第四章第115話 戦いの後
国王の首が広場に掲げられ、マルダキア魔法王国とベルーシ王国の騎士たちがオーデルラーヴァに入った。それを国王の取り巻きをしていた者たちが出迎える。
「ようこそお越しくださいました。我々は皆様を歓迎いたします」
だがマルダキアの騎士の一人が怒鳴りつける。
「剣を持った者が出迎えるとは何事か! さては、貴様ら抵抗する気だな?」
「ぐ……」
「やはりな。ならば……」
マルダキアの騎士たちが一斉に詠唱を始める。
「ま、待ってくれ! 全員、剣を置け!」
国王の側近だった男たちの言葉にオーデルラーヴァの騎士たちは剣を手放す。
「いいだろう。回収しろ!」
「「「はっ!」」」
マルダキアとベルーシの騎士たちは協力し、オーデルラーヴァの騎士や貴族たちから武器を奪っていくのだった。
◆◇◆
かつてオーデルラーヴァの国王の執務室だった部屋に、王太子とベルーシ王国の総大将であるプロトニコフ侯爵の姿があった。
プロトニコフ侯爵は四十代くらいの大男で、その顔には大きな傷痕が刻まれており、その風貌は見るからに武人といった感じだ。
そんなプロトニコフ侯爵に対し、王太子は話を切り出す。
「戦後処理の話だが、事前の取り決めのとおりでよろしいか?」
王太子の言葉にプロトニコフ侯爵は鷹揚に頷いた。
「うむ。引き続きオーデルラーヴァは独立都市であり続けるが、完全に武装解除する。そして治安は我が国と貴国、そしてハトラ連合王国が共同で行い、聖ルクシア教会は邪教として追放する、ですな?」
「そのとおりだ。ハプルッセンは出方次第だが……」
「どうせレオシュ・ニメチェクはハプルッセンに落ち延びているでしょう。身柄を素直に引き渡すのであれば……」
「通商は認めざるをえんな」
「ですな」
王太子は渋い表情をしているが、プロトニコフ侯爵は表情一つ変えていない。
「ところで大臣連中はどうするおつもりで?」
「まずは軟禁し、尋問だ。罪があれば処刑、そうでなければ財産を奪って放逐しようと考えているが、貴国の考えをお聞きしたい」
「異存はありませんな」
「ではそのように」
「続いて――」
こうして王太子はプロトニコフ侯爵と戦後処理について話し合いを続けるのだった。
◆◇◆
それからしばらく経ったある日、ハプルッセン帝国の帝都にある宮殿の長い廊下をレオシュを含む十人ほどの男たちが一人の騎士に先導されて歩いていた。レオシュたちは武器を持っておらず、その後ろからはオフェリアを含む数十人のメイドたちが付き従っている。
やがてレオシュたちは一つの大きな扉の前にやってきた。
「レオシュ王子、くれぐれも粗相のないようにな」
レオシュは一瞬顔を歪めたが、すぐに真顔に戻る。
「ええ、分かっていますよ」
「うむ。オーデルラーヴァより、レオシュ王子一行、ご到着!」
騎士は扉を開け、大声でそう告げる。
「さあ、どうぞ」
「はい」
レオシュたちは緊張した面持ちで室内へと入った。するとそこは大きなホールとなっており、扉からは赤いカーペットが敷かれている。そのカーペットの先には玉座があり、大柄な白髪の老人が座っていた。
そしてカーペットの左右には大勢の騎士たちがゴーレムたちと共にずらりと並んでいる。
その様子にレオシュは気圧されつつも、ゆっくりと玉座の前へと歩いていく。
「オーデルラーヴァ王国より参りましたレオシュ・ニメチェクであります! 皇帝陛下にお初、お目にかかれ光栄であります」
レオシュはそう言って跪いた。残る騎士たちとメイドたちも同じように跪いたが、オフェリアだけがぼうっとした表情のまま立ち尽くしている。
「レオシュ、ヤバいぞ。オフェリアが!」
「っ! オフェリア! 跪け!」
側近に言われてレオシュが慌てて命じると、オフェリアは素直に跪いた。
「ふむ。面を上げよ。お前がレオシュ・ニメチェクか」
「はっ!」
「用件は?」
「はっ! 我が国はマルダキア魔法王国とベルーシ王国によっていわれなき攻撃を受けています。我が国は争いを避けるための中立都市であったにもかかわらず、です。これは関係各国との取り決めに違反しており、わが国だけでなく、貴国の利益をも侵害しております。つきましてはマルダキアとベルーシの蛮行を止め、ルクシア様の――」
「断る」
皇帝はレオシュの話を遮った。
「えっ!?」
「国の危機にありながら、王族が我先にと逃げ出すとはな」
「それは……わ、我が国の危機を乗り越えるには王子であるこの私が自ら交渉することこそが必要だと考えたのです」
「そうか。だが余はそうは思わん。そもそもメイドまで連れて、何を考えている?」
「そ、それは……」
「おおかた気に入った女を連れてきたといったところだろう」
「そ、その……」
「お前に王たる資格はない。者ども! この者たちを捕らえ、地下牢に放り込め!」
「「「はっ!」」」
「えっ? お待ちくだうわっ!?」
「大人しくしろ!」
「陛下! どうかお考えぐあっ」
「黙れ!」
レオシュたちは次々に拘束され、ホールから連れ出されていくのだった。
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