表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
273/298

第五章第5話 お掃除が終わりました

 ふう。お掃除が終わりました。ユキが埃を外に飛ばしてくれて、ピーちゃんが汚れを綺麗に拭いてくれたおかげです。


 あ! 花瓶のお花がしおれちゃっています。


 お花は園芸部の人にお願いして届けてもらっているので、あとで園芸部の部室に行かないといけません。


 えっと、このまましおれちゃったお花を飾り続けるわけにもいかないですよね。


 ちょっと殺風景になっちゃいますけど仕方ありません。まずはこのしおれちゃったお花をゴミ箱に……えい。


 ふう。終わりました。


 と、そのときです。入口のドアがノックされました。


「はい。どうぞ」

「失礼します」


 あ……この声……。


 勢いよく扉が開き、フランツが入ってきました。


 その手にはなぜか真っ赤な薔薇の大きな花束があります。


 フランツが花束なんて珍しい……あ! もしかして替えのお花を貰ってきてくれたんでしょうか?


 だとしたら、一昨日の生徒会のときにそろそろお花がしおれちゃうって気付いていたってことですよね?


 もしかして、フランツって意外と気が利く――


「ローザ嬢」


 フランツがずかずかと近づいてきました。


「は、はい」

「今日も変わらずお美しいですね。貴女に会えなかった日々がどれだけ辛かったことか」

「はぁ」


 あの……一昨日会ったばかりだと思うんですけど……?


「ああ! やはり声まで美しい」


 えっと……。


 フランツは花束をずい、とあたしに向かって差し出してきました。


「そんなローザ嬢を想い、花束をご用意いたしました。どうかお受け取り下さい」


 え? あたしにですか?


 はぁ。気が利くなんて一瞬でも思ったあたしが馬鹿でした。


「さあ! どうか!」


 フランツが花束をさらに差し出し、あたしに押し付けてきます。


「あ、えっと……」

「ピッ」


 なんとピーちゃんが体の一部を触手のように伸ばし、差し出されている花束をひょいと取り上げました。


「え? ピーちゃん?」

「なっ!」

「ピピッ」


 ピーちゃんはするすると器用に花束の包装を取り除き、そのまま花瓶にスポンと挿してくれました。


 あれ? なんだか生徒会室がとっても華やかになりました。薔薇も悪くないですね。


「このっ……ぐ……」


 フランツは一瞬声を荒らげ、右手をピクリと動かしました。でもそれだけで、それ以上は何もしてはきません。


 あ……良かったです。もしピーちゃんが叩かれていたら……。


「ピーちゃん」


 あたしはピーちゃんをそっと抱っこします。


「ピピッ」


 ピーちゃんはあたしの腕の中でプルプルと震えています。


 ……怖かった、というわけではなさそうですが、やっぱり危ないことはしてほしくありません。


 さっきのフランツの目、ものすごかったです。今だってピーちゃんを(にら)んでいますし。難癖をつけられて、もしピーちゃんを取り上げられるなんてことになったら…!


 あたしはフランツに聞こえないように、そっと(ささや)きます。


「怒らせちゃダメですよ。叩かれちゃうかもしれませんから」

「ピピ~」


 え? 大丈夫だ、ですか?


 もう。まったく。


 ガラガラガラ!


「ごきげんよう、ローザ。殿下も」

「あ! お義姉様、ごきげんよう」

「……ごきげんよう」


 あたしは元気よく挨拶しましたが、フランツはまだ少し不機嫌そうにしています。


「あら、見違えるように綺麗になっていますわね。二人が掃除をしてくれたんですの?」

「え? えっと……」

「ピピッ!」

「ミャッ!」

「そう。ローザとピーちゃんとユキの三人で頑張ってくれたんですのね」

「ピピー!」

「ミャー!」

「その薔薇はどうしたんですの?」

「ピピッ!」


 ピーちゃんがフランツのほうを指さします。


「そう。殿下、感謝しますわ」

「いえ……」

「でも、生徒会室の花は学園の予算でまかなっていますから、次の花がすぐに園芸部から届けられます。このままではその花を活ける場所がありませんから、あちらの薔薇は廊下に飾っておいてくださいまし。花瓶は用務員に言えばいただけますわ」

「え?」

「では殿下、用務員室に行ってきてくださる? まだ他の者たちは来ていませんし、頼まれてくださいますわね?」

「……はい」


 フランツはあからさまに肩を落とし、とぼとぼと用務員室へと向かうのでした。それを見送ったお義姉様は小さくため息をつき、ぼそりと(つぶや)きます。


「やれやれ、困ったお方ですわね」

「……はい」


 あたしはついそれに返事をし、それを聞いたお義姉様は、今度は大きなため息をつきました。


「あの薔薇をローザに持ってきたんですのね?」

「はい。想いを受け取ってほしいって言われて……」

「はぁぁぁぁ」


 お義姉様はまたしても大きなため息をつきました。


「その気はないんですのよね?」

「もちろんです!」

「なら、きっぱり断ってやりなさい」

「う……断っているんですけど……」

「……そう、ですわね。ハプルッセンの皇族が簡単に諦めるわけありませんわね」


 そう言うと、お義姉様は三度目の大きなため息をついたのでした。

 次回更新は通常どおり、2025/04/19 (土) 20:00 を予定しております。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ