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第五章第7話 出発します

「実はね。この件を提案したのは私なの」

「えっ!? ど、どうしてツェツィーリエ先生が?」

「もしかしたら、ローザちゃんにはいい機会になるかもしれないって思ったからよ」

「いい機会、ですか?」

「そう。ことの始まりはね。聖者フリートヘルムが私に相談してきたことなの」

「聖者? ってなんですか?」


 するとツェツィーリエ先生は一瞬ポカンとした表情を浮かべました。ですがすぐにいつもの優しい表情に戻ります。


「あらあら。そうね。知っているわけなかったわね。光属性魔法を使う男性を指す、ハプルッセン帝国での呼び名よ」

「へっ!?」

「あら? 何がそんなに意外だったのかしら?」

「え? だって、光属性魔法を使う男の人がいるなんて……」

「あらあら。何を言っているのかしら? 光属性に適性があるのが女性だけだなんて、どうしてそう思ったのかしら?」


 ツェツィーリエ先生はそう言って表情をくしゃりと崩しました。


「えっと、だって、ツェツィーリエ先生もリリアちゃんは女性ですし……あと、ルクシアの奴らも聖女って言って女の子を集めてるって……」

「そうね。ルクシアでは、光属性は女性だけしか使えないってことになっているわね。でも、実際は使ってはいけないことにしているんでしょうね」


 そうなんですね。でも現実にいる人まで否定するなんて、やっぱりルクシアっておかしいです。


 そもそも、どうしてそんな神様を信じようって思えるんでしょうか。あたしだったら絶対に信じないと思います。


「だからルクシアになったって聞いてフリートヘルムのことは心配していたのだけれど……どうやら昔からハプルッセンにいたルクシアは光属性魔術を使う男性のことを聖者って呼んでいたそうなの」

「はぁ、そうなんですね」

「ええ。それで、ルクシアになったときに、ハプルッセン帝国内に限って聖者を認めたらしいわ。おかげで彼の生活は、それまでと何も変わらなかったそうよ」


 あの、いくらなんでもちょっと適当過ぎるんじゃないでしょうか?


 一応、神様が男の人は光属性は使えないって言ったってことになっているんですよね? それをそんな簡単に破るなんて……。


「それから、彼はルクシアには帰依しなかったそうよ」


 なんだか……もうわけがわからないです。


「ちょっと脱線しちゃったから、話を戻すわね」

「はい」

「それでローザちゃんにとっていい機会になるかもしれないっていうのはね。ハプルッセンで魅了の被害者かもしれない人が見つかったからなの」

「ええっ!? 本当ですか!?」

「ええ、そうよ。ただ、彼が一人で解除する自信がないって、私に立ち会いを頼んできたの」


 なるほど。そうなんですね。


「それで、もしかしたら実物を見ることでローザちゃんが魅了解除を覚える手助けになるんじゃないかと思って提案したの。ほら、ローザちゃん、やっぱり苦戦しているでしょう?」


 う……それはたしかにそうです。魅了の解除なんて、一体何をすればいいのかさっぱり想像がついていません。


 このままじゃきっと魅了解除ができなくて落第しちゃいそうですし……はい。せっかくツェツィーリエ先生がこう言ってくれているんです。


「分かりました。ちょっと怖いですけど……頑張ります」

「ああ、良かったわ。断られたらどうしようと思っていたの」

「そんな……ツェツィーリエ先生があたしのためを思って提案してくれたんです。きっと魅了解除を使えるようになってみせます!」

「ふふ。いいわね。その意気よ」


 こうしてあたしのハプルッセンでの課外活動が決まったのでした。


◆◇◆


 季節は巡り、あっという間に夏休みになりました。期末試験も終わり、苦手な数学の試験もどうにか落第を免れました。


 それと、属性魔術③(光)も、今学期は落第せずに済みました。といっても魅了解除の魔術が使えるようになったわけじゃなくて、授業の内容が途中から病院巡りに変更になったからです。


 というのも、ツェツィーリエ先生が、あたしの魔法は理論を勉強したところでできるものではないってアドバイスをしてくれたんです。


 それでツェツィーリエ先生が、教室で悩んでいるよりももっとたくさん光属性魔法を使って魔力の扱いを上手くなったほうがいいでしょうって気を回してくれて、授業の内容を変えてくれたんです。


 といっても、卒業するには魅了解除ができるようにならないと卒業できないのは変わらないので、学年末試験はこのままだと落第してしまいます。


 もっとたくさん魅了解除が発動できるか試してみたいんですけど……ツェツィーリエ先生がそう言ってくれているんですから、きっとこういうのも必要なんだと思います。


 それに、夏休みはハプルッセン帝国で過ごします。その聖者フリートヘルムさんに会って、実際に魅了を受けた患者さんを見れば何かが分かるかもしれません。


 その準備だと思えば、悪くないかもしれません。


 さて、そんなわけで、今日はハプルッセンに向けて出発する日です。


 一応、今回の訪問はツェツィーリエ先生が聖者フリートヘルムさんを訪ねるというプライベートなものということになっているんですけど……なんと、あたしたちは総勢で五百人以上というとんでもない大集団です。


 どうしてそんなに大勢いるのかっていうと、一番の理由はもちろん護衛騎士の皆さんが大勢いるからです。


 マレスティカ公爵騎士団の人員に加えて王宮騎士団からも百人以上が参加していて、ついでに外交官の人も何十人かいるらしいです。


 そのうえあたしの予定にも向こうの皇帝との謁見が入っているんですよね。


 これ、絶対プライベートじゃないですよね。


「お義父様、お義母様、お義姉様、いってきます」

「ああ、行ってらっしゃい」

「気を付けるんですのよ」


 あたしは三人と順番にハグをすると、ラダさんにエスコートされて馬車に乗り込みます。室内にはツェツィーリエ先生が座っています。


 こうしてあたしはハプルッセン帝国に向けて出発したのでした。

 次回更新は通常どおり、2025/05/03 (土) 20:00 を予定しております。

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