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第四章最終話 クーデターの末路

 ここは帝都の宮殿の地下牢。薄暗く、悪臭が漂っている。そんな地下牢の一角に、鎖に繋がれたレオシュの姿があった。


 その体のあちこちに青あざや傷痕があり、顔面は原形をとどめていないほどに腫れあがっている。


 そして今日も尋問という名の拷問が始まる。


「今日こそ吐いてもらうぞ」

「う……」

「オフェリア・ピャスクに何をした?」

「それは……」

「さっさと答えろ。それとも右手の爪もいらないのか?」

「そ、その……」

「吐けって言ってるだろうが!」


 ピシャン!


 尋問官の怒号と共に、勢いよく鞭が振り下ろされる。


「ぎゃぁぁぁぁぁ!」


 レオシュの絶叫が地下牢に響き渡る。


「叫べなんて言ってねぇ! 答えろ! オフェリア・ピャスクに何をした!」


 ピシャン!


「ぎゃぁぁぁぁぁ!」

「何叫んでんだ! 吐けって言っただろうが!」


 尋問官はレオシュに答えさせることもなく、何度も何度も鞭を振り下ろす。


 やがてレオシュの反応が鈍ってくるとようやく、尋問官は鞭を振り下ろすのをやめた。


「さて、そろそろ吐く気になったか? オフェリア・ピャスクに何をした? どうすればあんな風になるんだ?」

「あ……」


 レオシュは口を開くが、そのままパクパクと口を動かすだけだ。


「聞こえねぇぞ!」


 ピシャン! パシーン!


「うぅぅぅ」


 レオシュは痛みにうめき声を上げるが、やはり答えはしない。


「ちっ。ならば仕方ないな。右手の爪も……」


 尋問官はレオシュの右手に手を伸ばすが、すぐにそれを引っ込めた。


「ああ、そういえばもうやった後だっけか。なら指にするか?」


 それを聞いたレオシュは弱々しく首を横に振るった。


「なら吐けや。何をしたんだ?」

「う……あ……」


 レオシュは口をパクパクと動かすだけで答えない。


「なめてんじゃねーぞ!」


 パシーン!


「うぅぅぅぅぅ」


 再び鞭で打たれた痛みにレオシュはうめき声を上げた。


 尋問官はその後も苛烈な拷問を加え続けたが、レオシュはオフェリアに何をしたかを答えることはなかったのだった。


◆◇◆


 それから数時間後、尋問官たちは宮殿内の一室に集まっていた。そこには尋問官だけでなく皇帝が出席しており、先ほどまでレオシュを尋問していた尋問官に直接質問する。


「まだ吐かぬのか?」

「申し訳ございません。なぜかオフェリア・ピャスクに関することだけは頑なに吐かないのです。ルクシアとの連絡方法や財産などについてはすぐに口を割ったのですが……」

「やはりそうか」

「え? やはり、と申しますと?」

「ああ、こちらの話だ。それよりも、これ以上の尋問は時間の無駄だ。あのクズへの尋問は止め、周りの者たちの尋問をせよ。特に……そうだな。側近の騎士モドキどもではなく、側仕えをしていたメイドあたりが何か知っているかもしれんぞ」

「メイドごときがですか?」

「そうだ。くれぐれも丁重に扱え」

「はっ! かしこまりました!」


 こうして皇帝の勅命を受け、尋問官たちはレオシュが連れてきた女性たちに対する尋問に取り掛かるのだった。


◆◇◆


 それから数日後、再び尋問官たちが皇帝のところへと報告にやってきた。


「どうであった?」

「はっ! オーデルラーヴァにて、当時監禁されていたオフェリア・ピャスクの世話をしていたという女がおり、オフェリア・ピャスクが突然変わったその前後についての証言を得ました」

「で?」

「まず前提情報ですが、世話をさせられていた当時、オフェリア・ピャスクは手足を鎖で繋がれ、あのクズによって凌辱されていたそうです。彼女の役目はその世話だったそうです」

「ふむ。で?」

「あのクズは常にオフェリア・ピャスクを犯しながらも馬鹿にされ続けていました。その日もあのクズは犯した後に馬鹿にされて激怒していたそうなのですが、彼女が体を清めてやっていたところに黒い宝石のついた怪しいペンダントを持ったクズが戻ってきて、突然怒鳴り散らされ、追い出されたそうです」

「で?」

「その後、すぐに呼び戻され、メイド服に着替えさせるようにと命じられたそうです」

「うん? その者はメイドなのではなかったか?」

「はい。そのとおりでございます。命令は彼女に、人形となったオフェリア・ピャスクにメイド服を着せろ、ということだったようです」

「……つまり、そのペンダントが怪しい、と?」

「はっ。あのクズの荷物を探したところ、これがそうなのではないか、とのことです」


 尋問官の男はそう言って燃えるように赤い大きな宝石があしらわれた禍々しい意匠のペンダントを差し出してきた。


「……赤い宝石ではないか」

「ですが、彼女によると宝石以外はこれで間違いないとのことです」

「ふむ」


 皇帝は怪訝そうな表情を浮かべつつ、そのペンダントを手に取った。


「……ほう。これは……」


 皇帝はスッと目を細め、ニヤリと笑う。


「陛下?」

「ん? ああ、うむ。これは余が預かっておく。それよりも続きを述べよ。その女はこのペンダントやオフェリア・ピャスクを人形にした方法について何か知っているのか?」

「いえ。知っているのは以上だそうです。どうやら自分も同じことをされるのかと恐れ、何も聞かなかったとか。その後はすぐにあのクズの担当からも外されたとのことで、次にオフェリア・ピャスクと会ったのはオーデルラーヴァから逃げるときだそうです」

「……ふむ。賢明だな。だがその女はなぜここに? 普通であれば処分されているだろうに」

「それが、どうやら彼女はあのクズの最側近の男の身内なのだそうです」

「なるほど。それで切れなかったということか。甘いな」

「それで……その……彼女とその男の命を助けるという条件で情報を聞きだしたのですが……」

「うむ。構わぬ。その女は丁重に保護し、安全を確保せよ。男のほうは……そうだな。どこかの鉱山にでも送っておけ」

「はっ!」


◆◇◆


 その後、レオシュ・ニメチェクをはじめとする騎士たちのほとんどはハプルッセン帝国によってオーデルラーヴァへと引き渡された。そのときのレオシュたちは体中に拷問を受けた(あと)があったが、王太子たちはそのことに目をつぶり、尋問の後に衆人環視の下で処刑した。


 こうしてレオシュたちのクーデターから始まったオーデルラーヴァ王国は滅亡したのだった。

 次回更新は執筆が順調に進めば 2025/03/08 (土)、そうでない場合は 2025/03/15 (土) 20:00 となる予定です。

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