第40話 野宿します
2021/01/16 ご指摘いただいた誤字を修正しました。ありがとうございました
どうもこんにちは。ローザです。ヒャッハーというよく分からない叫び声を上げる盗賊団をやっつけ、いえ殺したあたし達は馬車に乗り込むと旅路を急ぎます。
あたしはフードを目深に被ると元々座っていた端の席に腰かけました。乗客はあたしの他に六人ですが、車内には少し余裕があるので繁忙期にはもっとたくさんのお客さんを乗せているのかもしれません。
それでですね。盗賊の奴に巨乳と叫ばれたせいでしょうか?
他の乗客の視線があたしの胸に集まっているのを感じます。
は、恥ずかしい。
乗客はあたしの他にグスタフさんといかにもガラの悪そうな三人組の男、そして一組の老夫婦ですが、特にガラの悪そうな三人組の男が無遠慮にジロジロと見てくるんです。
気持ち悪い!
これはアレです。レオシュやゴブリンたちがあたしを見ていた時と同じ種類の視線な気がします。
こう、ニヤニヤと気持ち悪い笑みを浮かべてて、その顔を見るだけで悪寒が走ります。
あまりにも気持ち悪いので魔力弾でも撃ち込んでやろうかと思うほどです。やりませんけどね。
ああ、でもホント。気持ち悪い!
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野営の時間になりました。あたし達の乗っているこの馬車は三泊四日でマルダキア魔法王国の地方都市フラドネアへと向かいます。そしてこの期間は野宿となりますが食事や水は提供されませんので、乗客であるあたし達が各自で用意する必要があります。
そのため、日没まで少しの余裕をもって野営の準備に取り掛かるんです。街道沿いの水場は限られているので丁度いい時間に着いたらそこで今日の移動は終わり、といった感じで野営する場所を決めているみたいです。
今日は盗賊の襲撃もありましたし、少し遅れ気味かもしれませんね。
そして食料ですが、オーデルラーヴァで買った背負うタイプの鞄に入れてあります。
あ、もちろん収納にも色々と入っていますけど何も持っていないのは明らかに怪しいですからね。疑われないくらいの大きさの鞄を背負っておいて、収納への出し入れも鞄に出し入れしたように見せかけているんです。
それから、当然ですけどサバイバルをしていた時に狩ったお肉はもう持っていません。いくら焼いてあるとはいえあまり放っておくとダメになってしまうと思ったので女子寮にいた時にピーちゃん達にあげてしまいました。それに毛皮もオーデルラーヴァで売ったので今のあたしの収納の中は割とスッキリしています。
森から持ってきたものでまだ持っているのは岩塩とお皿くらいですね。お薬はお店でちゃんとしたやつを買いました。
逆に水筒とか金属製のお鍋とか調理用のナイフとかの必要なものは買ってあるので、もしまた森でサバイバルすることになったとしても前よりも良い生活ができる気がします。
さて、今日のあたしの夕食はサンドイッチの残りです。早く食べないとダメになっちゃいますからね。それとユキ達は焼いたウサギ肉です。今日の分は昨日のうちにオーデルラーヴァの市場で買って焼いておきました。
それらを鞄から取り出した風を装って収納から取り出すと食べさせてあげます。
「はいどうぞ」
「ミャー」
「ピピー」
「ホー」
みんな喜んでくれています。あたしはサンドイッチをこっそりと収納からバスケットの中に戻すと食べ始めます。
あれ? あの三人組はまだこっちを見ていますね。もういい加減にしてくれませんかね?
グスタフさんは一人で干し肉をかじっていて、老夫婦は、あれ? こっちに歩いてきます。
「お嬢ちゃん、さっきは盗賊と戦ってくれてどうもありがとう」
そう言っておばあちゃんの方が黒パンを差し出してくれました。
「あ、いえ。ありがとうございます」
「いいのよ。お名前はなんて言うの? わたしはツェツィーリエ、あっちの旦那がラディスラフよ」
「ローザです」
「そう。ローザちゃん、その若さで魔術が使えるなんてすごいわねぇ。マルダキアへは何をしに行くの? やっぱり魔法学園に通うの?」
ええと、確か魔法学園というのはマルダキアの王都にある魔法に関するエリート養成学校ですよね?
卒業すれば引く手数多で、成績が良ければ魔法王国の王宮に仕えることもできると司書さんが言っていました。ただ、ものすごいお金がかかるとも聞きました。
「あたしにはそんなお金はないですから」
「おや。じゃあ、今は冒険者をやりながらお金を貯めているところかしらねぇ?」
「ええっと、そういうわけでは」
「そうなの? 盗賊と戦えるだけの腕があるのにもったいないねぇ」
戦っているところを見ていないのにどうしてそんな風に言えるんでしょうね?
「あの、魔法学園に行くことは考えてませんので」
「あらあら。でも考えるくらいはして良いんじゃないかしら?」
「はあ。じゃあ、考えておきますね」
あたしがそう答えると満足したのかツェツィーリアさんはにっこりと穏やかに笑って頷きました。
「そういえば、あなたは随分と可愛い子たちを連れているのね。テイマーなのかい?」
「はい」
「そう。それにしてもこのふわふわの白い毛並みはすごいねぇ。触ってもいいかい?」
「えっと、食事が終わってからにしてあげてください」
「ああ、それもそうね。食べているところを邪魔されたくないもんねぇ」
それからしばらく当たり障りのない会話をした後、ユキをもふったツェツィーリエおばあさんはそのまま旦那さんのところへと戻っていったのでした。