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第五章第10話 小さな晩さん会に参加しました

 あたしはツェツィーリエ先生と一緒にエリク市長の晩さん会にやってきました。私的と言っていたとおりで、お部屋も小さくテーブルも丸テーブルが一つだけなので、晩さん会というよりは食事会といったほうがピッタリな気がします。


 あたしたちがお部屋に入ると、エリク市長の他に白髪のおじいさんとダークブロンドのちょっと目つきの鋭い若い男の人がすでにテーブルを囲んでいました。


 入ってきたあたしたちに気付いたエリク市長が立ち上がり、歓迎してくれます。


「ようこそいらっしゃいました。さあ、どうぞこちらへ」


 あたしたちはエリク市長に案内され、テーブルのところへ向かいます。


「公爵令嬢、学園長先生、ご紹介いたします。こちらの方がベルーシ王国のアントネスク侯爵閣下で、そのお隣の方が侯爵閣下のご令孫となります。アントネスク侯爵閣下、マレスティカ公爵令嬢とマルダキア魔法学園の学園長先生です」

「おお、これはこれは」


 アントネスク侯爵は立ち上がり、あたしの前で(ひざまず)きました。あたしが手を差し出すと、手の甲にキスをする素振りをしてきます。


「アントネスク侯爵トビアス・アントネスクでございます。貴女のようなお美しいご令嬢とお会いできて光栄に存じます」

「マレスティカ公爵家のローザ・マレスティカです。私こそ、お会いできて光栄です」


 するとアントネスク侯爵は立ち上がり、目つきの鋭いお孫さんのほうをちらりと見ました。するとお孫さんがつかつかとやってきて、ニヤリと笑みを浮かべました。


 ひっ!?


 背筋に悪寒が走ります。


「ヴラドレン・アントネスクと申します。お噂はかねがねお聞きしておりましたが、聞きしに勝るとはまさにこのこと。きっと夜空の星々ですらご令嬢の美しさの前には恥じ入ってしまうことでしょう」

「えっと……」


 な、なんなんですか? この人。こんなところで初対面なのにいきなりそんな見え透いたお世辞を……あの、あんまり胸をじろじろ見ないでほしいです。


 しかも目つきは鋭いのにそれが微妙にだらしなくなっていて……気持ち悪いです。


 う……気持ち悪いです。


 で、でも! あたしは大人ですからね。もうちょっとで卒業する予定なんです。だからちゃんと大人の対応をしないと!


「お、おあいできてこうえいです」


 あ、いけません。なんだか棒読みみたいになっちゃいました。


 やっぱり馬鹿にされたって怒っ……てはいないみたいですね。


 なんだか余計にだらしない顔になっています。


「まさか声もこれほどお美しいとは! 絶世の美女とはローザ嬢のためにあると言っても過言ではないないでしょう」

「は、はぁ……」

「ローザ嬢の美貌は、このヴラドレンがこれまでお会いした女性の中でも一番ですよ。もし叶うのなら、このまま連れ去って――」

「うおっほん!」


 アントネスク侯爵のわざとらしい大きな咳ばらいをしました。ヴラドレンさんはギロリとアントネスク侯爵を一瞬(にら)みましたが、すぐに元のデレデレした表情に戻ります。


「名残惜しいですが、仕方ありませんね」


 そういってヴラドレンはツェツィーリエ先生に挨拶をしたのでした。


◆◇◆


 席に着くとすぐに料理が運ばれてきました。それからアントネスク侯爵の音頭で乾杯をして、晩さん会が始まります。


 えへへ。さっそく食べ始めましょう。どれからにしましょうかね。


 えっと……まずはこのお肉のローストを……。


「ローザ嬢」

「え? は、はい」


 向かい側の席に座っているヴラドレンがさっそく話しかけてきました。


「この赤ワイン、アントネスク侯爵領からわざわざ運ばせた二十二年物なのです」


 そう言いつつも、ニヤニヤしながらあたしの胸をチラチラと見ています。


 ……はぁ。本当に気持ち悪いです。


 でも、このくらいならもう気にならなくなってきました。クラスの男子たちも、みんなこんなかんじですからね。


 それに……ほら。王太子様の目線だけ固定するアレに比べたら大分マシなんですよ。


 ……う、思い出しただけでも悪寒が……。


「それにこのワイン、私が生まれた年のものなのです」

「そ、そうなんですね」

「はい。ですからローザ嬢も一杯、いかがですか?」


 あの、そういうことをする前に、まずはあたしの胸をチラチラ見るのをやめてほしいんですけど……。


「えっと……あ、あたしはまだ十六になっていないですからお酒は……」

「ベルーシにはそのような決まりはありませんよ」

「えっと……」

「さあ、ローザ嬢。ぜひ!」

「そ、その……」


 強引に勧めてくる前に、まずは胸をチラチラ見るのはやめてほしいんですけど……。


「侯爵ご令孫、さすがに――」

「ヴラドレン! 止めぬか!」


 後ろで控えてくれていたラダさんが止めに入ろうとしてくれた瞬間、アントネスク侯爵が大声でヴラドレンさんを止めてくれました。


「なっ? おじい様?」

「侯爵閣下、だ!」

「う……侯爵閣下」

「マルダキア魔法王国の公爵令嬢に対して失礼だ。謝りなさい」

「え? 私は単にワインを勧めていただけで――」

「黙らんか! マルダキア魔法王国では十六歳まで酒は禁止だ。我が国とは違う。そんな基本的な礼儀すらも忘れたのか!」

「……」

「公爵令嬢、儂の孫がとんだご無礼を。申し訳ない」


 なんとアントネスク侯爵が謝罪してきました。


 ベルーシの貴族って怖い人たちばかりって印象でしたけど、もしかしたらアントネスク侯爵は違うのかもしれません。


「い、いえ……大丈夫です」

「ほれ! ヴラドレン! 謝らんか!」


 するとヴラドレンさんは、明らかに納得していないといった表情のまま謝ってきます。


「……貴国の風習を軽んじ、失礼いたしました。どうか寛大な心でお許しください」

「はい。その謝罪を受け入れます」


 はい。悪いって思っていないのは見え見えですけど、私はもう大人ですからね。許してあげることにします。


 こうしてあたしたちは晩さん会を続けるのでした。


 はぁ。早く終わってほしいですけど……はぁ。エリク市長に悪いですし、頑張ってお付き合いしようと思います。

 次回更新は通常どおり、2025/05/24 (土) 20:00 を予定しております。

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