表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
287/298

第五章第19話 事情を聞きました

 コンコン!


「あら? あっと! いけない!」


 しばらくの間、うっとりした表情でユキたちを()でていたフリートヘルムさんでしたが、扉がノックされたことで急に我に返ったみたいです。


「いいわよ。お入りなさい」

「失礼します。お茶をお持ちしました」


 先ほど案内してくれた白衣の女性が入ってきました。するとその女性は不思議そうな表情で、あたしたちとフリートヘルムさんの間で視線を動かします。


 フリートヘルムさんはバツが悪そうに小さく咳ばらいをしました。


「さ、掛けてちょうだい」

「はい」


 あたしたちが着席すると、すぐにカップに紅茶が注がれます。


「失礼しました」


 女性は何事もなかったかのように部屋から退出していきます。


「ミャッ」


 ユキがぴょんとジャンプして、あたしの膝の上に乗ってきました。


「ピピッ」


 あれ? ピーちゃんも膝の上に来ました。いつもなら頭の上に乗って来るんですけど、珍しいですね。


 ホーちゃんは……えっと……あ、いました。いつの間にか向こうの高い棚の上にいます。


「いいわねぇ……」

「えっ? 何か言いましたか?」

「いいえ、なんでもないわ」


 フリートヘルムさんが何か言ったような気がしたんですけど、気のせいだったみたいです。


「はぁ。それじゃあ、本題を話すわね」


 フリートヘルムさんは急に真剣な表情になりました。


「驚かないでちょうだいね。それから……」


 そこで一度言葉を切ります。


「絶対に大声を上げちゃダメよ」


 フリートヘルムさんはひそひそ声でそう言いました。


 あたしは思わずコクコクと(うなず)きます。


「魅了の被害者が見つかったかもしれない、ということは伝えたでしょう?」

「ええ」

「その被害者ね。一人や二人じゃないの」


 う……この口ぶり、三人ってわけじゃないですよね?


「というのも、私の読みによるとルクシアの連中のせいだと思うの」

「えっ!?」

「ローザちゃん」

「あ……ごめんなさい」


 いけません。あれだけ念を押されていたのについ声が出ちゃいました。


 あたしは自分の口を両手で押さえます。


「続けるわね。被害者らしい人たちはね。全員、最近ルクシアに改宗した人たちなのよ」


 ……じゃあ!


「つまり、ルクシアは魅了を使って信徒を集めていると言いたいのかしら?」

「ええ、そうよ」

「でも、どうして魅了だと思ったのかしら?」

「だって、明らかに言動がおかしいのよ」

「……でも、正教徒から見ればルクシアの信徒たちは非常識に見えるんじゃないかしら?」

「それはそうかもしれないわ。でもね。いくら改宗したからって、家族に危害を加えることはないんじゃないかしら?」

「家族に危害を?」

「ええ。たとえば、ルクシアに改宗した奥さんが、改宗に応じなかった旦那を刺した、なんてことがあったの」

「そんなことが?」

「ええ。多発しているの」

「……」

「それにね。ルクシアの連中は聖女と称して光属性を持つ少女たちを集めているじゃない?」

「ええ、そうね。でもそれがどうしたのかしら?」

「私、こう考えたのよ。ルクシアの連中は、魅了の力に対抗できる者たちを支配下に置いておきたいんじゃないかって」

「っ! じゃ、じゃあリリアちゃんも魅了で――」

「ローザちゃん、落ち着きなさい」

「あ……すみませんでした」

「ええ。それにリリアちゃんは大丈夫なはずよ。光属性の使い手に魅了は効かないのだから」

「は、はい……」


 そうでした。恥ずかしいです……。


「それよりもフリートヘルム」

「何かしら?」

「その理屈はおかしいと思うわ」

「どうしてかしら?」

「だって、別に光属性に適性があるのは女に限らないでしょう? それなら、男女関係なく集めればいいだけでしょう?」

「それはそうだけれど……どうしてもそんな予感がするよ」


 するとツェツィーリエ先生は困ったような表情を浮かべます。


「あなたの勘が鋭いのは知っているわ。でも、さすがにこれはちょっと違うんじゃないかしら?」

「……そうねぇ」


 そうは言いましたが、フリートヘルムさんは納得していない様子です。


「それはさておき、魅了だなんて言うってことは、ルクシアには淫魔が手を貸しているって思っているのかしら?」


 するとフリートヘルムさんは首を横に振りました。


「違うと思うわ」

「それはどうして?」

「だって、被害者の男女比率は半々くらいなの」

「……なら、複数の淫魔がいる可能性は?」

「それはあり得ないわ。だって、もし本当に淫魔がいるなら、町中の人が魅了されているはずよ」

「それはそうねぇ」

「だからね。私は遺物が使われているんじゃないかと疑っているの」

「そうね。それならば可能性はありそうだけど……」


 あれ? 遺物? ってなんですか?


 二人とも分かっている感じですけど……。


「でも私はそんな遺物が見つかったなんて話、聞いたことがないわ」

「ええ、私も知らないわ」

「じゃあ、どこかで大規模な発掘があったとか?」

「そんな噂も聞かないわね」

「そう……」


 ううっ。二人で勝手に話が進んじゃっています。


「あ、あの……」

「あら? ああ、ごめんなさい。何かしら?」

「えっと、遺物? ってなんですか?」

「あら? ごめんなさい。そういえばローザちゃん、ほとんど冒険者やっていなかったものね」

「え? えっと……」

「ローザちゃん、遺物っていうのはね。とっても古い時代の遺跡でごくまれに見つかる魔道具のことなの」

「魔道具、ですか?」

「ええ。今では考えられないくらい高度な、ね」

「そ、そうなんですね……」

「ええ」

「えっと……でも魅了の魔道具は見つかっていなんですよね?」

「そうね」

「えっと……」

「あくまでも、可能性の話よ」

「はぁ」


 なんだか難しいですけど、昔は今よりも魔道具がすごく発達していたってことでしょうか?


「話を進めてもいいかしら?」


 ツェツィーリエ先生との会話が途切れたところで、フリートヘルムさんが口を開きました。


「は、はい」

「ともかく、あまりにも突然人が変わってしまったって例が多すぎるの。しかも全員、今まで大切にしていたものに何の興味もなくなるの」


 ……あれ? それってもしかして?


「そんな風になるなんて、伝説の魅了以外に思い当たる節がないわ」

「……」

「それに、もしそうだったらすぐにでも対策を取らないと大変なことになるでしょう?」

「ええ、そうね」

「だから、マルダキアの使い手にも来てもらったの。特にローザちゃん。次代を担う若いあなたにできるだけ多くの実践経験を積んでもらいたくってね」

「う……」


 でも、あたしはまだ発動ができなくって……。


「それに杞憂だったなら、それはそれでいいでしょう?」


 フリートヘルムさんはそう言うと、パチンとあたしにウィンクをしてきました。


 ……やっぱりちょっとディタさんっぽいです。


 それからすぐにフリートヘルムさんは立ち上がります。


「さ、患者さんのところに移動しましょう」

「はい」


 こうしてあたしたちは応接室を後にするのでした。

 次回更新は通常どおり、2025/08/02 (土) 20:00 を予定しております。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ