第五章第4話 見つかったそうです
それからあたしはツェツィーリエ先生に魅了解除の魔術を教えてもらいました。ただ、どうして魅了の解除が出来るのかがさっぱりわからないので、まったく発動できませんでした。
なんでもこの術式は分からなくなってしまった部分も多いらしくって、ツェツィーリエ先生もどうしてこれで魅了が解除出来るのかは知らないんだそうです。
……どうしてツェツィーリエ先生はこの魔術を発動できるんでしょう?
もちろんそのための術式だっていうことは授業で習いましたけど……やっぱりなんだか納得いきません。
と、そんなこんなで苦労しつつも、新学期に入って二週間ほどが経ったある日のことでした。
いつもちょっかいを出してくるフランツに辟易しつつもなんとか生徒会のお仕事を終え、寮に帰ってくるとアリアドナさんに声をかけられました。
「あら、ローザさん。お帰りなさい」
「ただいま戻りました」
「ローザさんに、マレスティカ公爵閣下からお手紙が届いていますよ」
「え? お義父様からですか? ありがとうございます」
あたしはアリアドナさんから手紙を受け取り、自分のお部屋に戻ってきました。
「お手紙って何でしょうね?」
「ミャー」
「えへへ。そうですよね。開けてみないと分かりませんよね」
あたしはすぐにペーパーナイフで封筒を開け、便せんを取り出します。
えっと……王太子様が今度帰ってくるらしいです……えっ!? シルヴィエさんが!?
「ユキ! ピーちゃん! ホーちゃん! シルヴィエさんが無事だったらしいですよ!」
「ピ?」
「ミャ」
「ホー」
ユキたちがすぐに机の上に乗ってきて、手紙をじっと眺めています。
「ほら。ここです。近郊の支村に潜伏していた第七隊のシルヴィエ副隊長が出頭してきて、無事が確認されたって書いてあります」
「ピピ」
「ミャー」
「ホー」
「はい! 良かったです! でも、オフェリアさんはまだ……」
それにブラジェナさんやソニャさんたちだって……。
「ミャー」
「あ……はい。大丈夫です」
あたしは心配してくれたユキのふわふわの毛並みをそっと撫でます。
ふぅ。やっぱりユキを撫でるとすごく気持ちが落ち着きますね。
はい。大丈夫です。あたしはもう大人ですからね。
「えっと、続きを読みますね……えっと……やっぱり第七隊は解散になっちゃったみたいです。あ! シルヴィエさん、状況が落ち着いたら会いに来てくれるそうですよ。えへへ。ちょっと楽しみですね」
「ミャッ」
「ホー!」
「ピピー?」
「えっ? ピーちゃんは楽しみじゃないんですか?」
「ピー」
「えっと……嫌ってわけじゃないんですよね?」
「ピー」
そうみたいです。
「じゃあ……」
「ピー」
「……えっと、心配してくれているんですか?」
「ピ」
「シルヴィエさんなら大丈夫ですよ」
「ピピッ! ピー! ピピ!」
「え? えっと……あ! もしかして第七隊のお姉さんたちがみんなルクシアだったから……」
「ピッ!」
「でも、シルヴィエさんは違うはずです。だって、ピーちゃんを見ても気にしいなかったじゃないですか」
「ピピッ! ピピー! ピッ! ピッ!」
「えっと……はい。分かりました。でも、あたしのことを心配してくれているんですよね? ありがとうございます。ちゃんと気を付けますね」
「ピピッ」
ピーちゃんはそう言ってふるふると震えていたのでした。
◆◇◆
今日の授業が終わりました。今日は苦手な数学の授業がなかったのでなんだか気分がいいですね。
というわけで、あたしは生徒会室にやってきました。お義姉様は学年代表の仕事があるので、今はあたし一人です。
ノックをしてみますが返事がありません。
あれ? もしかして誰もいないんでしょうか?
あたしは扉を開けようとしましたが、鍵がかかっています。
どうやらあたしが最初だったみたいです。仕方ないですね。
あたしは職員室で鍵を借りて中に入ります。部屋の中はがらんとしていて、なんだかちょっと寂しいです。
えっと……そうですね。ただ待っていても仕方ないですよね。
あたしができることは……そうですね。お掃除でもしようと思います。
「ピーちゃん、せっかくですからお掃除しちゃいましょう」
「ピッ!」
「ユキ、ちょっと椅子の上にいてくださいね」
「ミャー」
あたしは早速隣の備品室からはたきを持ってきました。そして窓を開けると、埃をはたいていきます。
わわっ! すごい量です。こんなにたくさん! そういえば最近、ちゃんとお掃除していませんでしたもんね。
「ミャッ!」
突然ユキが小さく鳴いたかと思うと、風が吹き始めました。しかも驚いたことにその風は舞い上がった埃だけをまとめて窓の外へと飛ばしています。
「ええっ!? もしかして、今のはユキがやったんですか?」
「ミャー」
ユキがどうだとでも言わんばかりの表情であたしのほうを見てきます。
「すごい! すごいです! ユキ、風属性魔法もこんなに上手なんですね!」
「ミャー」
えっと、大したことない、でしょうか?
でも、やっぱりドヤ顔していますよね。それに尻尾も動いているので、これって絶対喜んでいますよね。
「ユキ! ありがとうございます。すごいです」
そう言ってユキの頭を撫でてあげます。するとユキは気持ちよさそうに目を細めたのでした。
次回更新は通常どおり、2025/04/12 (土) 20:00 を予定しております。





