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第五章第21話 魅了って恐ろしいです

2025/10/10 名前の取り違えを修正しました

「フリートヘルム、どうかしら?」


 ツェツィーリエ先生が肩で息をしているフリートヘルムさんに声を掛けます。


「はぁっ、はぁっ、はぁっ……手応えは、はぁっ、はぁっ、あったわ」


 フリートヘルムさん、まだ苦しそうです。


「ということは、やっぱり魅了だったのね」

「はぁっ、はぁっ……そうね」


 ……ということは、やっぱりお姉さんたちも……。


 あたしは兵士の人たちに取り押さえられているユッテさんのほうに視線を移します。


 ユッテさんは……ぐったりしています。それに白目をむいていますけど、痙攣(けいれん)とかはしていなさそうですけど……あんまり大丈夫そうには見えません。


「あ、あの、ユッテさんが……」

「え? あら? 魅了を解除するとこうなるのね」

「フリートヘルム、私が診るわね」


 フリートヘルムさんはまだ汗をだらだら流していますけど、呼吸は整ってきたみたいです。それでユッテさんに近づこうとしましたが、ツェツィーリエ先生がそれを制止して診察を始めます。


 最初は脈を確認して、それから目をじっと見ています。


「……大丈夫よ。気を失っているだけだわ。じきに意識が戻るはずよ」


 そう言ってツェツィーリエ先生は治療せずにユッテさんから離れました。


 良かったです。後は元に戻っているといいんですけど……。


 あたしたちはユッテさんが目覚めるのをじっと待ちます。それからしばらくして、ユッテさんの眉がピクリと動きました。そしてすぐに白目をむいていたのが戻ります。


「う……あれ? 私……」

「気が付いたかしら?」


 汗だくのフリートヘルムさんが声を掛けます。


「え? あら? フリートヘルム先生? ここは……」

「ここは地下牢よ」

「え? 地下……牢? 私、一体……」


 ユッテさんの目はまだどこか虚ろです。


 もしかして……魅了に掛かっていた間のことを覚えていないんでしょうか?


「覚えていないのかしら?」

「覚えて? ……私は……たしか……っ!?」


 ユッテさんは突然息を呑みました。


「わ、私……なんであの人を!? いやぁぁぁぁぁぁ!」


 ああ、ダメです。覚えていたみたいです。


 ユッテさんは半ば錯乱したような状態となり、暴れようとしましたが兵士の人たちが押さえつけているため動けずにいます。


「お願い! 私を! 私を殺して! 私は取り返しのつかないことを!」

「落ち着きなさい」

「フリートヘルム先生! 止めないでください! 私は!」


 それからしばらくユッテさんは、兵士の人たちに押さえつけられたまま叫び続けるのでした。


◆◇◆


 やがて体力の限界を迎えたのか、ユッテさんは静かになりました。荒い息遣いだけが聞こえてきます。


「ユッテ、安心なさい。旦那さんはちゃんと私が治療したわ」

「え?」

「それに、今は元気に働いているわ。ユッテが罪を償って出てきたとき生活に困らないようにって、今まで以上に頑張っているそうよ」

「う……ベンノ……ごめんなさい。私……ごめんなさい」


 ユッテさんはそう言ってボロボロと涙を流し始めました。


「ユッテ、何があったのか話してくれるかしら? ルクシアの奴らは何をしたの?」

「……はい。お話します」


 そう言って、ユッテさんはゆっくりと話し始めます。


「最初は、友達に誘われて行ったんです。新しく国教になったから、これからはルクシアだって言われて……」

「ええ。そうだったわね」

「それで大聖堂に行ったら、そのときたまたまアルノーっていう偉い枢機卿の人が来ていて、その人の説法をみんなで聞いたんです」

「どんな話をしていたの?」

「ルクシアの教えですけど、特に変なことは言っていませんでした」

「あら、そうなの?」

「はい。正教会でも言われているような故事を引用して、普通の道徳を説かれました。だからこれなら別に問題ないって思ったんです」

「でも、ルクシアの教えは排他的よね?」

「はい。そうなんですけど、そのときは別におかしなことはなかったんです。それで、その後も友達と一緒に通うことにしたんです。一応国教になったんだし、知っておいて損はないかなって……」

「そう。それで?」

「それで通っているうちにルクシアの教えが正しくて、他が間違っているような気がしてきたんです。なんでそんなことを思ったのか、自分でも不思議なんですけど……」

「そうなのね。何か変なことはされなかった? たとえば何か不思議な道具を使われたとか」

「道具? そうですね……」


 ユッテさんはじっと考えます。


「すみません。特にそんなことはなかったと思います」

「そう。ありがとう。それで? どうして旦那さんを?」


 するとユッテさんは悲し気な表情を浮かべました。


「ごめんなさい」

「大丈夫よ。旦那さんはユッテのことを許してくれるわ」

「……はい」


 ユッテさんは再びボロボロと涙を流し始めました。


 それから少しして、ユッテさんが口を開きます。


「ベンノに……もう大聖堂に行くのを止めるように言われたんです。私、財産を全部寄進しちゃって、それでももっと寄進したくてお店のお金に手を付けようとしたんです。それで口論になって、それで……それで!」

「ルクシアを認めない旦那さんが許せなくなって、刺しちゃったのね」

「はい……ごめんなさい」


 そう言ってユッテさんは再び涙を流すのでした。

 次回更新は 2025/08/23 (土) 20:00 を予定しておりますが、現在多忙につき、執筆が間に合わない可能性がございます。その場合は 8/30 となりますので、予めご了承ください。

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