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第五章第22話 別の患者さんの治療をします

2025/10/10 名前の取り違えを修正しました

 ユッテさんからの聞き取りを終え、あたしたちは別の独房にやってきました。そこには少し年老いた女性が一人、収監されています。


「こんにちは、エルケ。調子はどうかしら?」

「……フリートヘルム先生ですか。別に」


 その人は気だるげにそう答えると、あたしたちのほうを指さしてきました。


「そこの人たちは?」

「私の知り合いよ。治療を手伝ってもらっているの」

「……そうですか。それで、処刑はいつですか? 早くルクシア様の御許(みもと)に行きたいんですけど」


 それを聞いたフリートヘルムさんは小さくため息をつきました。


「処刑なんてするはずないでしょう?」

「……はぁ」


 エルケさんはがっくりと肩を落としました。


「あの、フリートヘルムさん」

「何かしら?」

「この人、何をした人なんですか?」

「彼女はね。酒場でルクシアの布教をしようとして、マスターに追い出されたのよ」

「え? じゃ、じゃあそのときに……」

「ええ、そうなのよ」


 やっぱり! ということはもしかして、ルクシアの信者になると人を刺すようになっちゃうんでしょうか?


「あら? ローザちゃんが思っているようなことじゃないわよ」

「え? で、でも、処刑って……」

「エルケは、追い出されそうになって抵抗して、備品を壊したのよ」

「へっ?」

「誰も怪我なんてしてないし、お店だってそのまま営業を続けたわ」

「……じゃあ、どうして処刑だなんて」

「さあ。どうしてかしらね。少なくとも、ルクシアに魅了されたからそうなったってわけじゃなさそうだけれど」

「……はい」


 そうですね。さっきのユッテさんは自信満々でしたし。


「さ、ローザちゃん。早速本番よ」

「え?」

「だって、ツェツィーリエが先にやったらきっとすぐに魔力がなくなっちゃうわ。それなら、ローザちゃんからやったほうがいいでしょう?」

「えっと……」

「だから、ローザちゃんが失敗してもツェツィーリエがフォローしてあげられるでしょう?」

「あ……」


 そういえばそうですね。


 ただ、魅了された患者さんは別に解除したいって思っていなさそうなので、失望されるってことはないような気もしますけど……。


「わかりました。ただ……」

「大丈夫よ。ちゃんとフォローしてあげるわ」

「は、はい……」


 あたしは意を決して、独房の中に入ります。一緒に入ってきてくれた兵士の人たちが、念のためにとエルケさんの体を押さえます。


「さあ、ローザちゃん。試してみて」

「はい……」


 あたしは魅了が解除されるようにと念じながら魔法を発動しようとしますが、やっぱりうまく発動できません。


「あら? 詠唱はどうしたのかしら? 覚えていないの?」

「えっと……」

「フリートヘルム、この子は特別で、詠唱ができないのよ」

「できない? どういうことかしら?」

「この子はね。魔術じゃなくて魔法なの」

「えっ?」


 フリートヘルムさんが驚いた様子であたしのほうを見てきたので、小さく(うなず)きました。


「そう……そういうことだったのね」

「ええ。だから何かきっかけを掴んでもらいたくって連れてきたの」

「……それは、治療しているところをたくさん見せるってことかしら?」

「そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない。この子の話によると、治すべき状態をはっきりと理解すると治せるみたいなのよ」

「そう……魔法ってそうなのね……」


 フリートヘルムさんは腕を組み、険しい表情を浮かべています。


「あ、あの……」

「あら? ああ、そうね。ツェツィーリエ、この患者さんをお願い」

「ええ、そうね。ローザちゃん、よく見ておくのよ」

「はい」


 それからツェツィーリエ先生はさっきのフリートヘルムさんと同じくらい長い詠唱をし、魅了解除の魔術を発動しました。ユッテさんのときと同じように、ものすごくまぶしい光が独房内を照らします。


 それから数分後、魔術の発動が止まりました。


「はぁっ、はぁっ、はぁっ」


 ツェツィーリエ先生もびっしょりと汗をかき、膝に手をつきながら肩で大きく息をしています。


 そして……。


「はっ!? わ、私は一体……」


 良かったです。エルケさんも正気に戻ったみたいです。


「マ、マ、マスターになんてことを!」


 ああ、知り合いのお店だったんですね。それだとなおさら、罪悪感でいっぱいですよね。


「ああ! ごめんなさい。ごめんなさいごめんなさいごめんなさい」


 兵士の人たちに取り押さえられながら、マスターさんに必死に謝罪しています。


「ああ! そうだ! お願いです! 早く私を処刑してください! こんなことをして! 私は!」

「だから! あんな程度で処刑なんてされるわけないでしょうが!」

「そんな! フリートヘルム先生! どうか! どうか!」

「はぁ。馬鹿なこと言わないでちょうだい。人を治療する私に死を望むなんて」


 するとエルケさんはハッと息を()みました。そして……。


「お願いします! どうか私を処刑してください! 治安を乱しました!」


 今度は自分を取り押さえている兵士の人たちに処刑を懇願してきました。


 ……よく分かりませんけど、これって、元からの性格なんでしょうか?


 でも、わざわざ死にたがるってどういう心境なんでしょうか。あたしにはさっぱり理解できません。

 次回更新は通常どおり、2025/09/06 (土) 20:00 を予定しております。

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― 新着の感想 ―
何を治せばいいか、さっぱり分からないんですね。 ……元々変な人まで居ると。
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