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第五章第11話 お部屋に戻ってきました

 それからもヴラドレンさんはずっとあたしに話しかけながら胸をチラチラと見てきてすごく居心地が悪かったんですけど、なんとか我慢して、ようやく晩さん会が終わりました。


 ヴラドレンさんはあたしを部屋まで送るとか言ってきたんですけど、それは断って部屋に帰ってきました。


「ただいま」

「ミャー」

「ピッ」

「ホー」


 ユキたちが迎えてくれます。


 えへへ。なんだかホッとしますね。


「お嬢様、その子たちと触れ合う前にまずはお着替えをなさりませんと」


 あっと、そうでした。毛がたくさん付いたら大変なんでした。


「そうでした。ごめんなさい。えっと、じゃあお願いします」

「はい。お任せください」


 あたしはメラニアさんに手伝ってもらい、ドレスを脱ぎました。


「ピッ!」


 すると裸になったあたしにピーちゃんがぴょんと飛びついてきました。


「ちょっと、ピーちゃん。まだお風呂は――」

「準備しておきました。そちらの部屋にございますので、どうぞお入りください」

「本当ですか? ありがとうございます。ピーちゃん、行きましょう」

「ピッ!」


 こうしてあたしは隣の部屋に用意してもらったお風呂で、ピーちゃんに体を洗ってもらうのでした。


 えへへ。ピーちゃんのこれ、本当に気持ちいいんですよね。


◆◇◆


 お風呂から上がり、着替えるとメラニアさんは隣のお部屋に下がっていきました。あたしはベッドに腰掛けながら、膝の上にいるユキのふわふわな背中を()でます。


「シルヴィエさん、そろそろ来ますかねぇ」

「ミャー」

「でも、来るって約束してくれたんだからきっと来てくれるはずですよね」

「ミャー」

「はい。そうですよね」


 あたしはそのままユキの背中を撫で続けます。


 それにしても、やっぱりユキの毛並みって本当にすごいです。だって本当にふわふわで、なんだか撫でているだけで幸せな気分になれちゃうんですから。


 裕福な人の中には猫を飼う人がいるそうですけど、その人たちもきっとこうやって幸せな気持ちになるために飼っているに違いありません。


 そんなことを思っていると、突然ユキが顔を上げ、入口のほうに視線を向けました。


「ユキ? どうしたんですか?」


 しかしユキは返事をせず、じっと入口のほうを見つめています。


 えっと……あ! もしかして、シルヴィエさんが?


 立ち上がろうと思ったのですが、ユキが膝の上にいるので立ち上がれません。


「ミャー」

「ユキ?」

「ミャー」


 あたしのほうをじっと見てきます。


「えっと……」

「ミャー」


 何かを訴えかけてきています。


 ……あ!


 ユキを撫でる手が止まっていましたね。


 それなら今度は頭を撫でてあげましょう。こうするといつも目を細めて気持ちよさそうにしていますからね。


◆◇◆


 一方その頃、ローザが泊まっている部屋へと続く廊下にヴラドレンが現れた。どうやらかなり酔っているようだ。赤ら顔の彼は千鳥足でふらふらと歩いており、それを見た警備の騎士たちがすかさず進路に立ちはだかる。


「ここから先はマルダキア魔法王国の貸切エリアです。関係者以外は立ち入り禁止ですので、どうかお引き取りください」

「ああん? 誰に向かって口を聞いているんだ?」

「どうぞご理解ください。ここから先は、マルダキア魔法王国の関係者以外立ち入り禁止となります」


 事務的な対応にヴラドレンは腹を立てたのか、語気を強める。


「いいからそこを通せ! 俺はあの令嬢に用があるんだ!」

「許可のない者は通すなとの命令を受けております。どうぞお引き取りください」

「ああん? オーデルラーヴァの腑抜けどもが。俺は解放の英雄トビアス・アントネスクの孫だぞ!?」


 すると騎士たちは大きなため息をついた。


「つまり、ローザ・マレスティカ公爵令嬢に会いに来た、と?」

「そうだ!」

「このような夜中に?」

「男女の密会なんてもんはそんなもんだろうが」


 それを聞き、騎士たちは再び大きなため息をついた。


「なんだその態度は!」

「侯爵令孫、大事になる前にお帰り下さい」

「うるせぇ! 通せ!」


 ヴラドレンが無理やり押し通ろうとしたが、騎士たちはそれを力ずくで止めた。


「おい! なんのつもりだ!」

「そちらこそ、なんのつもりだ!」

「ああん?」

「貴殿が来るという話は聞いていない。面会であれば約束を取り付けたうえで出直しなさい。今ならば、酒に酔ったうえでのこととして大目に見よう」

「なんだと!? 何様のつもりだ! オーデルラーヴァの負け犬どもが!」

「我々はオーデルラーヴァの騎士ではない。マルダキア魔法王国王宮騎士団の騎士である」

「なっ!?」

「これまでの無礼の数々、ベルーシ王国とアントネスク侯爵家は、マルダキア魔法王国とマレスティカ公爵家を軽んじ、侮辱しているということで相違ないか?」

「あ、いや……」


 ようやくことの重大さに気付いたのか、ヴラドレンはバツの悪そうな表情で一歩二歩と後ずさる。


 だがまだ諦めきれないのか、廊下の先をじっと見つめている。


 それからしばしの沈黙が流れる。


 やがて騎士が口を開こうとしたそのとき、コツコツと足音を響かせながらシルヴィエがやってきた。


 彼らの様子に気付いたシルヴィエは不思議そうな表情で尋ねる。


「おや? 侯爵令孫、このような場所で一体いかがなさいましたか?」

「い、いや……」

「かなりお飲みになられたようですね。もしや、道に迷われましたか? よろしければご案内いたしますが……」

「あ、いや……気にするな」


 ヴラドレンはそう言うと、回れ右をして立ち去っていく。


「侯爵令孫、かなりふらついておいでです。部下に命じ、お部屋まで――」

「うるさい! 着いて来なくていい!」

「……かしこまりました。どうかお気をつけて」


 そう言ってシルヴィエは騎士たちのほうへと向き直る。


「オーデルラーヴァ騎士団の団長シルヴィエです。ローザ・マレスティカ公爵令嬢の夜間警護を依頼されています」

「はい。マレスティカ公爵騎士団のラダ卿より話は伺っています。どうぞお通りください」


 騎士たちは敬礼し、シルヴィエも敬礼で返す。そしてすぐにシルヴィエはローザの部屋のほうへと歩き出す。


 一方のヴラドレンはというと、遠ざかるシルヴィエの姿を(にら)みつけていたのだった。

 次回更新は通常どおり、2025/05/31 (土) 20:00 を予定しております。

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