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第五章第15話 帝国領に入りました

 それから何度となく魔物に襲われたようですが、やっぱり騎士団はすごいです。その度に馬車は少しの間止まっていましたが、結局あたしが魔物の姿を見ることは一度もありませんでした。


 そうして予定どおり五日で森を抜け、あたしたちはついにハプルッセン帝国の最初の町、ルーデルワルデにやってきました。


 ルーデルワルデは森の中の町で、高い石積みの壁に囲まれています。このあたりはまだまだ魔物が出るそうで、この壁は魔物たちから町を守るためのものらしいです。


 そうですよね。あれだけ大勢の騎士がいても襲ってくるぐらいですから、きっと恐ろしい魔物が住んでいるに違いありません。


 そう、例えばギガントスノーベアのように恐ろしい魔物が……。


 うっ。ちょっとあのときのことを思い出しちゃいました。


 一面のゴブリンの死体にひどい村の人たち……あれ? そういえばギガントスノーベアってパドゥレ・ランスカに来るかもって話だった気がしますけど、結局どうなったんでしょう?


 えっと……はい。そうですね。ここで考えたって分かるわけありませんし、きっとクリステア子爵がなんとかしてくれている……と思います。


 ……多分?


 はい。それよりも、ハプルッセン帝国に入ったんですから、これからは気を引き締めないと!


 そんなことを考えていると馬車がゆっくりと減速し、すぐに止まりました。するとラダさんが声を掛けてきます。


「お嬢様、本日の宿泊場所であるルーデルワルデ伯爵邸に到着しました」

「はい」


 着いたみたいです。


 扉が開き、あたしはラダさんにエスコートしてもらいながら馬車から降ります。するとそこには五人の貴族っぽい立派な身なりの人がいました。


 一人は茶髪の中年男性で、その隣には同じくらいの年齢のすらっとした金髪の女性がいます。きっと奥さんだと思います。


 さらにその隣には背が高くて若い大人の男性が二人と黒髪の若い女性がいます。


 ……あれ? なんだか黒髪の人、ちょっと不機嫌そうな顔をしています。何かあったんでしょうか?


 そんなことを考えながら歩き、あたしは中年男性の目の前までやってきました。


「ようこそハプルッセン帝国にお越しくださいました。私はこの地を治めておりますブルーノ・フォン・ルーデルワルデと申します。爵位は伯爵にございます」


 伯爵様はそう言うと、あたしの前で騎士の礼をしてきました。


 えっと……はい。こういうときは片手を差し出して……。


「ローザ・マレスティカです。お会いできて光栄です」


 あたしはそう言ってにっこりと微笑んでみました。


 ……引きつっていなければいいんですけど。


 すると伯爵様はあたしの手の甲にキスをする振りをしてきました。そしてじっとあたしの顔を見てきたかと思うと視線は下に移っていきます。


 あ、あの……そろそろ手を放してほしいんですけど……。


「あなた」


 隣にいる女性が冷たい声でそう言うと、伯爵様はビクンとなりました。


「ご令嬢、妻のコルドゥラでございます」

「コルドゥラ・フォン・ルーデルワルデですわ」

「ローザ・マレスティカです」

「マレスティカ公爵令嬢、お噂はかねがね伺っておりましたけれど……」


 伯爵夫人はそう言うと、あたしの顔から胸にかけてじろりと視線を動かしました。


「噂以上ですわね」

「えっと……」

「あら、そんな表情をなさらないで。それよりも、息子たちも紹介しますわ。さあ、あなた」

「あ、ああ。ご令嬢、ご紹介します。長男のドミニクと、その婚約者のクリープワイセ子爵令嬢です」

「ドミニク・フォン・ルーデルワルデと申します」

「マルガレーテ・フォン・クリープワイセですわ」

「ローザ・マレスティカです」


 するとドミニクさんがあたしの差し出した手の甲にキスをする振りを……って! ちょっと! 当たってます!


 うええ、気持ち悪い!


 それにこの人、顔じゃなくて胸を見てます!


「ちょっと、ドミニク? 何をしているんですの?」

「っ!? あ、いや、何も……」


 ドミニクさんはぱっと手を放してくれました。


 ううう、気持ち悪い。


「ご令嬢?」

「え? えっと、はい。大丈夫です」


 伯爵様が困惑した様子であたしのほうを見てきますが、なんだかその視線もあたしの胸に向かっているような……?


「続いて次男のライナーをご紹介します」

「ライナー・フォン・ルーデルワルデと申します。お美しいとの噂はお聞きしておりましたが、想像以上です。美の女神とはまさにレディのような女性のことをいうのでしょう。いえ、もしかすると美とはレディのことなのかもしれません」

「えっと……」

「ちなみにこのライナー、まだ婚約者はおりません!」

「はい?」

「お嬢様、はっきりとお断りになられたほうがよろしいかと」

「え?」


 エスコートしてくれているラダさんがそっと耳打ちをしてきました。


「これは要するに、婚約者になりたいと立候補しているのです」


 はい? 初めて会ったのに!?


「えっと、お断りまします」


 するとライナーさんは目をカッと見開き、がっくりとうなだれました。


 えっと……。


 あたしは困って伯爵様のほうを見ます。


 すると伯爵様は困ったような表情を浮かべ、小さくため息をついたのでした。


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 次回更新は通常どおり、2025/06/28 (土) 20:00 を予定しております。


 また、コミカライズ版テイマー少女の逃亡日記が公開されました。無料で公開されておりますので、コミカライズ版も応援のほど、よろしくお願いいたします。

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