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第39話 盗賊に襲われました

 半年間過ごしたオーデルラーヴァの城壁が徐々に遠くなっていき、そしてついには見えなくなってしまいました。


 オーデルラーヴァでの日々はレオシュ達の嫌がらせ以外は夢のような時間でした。あんなに沢山のお姉さんたちに可愛がってもらえて、きれいな服を着せてもらってお勉強もさせてもらって。それに何より、お腹いっぱい食べることができました。


 ここまで来られたのはただの運でしたが、それでもかけがえのない大切な人たちに出会えて、きっと家族がいたらオフェリアさん達のような感じなんだろうなって思いました。


 年齢や性別は違いますけど、オフェリアさんがお父さんで、ソニャさんがお母さんで、シルヴィエさんやブラジェナさん達はお姉さんで。あたしは本当のお父さんとお母さんには捨てられてしまいましたけど、きっとこれで良かったんです。きっと。


 ちょっとセンチメンタルな気分になりながらあたしはソニャさんのくれたサンドイッチを頬張ります。白パンにハムとチーズとトマトを挟んでマヨネーズソースを和えた高級品です。


 美味しい!


 それにもしかしたら、いえ、おそらくあたしが食べられる最後の騎士団の料理ですからね。何だか感慨もひとしおです。


「よお、嬢ちゃん」

「はい?」


 あたしの正面に座っている少し厳つい男が話しかけてきました。三十代後半といったところでしょうか?


「随分と良いモン食ってんな」

「……大切な、か、家族から貰ったものです」


 あたしは取られない様にバスケットをぎゅっと握りしめます。


「チッ。取らねえよ。全く」


 そう言ったきり、男は押し黙ってしまいました。何だか気まずい空気が漂っています。


 何なんでしょうか? この男は。


 あたしは気まずい空気に耐えきれずに食べかけのサンドイッチを口に入れました。


 やっぱり美味しいですけど、やっぱり変な空気の中食べるともったいなきがしましたので、あと三切れ残っていますが残りは収納にしまっておくことしにます。


 あたしはバレない様にバスケットの中身だけ収納に入れました。


「あの、何か?」

「いや……」


 あの男がまだあたしをじっと見ているのでそう聞くと、プイッと顔を逸らします。


 何なんでしょうか? この人は。


 不信感を募らせたあたしがもう一言文句を言ってやろうと思った丁度その時でした。突然馬車が止まりました。


 そして外から変な声が聞こえてきます。


「ヒャッハー! 動くなー!」

「ヒャッハー! 金を出せー!」

「ヒャッハー! 女を出せー!」

「ヒャッハー! 俺たちはー! 盗賊団だー! この馬車はー! 俺たちがー! 頂いたー! 死にたくなければー! 女とー! 金目のモンをー! 全部ー!置いてきなー!」


 ええと、これは何でしょうか?


 盗賊団を名乗る連中に馬車が囲まれてしまいましたが、どうしてこの人たちは全員モヒカンなんでしょうか?


 そしてこの「ヒャッハー」という掛け声は一体何なんでしょうか?


 何だか緊張感が無いように見えるかもしれませんが、全員武装していますしそれなりに人数がいるようです。


「す、すみません。お客様の中に傭兵の方か冒険者の方はいらっしゃいませんか?」


 この馬車には御者さん兼護衛の人として二人が乗り込んでいますが、二人では厳しい人数なのでしょう。


「戦ってくださればお一人当たり 2,000 レウをお支払いいたします!」


 レウというのはマルダキアの通貨単位です。確か 100 レウで銀貨一枚で、マルダキアの王都であるトレスカでそれなりのホテルに一泊できると習いました。


 周りを見渡しますが誰も立候補しません。そして御者さんがそう言ってきたという事は、この馬車の護衛の人だけで厳しい状況なのでしょう。


 それなら覚悟を決めるしかありませんね。


「はい。あたしは冒険者です」

「え?」


 御者さんが呆けた表情であたしを見ています。


「戦力が必要なんじゃないんですか?」

「あ、いや、でも、お嬢ちゃんは戦えるのかい?」

「はい」


 きっと近づかれなければ何とかなるはずです。


「おいおい。そんな嬢ちゃんが戦うんなら俺も戦うしかないな」


 あたしの目の前に座っていた厳つい男が名乗り出ました。


「お、おお。助かります!」


 むー。やっぱり見た目なんですね。まあ、確かにあたしは小さいですけど。


「じゃあ、俺とそこの嬢ちゃんはこの場限りの護衛だ。やるぞ。おい、嬢ちゃんは何で戦うんだ?」

「近づかれなければ一撃で」

「ほお。獲物を持っていないでそれってことは魔術師か。こいつはありがてぇ。俺はグスタフだ。いくぞ」


 グスタフと名乗った男は馬車から飛び出していきました。あたしも慌てて追いかけて馬車を降ります。あ、ホーちゃんは今の時間はおねむなので馬車の中です。


「ヒャッハー! 女だー!」

「ヒャッハー! チビだー!」

「ヒャッハー! 巨乳だー!」


 な、なんなんですか? こいつら? それに誰がチビですか! あたしはまだ成長期なんです!


 ただ、そんな事を考えたおかげか前に山賊に襲われたときのような恐怖は感じません。


「おい、さっさと片付けるぞ。近づかれる前に撃て」

「分かってます!」


 あたしは魔力を集中すると指先に魔力を集め、そしてその魔力に炎を纏わせます。これは女子寮にいる時に考えた新しい魔法、名付けて炎弾です。


 魔力弾が【光属性魔法】だと勘違いされるなら、逆に【火属性魔法】だと勘違いさせれば良いって思ったんです。


「えい!」


 あたしをチビと言ってくれた男の右ひざを狙って炎弾を撃ち込みます。するとそれはしっかりと盗賊の右ひざを貫通し、そしてジュッと音を立てて傷口を焼きました。


「ぎゃぁぁぁ、いてぇよぉ。ヒャッハー」


 あ、それだけ重症でもヒャッハーって言うんですね。


「や、やりやがったなー! この女をー! 捕まえてー! 犯せー! ヒャッハー!」

「「「ヒャッハー」」」


 何故かあたしを目掛けて五人の盗賊が襲い掛かってきます。


 あたしは襲ってくる奴らの足を目掛けて撃ち込んでいきます。


 一人、二人、三人、あ、間に合わない!


「させるか、よ!」


 間に合わずに接近されたところをグスタフさんが横から割って入って助けてくれます。


 ですが最後の一人は止められず、あたしはそいつの剣の間合いに入ってしまいました。


 やられる!


 そう思った時あたしの頼もしい相棒のユキがその男の顔面に飛びついて猫パンチを浴びせました。


「うわっぷ。なんだ?」


 そしてピーちゃんが左足に絡みついて動きを止めてくれます。


 今!


 あたしはそいつの右足に炎弾を撃ち込んでやります。


「い、いてぇよぉ……ひゃ、っ、は……」


 何とも形容のしがたい痛がり方をしています。


「すまねぇ。大丈夫か?」

「はい。助かりました」

「いや、しかしえげつねぇな。傷口が焼けているから傷薬はおろか下級ポーションでも治らねぇ。やっぱり魔術師は相手にしたくねぇな」


 あれ? もしかしてこれでもやっぱりやりすぎでした?


「そちらも無事ですか! って、ええと? どうなっているんでしょうか?」


 御者さんがやってきて確認しています。どうやら前は御者さん達が対応してくれたようです。


「どうもこうも、あのお嬢ちゃんが四人の足を潰したんだよ。えげつねぇ魔術でな」

「何と! 魔術師様でしたか。さ、先ほどはとんだご無礼をいたしました」

「いえ。大丈夫です」


 あたしはそう言うと馬車に戻ろうとしてグスタフさんに呼び止められました。


「おい、こいつらを放置していくのか? 首を持って行けば賞金がでるぞ?」

「え?」


 首? あ、そうか。そうでした。盗賊は見かけたらその場で殺すというのが共通ルールです。


 でも、人を殺す? 倒れて無抵抗な相手を?


 あたしが迷っていると、盗賊の一人がすかさずあたしに命乞いをしてきました。


「ひゃ、ヒャッハー。これからはー、心をー、入れ替えるのでー、どうかー」


 あたしがそれを受け入れようとした次の瞬間、グスタフさんが素早く動くとその首を()ねました。


「嬢ちゃん。何を迷っているのかは知らねえが、殺せねぇなら冒険者なんぞやめた方がいいぞ。こいつらはクズで、魔物と同じだ。何の罪もない他人の金と命を奪って、そんで嬢ちゃんみたいな女を犯してから奴隷として売る正真正銘のクズだ。生かしておくだけで害悪なんだよ」


 そう言ってグスタフさんはあたしが倒した盗賊達を次々と殺していきます。


 あたしはただ、その光景を見ていることしかできませんでした。

執筆ペースの問題から、本章は週に1~2回を目標とした不定期更新とさせていただきます。何卒ご了承ください。

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― 新着の感想 ―
はい、このロリータは脳にタッチします。 襲撃は受けますが、複数犯は大抵コロシアエーになります。
[一言] この主人公襲われそうになりすぎやなあ。いやまあ種族特性もあるんだろうが
[一言] 「嬢ちゃん。何を迷っているのかは知らねえが、殺せねぇなら冒険者なんぞやめた方がいいぞ」 ほんと、この人の言うとおりだと思うな。
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