第四章第117話 きっと違うはずです
「そ、そんなはず……ないです」
「詳しく教えてちょうだい。どうしてそう思ったんですの?」
「えっと……だって、オフェリアさんはあたしが光属性を持っていることを知ったらルクシアに行っちゃダメって……それに皆さんとても、とっても良くしてくれて……それなのにあいつらの仲間だなんて! そんなはず、そんなはずないです!」
「……そうですのね」
「はい! だから!」
「でも、そうは思えないそうですわ」
「えっ!? な、なんでですか?」
「それは第七隊の、いえ、元第七隊の騎士たちが見つかった場所がルクシアの教会だったからですわ」
「ええっ!? どうしてそんなところに?」
「しかも全員がルクシアに帰依し、修道女として祈りを捧げる生活をしていたそうですわ」
「ええええっ!? そんな!」
「騎士たちにもルクシアに帰依するようにと説法をしてきたそうですわ」
「そんな……あたしにはそんなこと……」
「そう。一度もそういったことをはなかったんですのね?」
「はい。そうです」
「そう。分かりましたわ。ただ、殿下は最初から第七隊はルクシアに乗っ取られていて、オフェリア隊長とシルヴィエ副隊長だけが違ったと考えているようですわ」
「そんな……!」
「その証拠に、ローザちゃんの引き渡しを公然と要求してきたそうですわ」
「……信じられません」
あんなに優しくしてくれたお姉さんたちがそんな……あ!
「や、やっぱり違います。そんなはずないです!」
「それはどうしてそう思うんですの?」
「だって、ピーちゃんのことも可愛がってくれていたんですよ! あいつらは、どんな魔物もダメなんですよね? オフェリアさんも、ピーちゃんたちは絶対に殺されるって言っていました。だから!」
するとアデリナお義姉さまは困ったような表情を浮かべました。
「……そう。ではそのように報告しておきますわ」
「はい……」
「ただ、彼女たちは自分をルクシアの僕だと言っていたそうですわ。騎士だったのは過去の話だ、と」
「……」
「光属性のこと、オフェリア隊長とシルヴィエ副隊長以外は知らなかったのではなくて?」
「それは……誰にも言うなってオフェリアさんが……でも!」
「いいですこと? これはつまり、誰がルクシアの手先か分からないということですわ。それこそ、たとえこの屋敷にだって……」
「う……」
「今は本当に危険な状態ですわ。それくらいは分かっていますわね?」
「は、はい」
「なら、注意なさい。外に出るときは必ず複数の騎士と一緒にいること。お友達とは絶対に離れないこと。いいですわね?」
アデリナお義姉さまの真剣で強い言葉に、あたしは思わずピーちゃんをぎゅっと抱きしめます。
「ローザちゃん、約束なさい!」
「は、はい。約束します」
……でも、ブラジェナさんたちがあいつらの仲間だなんて!
◆◇◆
一方そのころ、ハプルッセン帝国の皇帝の許に側近たちが集まっていた。
「陛下、マルダキアの王太子アンドレイとベルーシのアントネスク侯爵より連名で親書が届いております」
「ふむ。オーデルラーヴァを不法占拠した連中か。よこせ」
「はっ!」
皇帝は手紙を受け取り、中身を確認する。
「……レオシュ・ニメチェクら、オーデルラーヴァから逃亡した者たちの捜索と引き渡しの要求だ。レオシュ・ニメチェクが我が帝国の領土に逃げたことを確認しているそうだぞ」
皇帝はニヤリと不敵な笑みを浮かべた。
「使者にはこう伝え、さっさと追い返せ。レオシュ・ニメチェクの捜索については承る。だが罪状が明らかでない以上、その後の引き渡しに応じるかは判断しかねる。また、中立都市であるオーデルラーヴァへの武力侵攻は容認できない。直ちに軍を引くように強く求める。以上だ」
「はっ!」
一人の男が勢いよく返事をし、退出していった。
「さて、ではその捜索中のレオシュ・ニメチェクはどうだ?」
「はっ! 背後関係は粗方吐きました。どうやら聖導隊を動かすために、オーデルラーヴァのほぼすべてを渡したようです」
「何? なぜそのような愚かな真似を?」
「どうやらオーデルラーヴァ出身の聖女で、今はマレスティカ公爵の養女となったローザという娘を手に入れるためだったようです」
「なんだと? 聖導隊を使って聖女を確保すればルクシアに送られるだけであろう。なぜそのような愚かな真似を?」
「いえ、どうやら自分のモノになると思っていたようでして……」
すると皇帝は怪訝そうに眉をひそめた。
「マルダキアにはもう一人の聖女がおりまして、その者を差し出せばバーターとしてローザは自分のモノになると思っていたようです。そのため、聖導隊に対しても自分の取り分だけ取って何もしないクズだ、と聞くに堪えない暴言を繰り返しています」
「なるほどな。クズは自分自身だというのにな」
皇帝は呆れたような口調でそう呟いた。
「それにしても、ローザとかいう女はそれほどの女なのか?」
「はい。そのようです。連中全員が口をそろえ、絶世の美少女だった、と言っております。しかも成人前にもかかわらず胸がかなり大きかった、と」
「ふむ。であればマルダキアではあの王太子に……ああ、そうか。それでマレスティカ公爵家なのだな」
皇帝はそう言って苦笑いを浮かべた。
「しかし、オフェリア・ピャスク一人では飽き足らず……ああ、そういえばオフェリア・ピャスクの状態はどうなっている?」
「はっ! レオシュの命令以外は一切受け付けず、微動だにしません」
「ふむ。では食事もとらないのか?」
「いえ。腹が減れば食事はするようです。日常生活の最低限だけは自分でやるように命令されているのかと」
「なるほどな。では、それ以外の時間はどうしているのだ? 微動だにしないとはどういうことだ?」
「文字どおり、何もしないのです。まるで人形のように、部屋の隅でただ立っているだけです」
「話しかけるとどうなる?」
「まるで何も聞こえていないかのように、一切反応を示しません」
「なるほど。レオシュの言葉にのみ反応する、と」
「はっ! そのとおりであります」
「ふむ。なるほどな」
皇帝は難しい表情を浮かべ、腕組みをする。
「……一体何をすればそんな風になる? 人をそのように変えてしまう魔術など聞いたことがないぞ?」
「我々も存じ上げません」
「まあ良い。であればレオシュたちになんとしてでも吐かせよ。死ななければどんな拷問に掛けても構わん」
「はっ!」
「さて、次は……」
こうして会議は別の話題へと移っていくのだった。
次回更新は通常どおり、2025/03/01 (土) 20:00 を予定しております。





