第五章第18話 聖者フリートヘルムさんに会いました
宮殿を出たあたしたちは、大通りから一本入ったところにある大きな建物にやってきました。看板にはフリートヘルム救護院って書かれていて、その扉には本日休診日という札が吊り下げられています。
「ここが……」
「ええ。さ、ローザちゃん。行きますよ」
「はい」
ツェツィーリエ先生はドアノブに手をかけ、扉をそっと押します。どうやら鍵は掛かっていないみたいで、扉はギギギと音を立てて開きました。
ツェツィーリエ先生はそのまま中に入っていったので、あたしもその後に続いて中に入りました。するとそこには白衣を着た女性が立っています。
「こんにちは。私はツェツィーリエ・イオネスク、この子はローザ・マレスティカよ。マルダキア魔法王国から来ました」
「はい。お待ちしておりました。どうぞこちらへ」
あたしは白衣の女性に案内され、奥にある部屋の前へとやってきました。
女性はすぐに扉をノックし、声を掛けます。
「院長先生、マルダキア魔法王国よりお客様がいらっしゃいました」
すると中から低い男の人の声で返事があります。
「ええ。入って」
あれっ?
「どうぞお入りください」
女性が扉を開けてくれました。するとそこには白衣姿のものすごく大きな男性が椅子に腰かけていました。
その人は肌が黒くてスキンヘッドで……あれ? えっと……ものすごく筋骨隆々としています。
えっ? えっ?
「フリートヘルム、久しぶりね」
「ええ、久しぶりだわぁ。何年振りかしら?」
「もう二十年ぶりじゃないかしら」
……ツェツィーリエ先生が何事もなかったかのようにお話しています。
えっと……。
「ローザちゃん、何をしているの? 早く中にお入りなさい」
「は、はい!」
ツェツィーリエ先生に言われ、あたしは慌てて中に入ります。
「あらぁ~、この子が? カワイイ子ねぇ~」
白衣の男性は立ち上がり、あたしのほうへと歩いてきます。
う……背がものすごく高いです。どれぐらい背が高いかっていうと、見上げるだけで首が痛くなりそうなくらいです。
「私はフリートヘルム、この救護院の院長よ」
「あ、えっと、ローザ・マレスティカです。はじめまして」
あたしは慌ててカーテシーをします。
「あらあら、いいのよ。そんな堅苦しいことしなくても」
「えっと……」
「ローザちゃん、フリートヘルムは貴族じゃないの。だからそういうことはしなくて大丈夫よ」
「は、はい……」
するとフリートヘルムさんは屈んで顔の高さをあたしと同じにし、じっと目を見てきます。
え、えっと……。
「ん~、ちょっと小さいわねぇ」
「えっ?」
「アナタ、十四歳だったかしら?」
「は、はい……」
「いい? アナタは成長期なのよ? きちんと栄養のあるものをたくさん食べなさい?」
「えっと……」
「あとは、ミルクをたくさん飲むといいわよ?」
「えっと……」
「そうじゃないと、背が伸びないわよ」
「は、はい……」
「せっかくこれだけスタイルがいいんだもの。これで背まで高くなったら、きっと男たちだけじゃなくって女の子も放っておかないわよ♡」
フリートヘルムさんはそう言ってパチンとウィンクをしてきました。
……あれ? この感じ、どこかで経験したような?
「ん~、その制服もいいけど、もっと派手な服のほうが似合いそうねぇ」
フリートヘルムさんはそう言ってじろじろとあたしの全身を見てきます。
でも普通の男の人に見られているときのような悪寒はなくって、やっぱりどこかで経験したような?
えっと……あっ! 思い出しました!
この人、あのちょっと恥ずかしいウェイトレスの服をデザインしてくれたディタさんと似ているんです!
男の人なのに女の人みたいな口調で話しているところも、仕草が女性らしいところもそっくりです。
……はい。びっくりしました。世の中にはディタさんみたいな男の人って意外といるんですね。
「あら? そのとってもカワイイ子たちがアナタの従魔ちゃんたちね? 紹介してくれるかしら?」
「あ、はい。この子がユキで、この子がピーちゃん、それでこの子がホーちゃんです」
「まぁまぁ! ホントにカワイイわぁ! ねぇ、触ってもいいかしら?」
「えっと……」
「ミャ」
「ピッ」
「ホー」
「えっと、いいみたいです」
「あらあらあら! まるで言葉が通じているみたいじゃない! すごいわぁ!」
フリートヘルムさんはそう言ってユキにそっと手を伸ばしました。するとユキはその手にこつんとおでこを当てます。
するとフリートヘルムさんはくしゃりと表情を弛め、ユキの頭をそっと撫でます。
「あらぁ、ものすごいふわふわの毛並みねぇ」
「はい。そうなんです!」
「そうよねぇ。自慢できる毛並みだわぁ」
そういってひとしきりユキを撫でると、ピーちゃんとホーちゃんも撫でてくれたのでした。
次回更新は通常どおり、2025/07/28 (土) 20:00 を予定しております。





