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第五章第14話 朝になりました

 ローザが深い眠りについたころ、警備を担当する騎士たちは緊張した面持ちで森のほうをじっと見ていた。


 夜の森はシンと静まり返っており、騎士たちの緊張も相まってピリピリとした空気が漂っている。


「……妙だな。静かすぎる」


 一人の騎士がそう(つぶや)いた。


「……そうだな」


 隣の騎士がやや遅れて相槌(あいづち)を打つ。だが最初に呟いた騎士はそれには答えず、じっと森の奥を見つめている。


「どうした? 何か見つけたのか?」

「いや……」


 騎士はなおも、じっと森の奥を見つめ続けている。


「なあ、どうしたんだ?」

「いや。ただ、昼間のことが、な」

「昼間か……」

「ああ。これだけの人数がいれば普通は襲ってこないはずだが……」

「……俺ら、弱そうに見えたのか?」

「だとすると、あまりいい気分ではないな」

「ああ……」


 そこで話題が尽きたのか、騎士たちは再び森のほうをじっと見る。しかし相変わらず物音ひとつ聞こえないほどにシンと静まり返っていたのだった。


◆◇◆


 おはようございます。ローザです。


 ああ、なんだかすごく良く眠れました。


「ピ?」

「あ、ピーちゃん。おはようございます」

「ピピッ」

「今、起きますね」


 あたしが体を起こすと、ピーちゃんはぴょんとジャンプして、馬車の床に降ります。そのままするするとドアのほうに向かいます。


「あ、外に出たいんですか? 今開けますね」

「ミャ」

「あ、ユキ。おはようございます」

「ミャー」

「ちょっと、ユキ。ちょっと扉を開けてあげないと……」

「ミャー」


 ユキはもう少し寝たかったのか、あたしの膝の上に乗ってきてしまいました。


「ピピー」

「ごめんなさい。ピーちゃん、ちょっと待っ……え?」


 なんとピーちゃんは扉の隙間に近づくと、なんとにゅるにゅると形を変えてそこから外に出て行きました。


 す、すごい。ピーちゃん、いつの間にあんなことができるようになったんでしょう。


 前から体の一部を伸ばしたりしていましたけど、あんなに狭い隙間も通れたんですね。


「ピピッ」

「ホー」


 あ、天井からピーちゃんとホーちゃんの声が聞こえてきました。どうやらホーちゃんは馬車の屋根の上で寝ていたみたいです。


 あたしは膝の上で丸まっているユキの頭をそっと()でてあげます。するとユキは気持ちよさそうに目を細め、喉をゴロゴロと鳴らすのでした。


◆◇◆


 一方その頃、ローザから数十メートル離れた場所に数人の騎士たちが集まっていた。一人は今回王宮騎士団から派遣された騎士たちを率いる隊長で、残りは王宮騎士団の騎士たちである。


「一体どうなっている? 夜の警備担当はなんと?」


 隊長が怪訝そうな表情で部下たちにそう尋ねる。


「はっ。誰一人として気付かなかったそうです」

「気付かなかった? あの距離でゴブリンどもに気付かなかったというのか?」

「そのようです」


 隊長は眉間にしわを寄せ、厳しい表情になった。


「……もう一度聞く。本当に、本当に気付かなかったのか? ゴブリンだぞ? あの独特な鳴き声に気付かないことなどあるのか?」

「はい。不気味なほどに静まり返っており、物音一つしなかったと全員が口をそろえて言っております」

「物音一つしなかった?」

「はい。あ、いえ、正確には、そのような時間帯が何度もあった、と」

「ん? どういうことだ?」

「私も報告を受けただけですので……担当の者をお呼びしますか?」

「ああ」

「かしこまりました。少々お待ちください」


 そう言って部下の男は敬礼すると、走っていった。そしてすぐに騎士を二人連れて戻ってくる。


「ニネル卿、ブラトゥ卿、詳しい話を聞かせてほしい。不気味なほどに静まり返っていた時間帯が何度もあったそうだな?」

「はっ! そのとおりであります!」

「それはどういうことだ? 不気味なほど静まり返っていた、というのは?」

「その言葉のとおりです。木々が揺れる音も、虫の鳴き声も、何一つ聞こえませんでした」


 ニネルの返答に体調は再び眉間にしわを寄せ、険しい表情になった。


「……それはどのくらい続いたのだ?」

「はっ! 五~十分程度であります!」

「……あと、断続的と言っていたな。何度くらいあった?」

「私が担当している時間帯では三度であります」

「ブラトゥ卿」

「私は二度であります」

「時間の長さはニネル卿と同じか?」

「はっ! そのとおりであります!」

「そうか……」


 隊長はじっと考えるような表情になる。


「……卿らは、ゴブリンの鳴き声や断末魔は聞いていないのだな?」

「えっ!? ゴブリン!?」

「質問に答えよ」

「はっ! 失礼しました! そのようなものは一切耳にしておりません」

「お、同じくであります!」


 そう答えたニネルとブラトゥだったが、二人は明らかに困惑している。


「……そうか。どうやら我々は夜間にゴブリンどもの襲撃を受けていたようだ」

「えっ!?」

「そ、そんなはずは……」

「だが、近くにゴブリンどもの真新しい死体が転がっていた」

「「ええっ!?」」


 ニネルとブラトゥは顔を見合わせた。


「そして、いずれのゴブリンも後頭部から頸部にかけて、おそらく鋭い刃物によると思われる一撃を受けていた。他に傷はなかったので、恐らくその一撃で即死したのだろう」

「え……」

「夜間に森の中でゴブリンを……」

「まるで暗殺者のような手腕だ」

「……つまり、護衛の中に暗殺者がいるということでしょうか?」

「そんなわけはないだろう。であれば卿らには聞いていない」

「は、失礼しました」

「いい。マレスティカ公爵騎士団のほうに問い合わせておくが、このことは他言無用だ」

「「はっ!」」

「下がっていいぞ」

「「はっ!」」


 こうしてニネルとブラトゥは隊長の前を辞するのだった。

 次回更新は通常どおり、2025/06/21 (土) 20:00 を予定しております。


お知らせ:

 コミカライズ版テイマー少女の逃亡日記が 6 月 20 日の夕方ごろ、コミックノヴァさんにて公開となります。

 作画担当は水谷はつな先生です。ローザたちをとても可愛く描いてくれていますので、公開の際はぜひ、ご覧になってください!


https://www.123hon.com/nova/web-comic/tamer_girl/

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