第五章第33話 大学の図書館にやってきました
園芸同好会の研究室がある建物の脇を抜け、広い畑の間にある道を歩いていきます。そうして五分くらい歩いていると、門の前にやってきました。
門の前には守衛さんが椅子を出して座っているので、きっとこれが通用門だと思います。
それじゃあ、早速声を掛けてみましょう。
「あの、すみません」
「はい。なんですか? ここから先は大学の敷地ですよ」
「はい。えっと、大学の図書館に行きたいんですけど……」
「そうでしたか。許可証はありますか?」
あ、良かったです。ゲラシム先生の言っていたとおり、いきなり追い帰されたりしませんでした。
でも、許可証なんて持っていませんよ。
「えっと、ツェツィーリエ先生の紹介状ならあるんですけど……」
「ではそれを見せてください」
「はい」
あたしは紹介状を手渡しました。
「……はい。たしかに。これであれば問題ありません。お連れの従魔はその二匹だけですか? 三匹いるとありますが」
「え? えっと、ホーちゃんは多分その辺を飛んでいると思います」
「その辺を?」
守衛さんは少し不思議そうな表情を浮かべましたが、すぐに真顔に戻ります。
「分かりました。では、どうぞお通りください」
「ありがとうございます」
あたしは紹介状を返してもらい、大学の敷地に入りました。
……あれ? 図書館ってどこにあるんでしょう?
するとなんと、背後から守衛さんが声を掛けてきます。
「このまま真っすぐ歩いてください。そうすると大きな円形の芝生に突き当たります。ここからは見えませんが、その右手にある大きな赤レンガの建物が図書館ですよ」
芝生? えっと……あれでしょうか? ものすごく遠くにそれらしいものが見えます。
「あ、ありがとうございます」
あたしはお礼を言ってから歩き始めました。
……大学の建物、なんだか魔法学園の建物とあんまり変わりませんね。似たような建物ばかりで、ここが魔法学園の中だって言われたら信じてしまいそうです。
ただ、道幅は魔法学園のものよりも明らかに広いです。こんなに広い道、何に使うんでしょうね?
そんなことを考えつつ十分ほど歩き、ようやく大きな円形の芝生の前にやってきました。
えっと、その右に図書館があるって……あ! あれですね。間違いありません。周りの建物が石造りなので、赤レンガの建物はとても目立っています。
あたしはその建物の入口へと向かって歩いていきます。すると小さな看板が出ていて、大学図書館と書いてありました。
良かったです。ちゃんとここが図書館でした。
あたしは図書館の中に入ると、正面のカウンターに座っている中年女性のところに向かいます。
「あの、すみません」
「はい、いらっしゃい。魔法学園の生徒さん、どんな御用かしら?」
「あの、淫魔とか魅了に関係する本を読みたいんです。あ! 物語以外で……」
すると女性はクスリと笑いました。
「淫魔関係の書籍は特別な許可が必要よ。許可証はあるかしら?」
「えっと、ツェツィーリエ先生の紹介状ならあります」
「ツェツィーリエ教諭の? それなら十分ね。見せてくれる?」
「はい」
あたしはツェツィーリエ先生の紹介状を差しだします。
「……はい。たしかに。従魔の子たちも一緒かしら?」
「はい」
「もし従魔の子が書籍を汚損した場合、主人の責任になるけれど、大丈夫?」
「大丈夫です。この子たちがそんなこと、するはずありません」
「……そう。それじゃあ、特別室に案内するからついてきて」
「はい」
どうやら司書さんだったらしい女性の後ろをついて歩きます。そうして階段を下り、鍵のかかった小部屋の中に入りました。
「淫魔に関係する書籍はすべてここにあるわ。すべて持ち出し禁止だから、ここで読むだけにしてちょうだい」
「わかりました」
「ええ。あと、図書館は三つの鐘がなった閉館よ」
「はい」
「じゃあ、ごゆっくり」
司書さんはそうして部屋から出て行きました。
二つの鐘ってことは、意外と早く閉まっちゃうんですね。
って、急がないと!
えっと……はい。本がたくさんありますね。どれから読めば……いえ、一つずつ読んでいきましょう。そんなに多くないですからね。
こうしてあたしは一番上の棚の左端の本を手に取るのでした。
◆◇◆
ゴーン! ゴーン! ゴーン!
あっ! もう閉館ですか!?
すごく集中していて気付きませんでした。
なんとか五冊読んだのですが、どれも淫魔による被害を記録した本で、【魅了】について詳しく書かれたものはありませんでした。
ただ、なんとなく関係があるかもしれない記述はいくつも見つかりました。
まず、どの本にも共通して書かれていたのは、淫魔がとても魅力的な容姿をしていたということです。どのぐらい魅力的かというと、異性であれば振り向かずにはいられないほどで、同性ですら見とれてしまったんだそうです。
同性ですら見とれてしまうって、どれほど綺麗だったんでしょう……。
って、大事なところはそこじゃありませんでした。
えっとですね。まず、どの本にも「淫魔の虜になる」って書かれていたんですけど、それって要するに【魅了】のスキルに掛かったってことだと思うんです。
それでですね。気になったのは、淫魔の虜になってしまうまでの日数が人によってばらつきがあるらしいってところなんです。
特に、淫魔に対して嫌悪感を抱いていているような人はその日数が長いみたいなんですよね。
ただ、そういうスキルって発動したら成功するかしないかな気がするんです。
ということはですよ? 淫魔って何度も何度も【魅了】のスキルを発動していて、そのうち全員に掛かるって感じなんでしょうか?
それとも【魅了】はちゃんと毎回成功していて、少しずつ効果が積み重なって、それで気付いたら完全に掛かっている感じなんでしょうか?
……えっと、はい。答えは分からないんですけど、なんだかおかしいってことまでは分かりました。
それにまだまだ読んでいない本はたくさんありますからね。明日も来てみようと思います。
というわけで、今日のところは寮に帰ろうと思います。
あたしは小部屋を出て、入口へと向かいます。すると右の廊下から、ものすごくたくさんの本を抱えた男性が歩いてきます。
……あの人、ちゃんと前が見えてるんでしょうか?
って、あれ? あれれ? あれってもしかして、公子様じゃないですか?
「あ、あの、公子様……ですか?」
「え? その声は……ローザ嬢!?」
次回更新は通常どおり、2025/11/15 (土) 20:00 を予定しております。





