第四章第112話 始まる攻城戦
砦を抜いた王太子率いる連合軍はそのまま森を抜け、オーデルラーヴァへと迫っていた。
一方のオーデルラーヴァの王城内は、マルダキアの軍勢の突然の登場に混乱していた。そんな中、レオシュの自室に伝令の男が大慌てでやってきて扉を乱暴にノックする。
「大変です!」
「なんだ! 後にしろ!」
「緊急です! 国王陛下が直ちにレオシュ様にご報告するようにと……」
「……ちょっと待ってろ」
不機嫌そうな声が聞こえ、五分ほどが経つとようやくレオシュが許可を出す。
「いいぞ。入れ」
「はっ!」
伝令の男が扉を開けて中に入ると、そこには慌てて身なりを整えたらしいレオシュの姿があった。というのも、髪の毛が少し跳ねているのだ。
だが伝令の男はそれを指摘するようなことはせず、淡々と自らの任務をこなす。
「ご報告いたします! マルダキア魔法王国の騎士団と思しき軍勢が北東方面より迫っております! その数、数千です」
「何!? 砦を押さえておいたはずだ! どうなっているんだ!」
「わかりません!」
「はぁっ!? どういうことだ!」
「ですから、わかりません」
「なんでだ! フドネラから攻めるにはあの砦が邪魔なはずだ! それに検問所だって!」
「……申し訳ございません」
「……伝令はどうした? 何かあったのなら伝令がすぐに来るはずだ」
「いえ、何の報せも届いておりません」
「じゃあ、つまりお前はマルダキアの連中が砦も検問所も迂回して攻めてきたとでも言うのか!」
「わ、私には……」
「ちっ」
レオシュは大きな舌打ちを打つと、不機嫌そうに腕組みをした。と、そのときだった。突然扉が乱暴にノックされ、男の声が聞こえてくる。
「伝令です!」
「なんだ! 入れ!」
「はっ!」
扉が開かれ、もう一人の伝令の男が入ってくる。
「ご報告いたします! 西方よりベルーシ王国軍と思われる軍勢が現れました! その数、数千です!」
「なんだと!?」
「国王陛下より、レオシュ殿下に指揮を一任するとのご命令を承っております! どうかご指示を!」
「……」
レオシュはじっと考える。それからしばらくして小さく舌打ち下かと思うと、小さく「潮時か」と呟いた。
「えっ? 今、何か仰いましたか?」
「いや、独り言だ。数千を相手に打って出ても勝ち目はない。籠城戦をするぞ。門を封鎖し、市井にある食料もすべて徴発しろ」
「えっ? 蓄えなど残っているのですか? かなりの財を徴発して、教会に寄付したではありませんか」
「黙れ! いいからさっさとかき集めろ! それから誰も逃がさぬように監視をしておけ!」
「「は、ははっ!」」
二人の伝令は慌てて敬礼をした。
それからそのまましばしの沈黙が流れたのだが、突然レオシュが怒鳴り散らす。
「いいからさっさと行け! 俺はこれから準備がある!」
「「し、失礼しました!」」
二人はそのまま大慌てで指令を伝えるべく部屋を飛び出していった。
そして十分にレオシュの部屋から離れ、周囲に人影がないことを確認した二人は悪態をつく。
「なぁ、さらに徴発なんて……」
「無理だよなぁ。うちも全部寄付させられたし……」
「うちもだ」
「でもよ。マルダキアとベルーシが同時に攻めてくるなんて、何が起きてるんだろうなぁ。マルダキアとベルーシって、そんなに仲良かったっけ?」
「そんな話は聞いたことないけどなぁ」
「だよなぁ」
「それに、うちは緩衝地帯だろ? そんなことをしたらハプルッセンとかハトラが……あいや、ハトラはそうでもないか」
「ああ。あいつらは金さえあればなんでもするだろ」
「たしかに……」
「でも、ハプルッセンは……」
「助けてくれるかな?」
「さすがに助けてくれるんじゃないか? 一応、同じルクシアの国だろ?」
「そうだけど……」
「はぁ。どうなるんだろうなぁ。俺ら……」
二人は顔を見合わせ、大きなため息をつくのだった。
◆◇◆
その日の夕方、マルダキアの連合軍はオーデルラーヴァの街壁から少し離れた場所に陣取った。そんな連合軍の陣地へベルーシ王国の国旗を掲げた騎士がやってきた。
「王太子殿下! ベルーシ王国より伝令の騎士が参りました」
「通せ」
「はっ!」
すぐさま中年の騎士が王太子のところへと通される。
「ベルーシ王国プロトニコフ侯爵騎士団の騎士、マカール・コベレフであります! マルダキア魔法王国王太子殿下に拝謁賜り恐悦至極!」
「よく来た。ベルーシ王国軍の総大将はプロトニコフ侯爵ということか?」
「はっ! そのとおりであります!」
「そうか。して、そちらの状況は?」
「はっ! 我が国へと続く道はすべて封鎖が完了しております! ハプルッセン帝国へ向かう道について、貴軍と調整したく!」
「ハプルッセン帝国への街道については我らに任せていただきたい」
「異存有りませぬ! して、攻城戦はいかがなさるおつもりで?」
「包囲を考えているが、どうだ?」
「我々もそのつもりであります!」
「そうか。ではハプルッセン帝国への街道を境に西側は貴国が、東側は我らが担当しよう」
「承知しました!」
「では頼んだぞ。攻撃の際は伝令を送る」
「はっ!」
こうしてマカールはベルーシ王国軍の陣地へと戻っていくのだった。
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