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第五章第9話 お部屋に案内されました

 あたしはシルヴィエさんにエスコートされ、広い廊下を歩いていると司書さんが話しかけてきました。


「マレスティカ公爵令嬢はたしか、こちらの迎賓館にお越しになるのは初めてでしたね?」

「はい。前は騎士団の女子寮にいましたから……」

「ええ、そうでしたね。あのときは……失礼いたしました」

「えっ?」

「当時の第一騎士団の者が大変なご無礼をいたしました。心より、お詫び申し上げます」


 司書さんはそう言ってあたしのほうに向き直り、じっとあたしの目を見てきます。


「そんな……司書さんは、エリク市長はあたしのことを守ってくれました」

「そう仰っていただけるのは光栄ですが、今の私は一司書ではなく、オーデルラーヴァの市長です。彼らのしでかしたことの責任は私にあります。もちろん、騎士団長のシルヴィエもそうです」

「はい。あのときはご不快な思いをさせてしまい、大変申し訳ございませんでした」

「そんな! シルヴィエさんは!」


 あたしが立ち止まると、シルヴィエさんも立ち止まってじっとあたしの目を見てきます。そして……。


「申し訳ございませんでした」


 もう一度謝られてしまいました。


 これって……はぁ。そう、ですよね。あたしだってもう子供じゃありません。そのくらいは分かります。


 でも、こんなのって……あんまりです。


 だけど……。


 あたしはぐっと感情をこらえ、なんとか笑顔を作りました。


「はい。もう気にしていません。だからもう謝らないでください」

「感謝いたします」


 エリク市長はそう言って、ニコリと微笑みました。


「公爵令嬢、どうぞこちらへ」

「はい」


 あたしたちは再び歩き始めます。そしてしばらく進むと、大きな扉の前までやってきました。


「こちらが公爵令嬢にお使いいただく部屋となります」


 そう言ってエリク市長が自ら扉を開けてくれました。とても広いお部屋ですが、大公の間のように金ぴかじゃなくて、落ち着いた感じです。


 ただ、広さの割には調度品の数が少ないような気がします。おかげでなんだかちょっとスカスカな印象ですし、調度品の品質も多分トレスカの公爵邸のもののほうがいい気がします。


「侍女の方と護衛の方の部屋はあちらとなります。鍵はラダ卿にお預けすればよろしいでしょうか?」

「はい」


 ラダさんはエリク市長から鍵を受け取ります。


「それと公爵令嬢。突然で申し訳ないのですが、本日、私的に晩さん会を開催することになりました」

「え? 晩さん会、ですか?」


 そんな予定、聞いていないんですけど……。


「実は、ベルーシ王国よりアントネスク侯爵閣下が急遽お越しになられたのです」

「えっ? アント……?」

「アントネスク侯爵閣下です」

「えっと……」


 すみません。ベルーシ王国の貴族までは習っていません。


「アントネスク侯爵閣下はベルーシ王国より騎士団を率い、貴国の王太子殿下と共にルクシアを追放し、オーデルラーヴァを解放してくださった恩人なのです」

「そ、そうなんですね……」

「はい。ですので歓迎をしないというわけにはいかないのです。急なお願いで大変申し訳ございませんが、正装でのご参加をお願いできませんでしょうか?」


 そういうことなんですね。それじゃあ仕方ありません。


「わかりました。参加します」

「ありがとうございます」


 エリク市長は再びニコリと微笑みました。


「それでは、我々はこれにて失礼いたします。晩さん会までどうぞ、ごゆるりとおくつろぎください」


 エリク市長とシルヴィエさんが礼を執り、退出していこうとします。


「あっ! シルヴィエさん」

「はい、なんでしょうか?」

「えっと……」


 あたしはシルヴィエさんに近寄り、その手を握ります。


「あの、あたし、シルヴィエさんにはとても感謝しています。だから……」


 するとシルヴィエさんは困ったような表情を浮かべます。


「ありがとうございます」

「あの、だから、その……」

「はい」


 シルヴィエさんはじっとあたしの目を見つめてきます。


「ま、前みた――」

「ご令嬢」


 するとシルヴィエさんはすぐさまあたしの言葉を遮り、首を横に振りました。


「どうかご容赦ください。お嬢様はマレスティカ公爵家のご令嬢であり、私は平民の騎士に過ぎません」

「う……でも……」

「どうか、ご理解ください」


 ぴしゃりと冷たく突き放されてしまいました。


「……はい」


 悲しいですけど……そう、ですよね。わがまま、ですよね。


「ご理解頂けて何よりです」


 そう言ってシルヴィエさんはあたしの前に(ひざまず)き、握っているあたしの手の甲にキスをする仕草をしてきました。そしてそのまま顔を耳元に近づけてきます。


「夜ね。警護っていうことにして行くわ。そういうのはそのときに。ね?」


 シルヴィエさんがそっと耳打ちしてきました。


「!」

「お嬢様、これにて失礼します」


 シルヴィエさんはそう言って、するりと離れて行ったのでした。

 次回更新は通常どおり、2025/05/17 (土) 20:00 を予定しております。

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