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第五章第20話 地下牢にやってきました

 応接室を出たあたしたちは頭まですっぽり隠れるフードを被り、フリートヘルムさんの救護院を出ました。


 そしてそのまましばらく町を歩き、裏路地の一角にある建物にやってきました。建物の前には武装した兵士の人が立っています。


「これは! フリートヘルム先生! どうぞお通りください」


 どうやらフリートヘルムさんは顔パスみたいです。


 建物の中に入ると正面に階段がありました。フリートヘルムさんはすたすたとその階段のほうへと歩いていくので、あたしたちもその後を追いかけます。


「あの、ここは?」

「ここは地下牢よ」

「えっ?」

「色々と、訳ありの人たちが収監されているの」

「はい……」


 訳ありって……きっとルクシアのせいでおかしくなっちゃった人たちですよね?


 階段を降りていくと、なんだか()えたような変な匂いがしてきました。


 これ、もっと清潔にしないと病気になっちゃうんじゃ……?


「こっちよ」

「あ、はい」


 フリートヘルムさんの後に続いて地下牢の奥へと向かいます。左右には鉄格子が並んでいて、いかにも牢屋って感じですが、肝心の牢屋の中には誰もいません。


 どういうことでしょうか?


 不思議に思いながらも歩いていくと、その先に重たそうな少しさびた鉄の扉がありました。そこには武装した兵士の人が何人も立っています。


「やや! フリートヘルム先生! どうぞお通りください」


 兵士の人はすぐに開錠し、扉を開けてくれました。


「ええ、ありがと」


 あたしたちは扉をくぐり、その奥へと向かいます。そこにも同じような牢屋が並んでいて、今度はちゃんと人が収監されています。


「まずはこの患者さんよ」


 フリートヘルムさんはそう言って、一つの独房の前で立ち止まりました。中には粗末な囚人服を着た三十歳くらいの女性がいます。


「こんにちは」


 フリートヘルムさんが声を掛けます。


「あら、フリートヘルム先生。こんにちはってことは、今はお昼なんですか?」

「ええ、そうよ」

「そう。それで、今日はどんな御用かしら? フリートヘルム先生もようやく、ルクシア様に帰依する気になったのかしら?」

「いいえ、違うわ」

「あら、それはいけませんね。何せルクシア様は――」


 その女性は延々とルクシアの素晴らしさとやらを語り続けます。


 ……意味が分かりません。どうしてルクシアが世界で唯一の神様なんですか? なんでルクシアを信じないと地獄に落ちるんですか?


「こんな感じなの。この患者さんの名前はユッテ」

「あら、患者だなんて失礼ね。私はどこも悪くないわ。フリートヘルム先生こそ、早く目覚めるべきよ。だって、ルクシア様は――」


 またルクシア自慢が始まりました。もういい加減にしてほしいです。


「症状はこんな感じよ。元は正教徒だったのだけれど――」

「ちょっと! やめてちょうだい! 正教会なんて邪教! あんなもの私の人生の汚点だわ!」


 するとフリートヘルムさんが小さくため息をつきます。


「旦那さんのことも?」

「当然よ! ルクシア様の素晴らしさを理解できない愚物と結婚してるだなんて苦痛でしかないわ!」

「こんな感じね」

「えっと……どうしてこの人は牢屋に入っているんですか?」

「それは――」

「あの愚物が頑なだったからよ!」

「どうやら旦那さんの説得に失敗したらしいの。それで、包丁でブスリと」

「ええっ!?」

「当然よ! 邪教徒の妻だなんて恥ずかしすぎるもの!」

「えっと……もしかしてその旦那さんって……」

「大丈夫よ。私が治療したから」


 ああ、良かったです。


 それにしても、愛し合う夫婦がこんなことになっちゃうなんて……!


「とにかく!」


 フリートヘルムさんが会話をぴしゃりと終わらせました。


「今日はアナタの治療をするわ」

「別に悪いところなんてないわ」

「……どうかしらね」


 フリートヘルムさんは険しい表情になりました。


「フリートヘルム先生、中に入られますか?」

「ええ。彼女たちもね」

「かしこまりました」


 扉の所から同行してくれていた兵士の人たちが牢屋のカギを開けてくれたので、中に入ります。


「な、何よ……」

「これは、新しく試す魔術よ。アナタに掛けられたその邪悪な魔術を解くわ」

「……や、やめなさい。私は正常よ! どこも悪くない!」

「いいえ、正常じゃないわ。ちょっと、押さえていてくれる?」

「「「はっ」」」


 兵士の人たちが機敏な動きでユッテさんを取り押さえました。


「先生!」

「ええ!」


 フリートヘルムさんはぶつぶつと小声で詠唱を始めました。


 それから五分ほどかけて長い詠唱をして、魔術を発動しました。ものすごくまぶしい光が地下牢を照らします。


 す、すごいです。一目で分かるほどの強力な魔術です。一体どれくらいの魔力を使っているんでしょうか?


 それから二分、いえ、三分ほどでしょうか?


 突然光が消え、フリートヘルムさんはがっくりと膝をつきました。


「はぁっはぁっはぁっ」


 肩で息をするフリートヘルムさんは全身にびっしょりと汗をかいています。


 えっと……成功した、んでしょうか?

 次回更新は通常どおり、2025/08/09 (土) 20:00 を予定しております。

 →多忙につきクオリティの担保ができないため、来週に延期いたします。誠に申し訳ございませんが、ご了承ください。

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