第五章第32話 図書室に行きました
翌日、あたしは魔法学園の図書室にやってきました。そして司書さんにお願いして、淫魔に関係する本を持ってきてもらいました。
それではさっそく読んでみましょう。
えっと……あ、あれ? これは正教会の聖書と内容が似ています。聖書の内容は知っていますけど……あ! ツェツィーリエ先生に習った歴史の話が書いてあります。
でも習ったことなので全部知っている内容です。
じゃあ、次の本を見てみましょう。
……えっと、はい。魔術書です。魅了解除の術式が書いてありますけど……あたし、そのとおりに詠唱しているはずなのになぜか発動してくれないんですよね。
はい。次です。
……あれ? この本、なんですか? 手記? でしょうか。この本はジョン・バートランドさんという騎士さんが体験したことが書かれているみたいですけど……えっと……そもそもこのトレスキー王国ってどこの国でしょう?
聞いたことありませんね。
……あ、あれ? この本のタイトル、トレスキー王国の秘密の恋?
ちょっと! これ、物語じゃないですか! あたしは淫魔について調べに来たのに!
……で、でも、秘密の恋ってどういうことでしょうか? なんだか興味が――
「ピピ?」
「っ!」
気付けばピーちゃんが机の上にいて、じっとあたしのほうを見てきていました。
えっと……はい。そうですよね。今は物語を読んでいる暇はないですもんね。この本は借りて、お部屋でじっくり読むことにしましょう。
さて、次です。今度はちゃんとタイトルから……え?
淫モラル~淫魔とシスターのアブナイ関係~!
な、な、な、なんですか!? この本! これ、絶対に物語ですよね。次です!
次は……。
こうしてあたしは司書さんに取ってきてもらった本をすべて調べたのですが、最初の二冊以外はすべて物語でした。
そりゃあ、淫魔に関係する本ってお願いしたあたしもよくなかったですけど……まさかこんなに物語ばかりだなんて……。
◆◇◆
もう一度司書さんに聞いてみたところ、図書室にはこれ以上は淫魔に関係する本はないといわれてしまいました。
仕方ないのでツェツィーリエ先生に相談してみたところ、なんと! 魔法大学の図書館を使えるようにって紹介状を書いてくれたんです。
大学の図書館は大学生じゃないと使えないと思っていたんですけど、そうでもなかったんですね!
というわけで翌朝、さっそく大学の正門にやってきたあたしは守衛さんに声を掛けます。
「あの、すみません」
「ん? 魔法学園の学生? 何か御用ですか? 見学は受け付けていませんよ」
「あ、えっと、そうじゃなくって、図書館に――」
「図書館? ダメですよ。 大学の図書館に入れるのは大学生だけです」
「で、でも……」
「分かったら帰ってください。魔法大学は関係者以外立ち入り禁止ですよ」
「えっと……」
「さあ、お引き取りください」
守衛さんはシッシッっと身振りであっちに行くように促してきます。
「あ、あの、紹介状が……」
「はい? そんな話は聞いていませんね。いいから帰ってください」
どうしましょう。取り付く島もありません。
「ほら、早くお引き取りください」
「……」
仕方ありません。戻ってツェツィーリエ先生に相談したほうが良さそうです。
というわけで、あたしは魔法学園の職員室にやってきました。ドアをノックしてから開けたのですが、そこにはゲラシム先生しかいませんでした。
「あ、あの、失礼します。ツェツィーリエ先生は……」
「む? ローザ・マレスティカ君、何かあったのかね?」
あたしに気付いたゲラシム先生が立ち上がり、近づいてきました。
「あの、大学の図書館に行きたかったんですけど、その、門前払いされちゃったんです」
「大学の? 大学は原則として部外者の立ち入りを認めていない。許可は取ったのかね?」
「は、はい。ツェツィーリエ先生が紹介状を書いてくれたんですけど……」
「ふむ……」
ゲラシム先生は表情を曇らせました。
「その紹介状はツェツィーリエ先生から直接貰ったのだね?」
「はい」
「だとすると……」
ゲラシム先生は腕組みをし、じっと考えています。
「……ローザ君、もしや正門に行ったのではないかね?」
「あ、はい。正門に行きました」
「ふむ。それだな」
「えっ? どういうことですか?」
「この学園も魔法大学も、この前の襲撃を受けて警備がかつてないレベルで厳しくなっているのだ。それはローザ君も感じているだろう?」
「はい」
「特に正門は警備が厳しくてな。部外者を絶対に通さないように厳命されているのだ」
「そうだったんですね。でもあたし、図書館に……」
「うむ。だから大学に行くには通用門を使いたまえ」
「え? 通用門?」
「そうだ。この学園には大学と共同で行っているプロジェクトがあることは知っているだろう?」
「はい」
たしか、ベティーナさんの園芸同好会は大学で魔法薬学を勉強している先輩に教えてもらっているんですよね。
「その際にいちいち正門を通るのでは不便だということで、通用門がいくつかあってな。彼らはそこから出入りするようになっているのだよ」
「わかりました。じゃあ、その通用門に行ってみます」
「うむ。そうしたまえ」
「ありがとうございました」
「うむ」
こうしてあたしは職員室を出て、通用門へと向かうのでした。
次回更新は通常どおり、2025/11/08 (土) 20:00 を予定しております。





