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第五章第16話 ルーデルワルデを出発します

 それからあたしは伯爵様のお屋敷で一晩、お世話になりました。夕食も一緒に食べたんですが、そこにはライナーさんは来ていなくって、それにツェツィーリエ先生も一緒だったので嫌な思いをすることはありませんでした。


 きっと伯爵様が気を遣ってくれたんだと思います。


 だからそれ以外でもライナーさんと顔を合わせるようなこともなく……あ! もちろん朝起きたらびしょぬれのライナーさんが倒れていたなんてこともありませんでしたよ。


 って、それはさすがにあの人たちがおかしすぎただけですね。


 ちょっとドミニクさんがしつこく話しかけてきたのは嫌でしたけど……別に変なことを言われたわけじゃないですし、きっとホストとしてあたしが退屈しないようにしてくれていたんだと思います。


 ……多分。


 えっと、はい。そんなわけで朝になりました。お部屋に運んでもらった朝食を食べ、身支度を整えたら出発です。


 早く帝都に行って、早く帰らないと授業が始まっちゃいますからね!


 というわけで、あたしはラダさんにエスコートしてもらい、エントランスにやってきました。するとそこには伯爵様と伯爵夫人、それにドミニクさんと婚約者のマルガレーテさんの姿があります。


 伯爵夫人は無表情で、マルガレーテさんはちょっと不機嫌そうな感じ……あれ? ドミニクさんの頬が腫れているような?


 するとあたしの姿を見つけた伯爵様が話しかけてきます。


「ご令嬢、もっとご滞在いただきたいところでしたが、名残惜しいですな」


 ……あの? そう言いながらなんであたしの胸をじろじろと見ているんでしょう? それにドミニクさんも!


 昨日の晩さん会のときはそんなことなかったのに!


 って、そんなことより早く出発しちゃいましょう。


「えっと……ありがとうございます。ただ、急いでいますから……」

「残念ですが、仕方がありませんな。どうぞお気をつけて」

「はい」


 こうしてあたしはそそくさと馬車に乗り込み、ルーデルワルデを出発したのでした。


◆◇◆


 一方、ルーデルワルデ伯爵たちはローザたちの乗った馬車が見えなくなるまで見送っていた。そうして最後の騎士が敷地から出た瞬間、マルガレーテはドミニクをギロリと(にら)みつけた。さらに夫人は無表情のまま、ルーデルワルデ伯爵をじっと見ている。


 ドミニクはマルガレーテの視線に怯えた様子だが、ルーデルワルデ伯爵は呑気な表情で夫人に声を掛ける。


「コルドゥラ、さあ、中に……ん? 一体どうし――」

「あなた」


 無表情のまま放たれたその声はまるで氷のように冷たい。


「え? コルドゥラ?」

「え、じゃありませんわ。何を考えているんですの?」

「ど、どうしたのだ?」

「わたくしが気付いていないとでもお思い?」

「き、気付く? 一体何をだ?」


 すると夫人は呆れたような表情になり、大きくため息をついた。


「あなたが! 不躾にも! お嬢様のお胸を! じろじろと! 嫌らしい目で見ていたことですわ!」

「そ、そんなこと!」

「そんなこと?」

「……」


 夫人は侮蔑するような目でルーデルワルデ伯爵を見る。


「う……」

「そんなこと、なんですの?」

「……」

「……」


 ルーデルワルデ伯爵の視線が泳ぎ、やがてがっくりとうな垂れた。


「ごめんなさい」


 すると夫人は再び大きなため息をついた。


「で? どうしてあんなことをしたんですの? 相手は養女とはいえ、他国の公爵家のお嬢様ですのよ?」

「それは……つい……」


 夫人はまたしても大きなため息をついた。


「殿方がそうなのは知っていますわ。でもねぇ……」


 夫人は盛大なため息をついた。


「わ、わかった。この埋め合わせは必ず――」

「午後、外商を呼びますわ」

「も、もちろん! いくらでもプレゼントしよう」

「……」


 夫人は無表情になり、じっとルーデルワルデ伯爵の顔を見る。


「しゅ、週末はデートに行こう」

「わたくし、帝都に行きたいですわね」

「もちろん! 帝都のオペラ座を予約しよう!」

「ええ。許しますわ」


 ルーデルワルデ伯爵はホッとした表情になり、手を差し出した。すると夫人はその手を取る。そうして二人は仲良く屋敷の中へと入っていくのだった。


 その様子を見守っていたドミニクはびくびくした様子でマルガレーテに声を掛ける。


「あ、あの……」

「……」

「マ、マルガレーテ……」

「……」

「れ、レディ……ど、どうか挽回の機会を……」


 するとマルガレーテは大きなため息をついた。


「ドミニク様はローザ嬢のようにお胸の大きな女性がお好きなんでしょう?」

「そ、そのようなことは!」

「嘘を仰らないで! 昨日も! それに先ほどだったあんなにじろじろと見ていらっしゃったじゃありませんか!」

「う……」

「どうしてあんな……わたくしたち、婚約しているのに!」

「マルガレーテ嬢! 私は貴女を愛しております!」

「嘘ですわ!」

「マルガレーテ嬢!」


 すぐに仲直りした伯爵夫妻とは対照的に、ドミニクとマルガレーテはしばらく口喧嘩を続けていたのだった。

 次回更新は通常どおり、2025/07/05 (土) 20:00 を予定しております。

 →多忙につき、次回更新は7/12 となります

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