第四章第114話 籠城の果てに
翌日、配給が止まったままなことに怒った市民たちが再び王城を目指して集まってきた。するとそれを見かけた昨日とは別の騎士の男がそれを止める。
「待て! 今は非常事態だ! 家に戻りなさい!」
「ふざけるな! 食べ物はどうした!」
「そうだそうだ!」
すると騎士の男は不思議そうな表情を浮かべて尋ねる。
「食べ物? 配給があるだろう」
「それが配られないから怒ってるんだろうが!」
「なんだと!?」
「大体、昨日配給するって言っただろうが!」
「そうだ! 俺たちたちは確かに聞いたぞ!」
「俺らの食料を返せ!」
「な、な、な……」
「きっと第一区画の奴らが贅沢しているに違いない!」
「そうだそうだ!」
「そんなはずは……」
騎士は否定しようとして口ごもった。というのも彼自身も第一区画出身ではない騎士で、その格差を常に感じてきたからだ。
「やっぱりそうだ!」
「くそぉ。あいつら!」
「もう我慢ならねぇ!」
「ま、待て!」
「うるせぇ!」
市民の怒りに火がつき、一斉に第一区画を目指す。
「第一区画の奴ら、俺たちの食料で贅沢三昧しているらしいぞ!」
「殺せ! あいつらを許すな!」
その声を聞いた市民たちがさらに群衆に加わり、ついには第一区画へと通じる門へとやってきた。
「ここから先は立ち入り禁――」
「うるせぇ!」
先頭の男たちが警備をしている騎士たちに一斉に襲い掛かった。
「なっ!?」
「うわっ!?」
あまりの人数差に、いくら剣を持つ騎士といえども瞬く間に取り押さえられてしまった。
「壊せ!」
「おい! そんなことを――」
「黙れ!」
「ぐあっ!」
市民たちを止めようとした騎士は、奪われた自身の剣で貫かれてしまった。一方、門に取りついた男たちは長いバールのようなものを門の隙間に差し込む。
「いくぞ~!」
「「「おおー!」」」
「せーの!」
ガシャーン!
なんと、門はいとも簡単に外れてしまった。
「なっ!?」
「バカな……」
取り押さえられた騎士たちが目を丸くして驚く。
「ああ!? 門を取り付けたのは俺らだぞ? 外せるに決まってるだろうが!」
「なっ……」
「何が王だ! ふざけんな! 俺らから奪っていくだけの奴なんていらねぇんだよ!」
「う……」
こうして暴徒と化した市民たちは王城のある第一区画へと雪崩れ込むのだった。
◆◇◆
一方その頃、王の執務室に反乱の発生が報告されていた。
「陛下、第二区画の市民たちが反乱を起こしました」
「何?」
「すでに門は突破され、第一区画に相当数の暴徒たちが雪崩れ込んでいます」
「魔力のないゴミどもがなぜ……」
「どうやら第二区画出身の騎士たちの一部が反旗を翻し、市民どもについたようです」
「なんだと!? 騎士にしてやったというのになぜ!」
「……所詮は魔力のない下等な者たちです。恩義などわからないのでしょう」
「むむむ……」
「いかがなさいますか?」
「それは……そうだ! レオシュに――」
「ですから、その男は逃げました」
「う……では鎮圧だ! 魔術を使える優秀な騎士たちがいるだろう! そうだ! このような非常事態に反乱を起こす者など殺してしまえ!」
「本当によろしいのですか? 第二区画の市民とはいえ、オーデルラーヴァの国民ですよ」
「構わん! やってしまえ!」
「そうですか……」
「ああ! それにそうすれば食い扶持が減るだろう!」
それを聞き、報告をしていた男は大きなため息をついて周囲を見回した。すると周りの男たちも小さく頷く。
「よし! 分かったらさっさと鎮圧に……」
突然男たちは剣を抜き、国王に突きつけた。
「なんのつもりだ?」
「見てのとおりです。陛下、いや、ボレスラフ、お前にはもうついていけん」
「なっ!?」
「俺たちはお前とレオシュたちに騙され、聖ルクシア教とハプルッセン帝国の武力で無理やり従わされていただけだ」
「なんだと!? お前たちだって散々!」
「さぁ。なんのことやら。みんな、心当たりはあるか?」
「いや」
「ないな」
「さっぱりだな」
周囲の男たちの態度に国王は顔を真っ赤にする。
「お前ら! よくう゛っ!?」
彼らの剣は国王の胸に突き刺さる。
「がっ!? かはっ……」
全身を串刺しにされ、国王は力なくその場に崩れ落ちる。それから数時間後、オーデルラーヴァの門に白旗が掲げられた!
「王を僭称するボレスラス・ニメチェクは市民によって打ち倒された! 解放者たるマルダキア魔法王国、ベルーシ王国の騎士たちを歓迎する!」
こうしてオーデルラーヴァは戦場となることなく降伏したのだった。
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