し切られたような形になっちゃいましたけど、ユキ達のためですし受験するだけならいいですよね?
そう考えたあたしはまた渡された紹介状を鞄にしまうふりをして収納に入れました。
「それじゃあローザちゃん、なるべく早く行くのよ?」
「わかりました」
「がんばってね」
「はい」
ツェツィーリエさんとハグをしてから別れると、あたしはまずは宿屋を探します。探しているのは「若鳥の止まり木」という名前の宿屋で、ツェツィーリエさんが値段の割にサービスが良いっておススメしてくれたんです。
というわけであたしは教えてもらったとおりに歩いて来たのですが、見つかりません。かなり人が多いというのもあるんですが、同じような建物が多くてどこがどこやらさっぱり分からなくなってきてしまいました。
かれこれ一時間くらいは歩いている気がしますが、一向に教えてもらったような建物は見当たりません。
ああ、このまま宿が見つからなかったらどうしよう?
まさか町の中で野宿?
いえ、他にも宿屋はあるはずです。あ、でも危ない宿屋もあるって言っていましたし……。
段々と焦ってきて、辺りをキョロキョロと見回していると知らない人から声をかけられました。
「よぉ、嬢ちゃん。迷子か? パパとママはどうした?」
その声に振り向くと、いかにもガラの悪そうな大男の二人組がニヤニヤしながらあたし達に声をかけてきました。
「え?」
これ、明らかにヤバいやつですよね?
直感的に恐怖を覚えたあたしは思わず後ずさります。
しかし男たちはあたしの顔と胸を見てヒュー、と小さく口笛を吹きました。
「俺らが送ってやるからよ。ちょっとイイコトして遊ぼうぜ?」
そう軽薄な調子で言ったこいつの視線は完全にあたしの胸と顔を行き来しています。
ああ、これは完全にダメな奴です。貞操の危機というやつです。
こいつの隣の男はあたしの胸を凝視した後、肩に乗っているユキと頭の上のピーちゃんを見て何かを耳打ちをしました。
するとその軽薄な男はさらに下卑た笑みを浮かべながら少しずつ迫ってきます。
「ひっ。た、助けて!」
あたしが悲鳴をあげますが周りの大人たちは見て見ぬふりをして足早に立ち去って行きます。
こんなに人がたくさんいるのに!
あたしが一歩あとずさり、そして二人は一歩距離を詰めてきます。
そして背中が壁についてしまいました。もう後がありません。
ついにユキが全身の毛を逆立ててシャー、と威嚇を始めたその時でした。
「ちょっと! あたしの妹に何してるんですか!」
そう叫ぶ女の人の声が聞こえたのでした。





