第四章第110話 あたしだけ蚊帳の外でした
それからホーちゃんのことをお義父さまに相談したんですけど、やっぱり秘密にしておきなさいって言われました。もしバレたら、絶対に戦場に連れていかれてしまうんだそうです。
あたし、戦争なんて……。
そんなわけでビタさんがスパイかどうかはっきりしないまま月日は流れ、そのまま冬休みになりました。過去問を借りたおかげで数学の期末試験もなんとかなりましたよ。
そんなわけで、あたしは一年ぶりにクルージュにやってきました。
ヤニスくん、元気にしていますかね? もしかしたらもう歩いていたりして。
えへへ。会えるのが楽しみです。
あ、もちろんマルセルさん……じゃなかった。お義兄さまとアデリナさんに会うのも楽しみですよ!
そんなことを考えつつ、一年ぶりのフドネラの町並みを車窓から眺めていると、お義姉さまが声を掛けてきます。
「ローザ、楽しそうですわね」
「はい! だって、ヤニスくんに久しぶりに会えるんですから。きっと、もっと可愛くなっていると思うんです」
「……そうですわね」
あれ? どうしたんでしょう。なんだかちょっと浮かない表情です。
「お義姉さま?」
「ああ、なんでもありませんわ」
お義姉さまはそう言って複雑な表情を浮かべました。
……なんだかお義姉さまらしくないような?
ちょっと沈んだ空気の中、車窓を眺めているとやがてあたしたちはお義兄さまたちが住んでいるお屋敷に到着しました。
あたしはラダさんにエスコートしてもらって馬車を降りると、前に来たときと同じようにきれいに除雪されたお屋敷の前に大勢の使用人さんたちがずらりと並んで出迎えてくれています。
あれ? でも使用人さんたちの中に騎士さんがたくさん交じっているような?
「「「お嬢様がた、ようこそお越しくださいました」」」
使用人さんたちは一斉に頭を下げてきます。
「出迎えご苦労。部屋の準備は?」
「整っております。レジーナお嬢様、ローザお嬢様、ご案内いたします」
あたしたちは執事さんに案内され、お屋敷の中に入ります。
前はお義兄さまが出迎えてくれたんですけど、今日はアデリナさんが一人みたいです。
前もすぐにいなくなっちゃいましたし、やっぱりお義兄さまは忙しいんでしょうか?
「レジーナちゃん、ローザちゃん、久しぶりね。ようこそ」
「お義姉さま、お久しぶりですわ」
「えっと、アデリナ様、お久しぶりです」
「あら、ローザちゃんったら。せっかく家族になったんだから、お義姉さまって呼んで頂戴?」
「え? えっと、は、はい。あ、アデリナお義姉さま……」
「はい。よくできました」
そういうと、アデリナお義姉さまはあたしを優しくハグしてくれました。
「ローザちゃんが義妹になってくれたって聞いて嬉しかったですわ。ローザちゃんはわたくしの命の恩人ですもの。困ったことがあったらなんでも言って頂戴? わたくしがなんだってしてあげますわ」
「あ、ありがとうございます」
当たり前のことをしただけですけど、なんだかこうやって感謝してもらえるとこそばゆくてふわふわした気持ちになります。
そうしてハグされるがままにしていると、お義姉さまが声を掛けてきます。
「お義姉さま」
「あっ! レジーナちゃんも、ようこそ。会えてうれしいですわ」
「はい」
あたしから離れたアデリナお義姉さまは、今度はレジーナお義姉さまとハグします。
「さ、長旅で疲れたでしょう? まずはお部屋でゆっくりしてちょうだいね」
「はい」
こうしてあたしたちはそれぞれの部屋へと向かうのでした。
◆◇◆
それからあたしはヤニスくんと遊び、夕食の時間がやってきました。
ヤニスくんはですね。なんと! もう立って歩けるようになっていたんですよ!
しかも! それだけじゃなくって言葉もママとか、簡単な言葉まで喋れるようになっていたんです!
孤児院で捨てられた赤ちゃんのお世話もしていたこともあるので成長が早いことは知ってましたけど、やっぱり早いですよね。
さて、あたしたちはすでに食堂で席に着いているんですが、まだお義兄さまとアデリナお義姉さまが来ていません。
それからしばらく待っていると、アデリナお義姉さまがやってきました。
「まあ、もう揃っていたんですのね。遅くなってごめんなさい」
そう言ってアデリナお義姉さまも席に着きます。
「さあ、始めてちょうだい」
「え?」
「あら? ローザちゃん、どうしたのかしら?」
「えっと、お、お義兄さまは……」
「え? ああ。彼は出征中ですのよ。聞いていなくて?」
「ええっ!?」
出征中!? それって一体……?
「レジーナちゃん、どういうことですの?」
「お父さまのご指示ですわ」
「あら、そうでしたの……。じゃあ、戦争が始まったことも?」
「はい。伝えてはいません。今日、伝える予定でしたわ」
「えええっ!? なんでそんな大事なことを……」
「そもそも、機密情報ですもの。それから、お父さまはローザを心配させたくないとも仰っていましたわ」
「あ……」
あたしはお義父さまの優しい表情を思い出します。でも……!
「あたしだって当事者なのに……」
「ローザ……」
「ローザちゃん、気持ちは分かりますわ。でも、ローザちゃんはちょっと前まで十三歳だったでしょう?」
「はい……」
「貴族であれば、十三歳はまだ子供なの。だからお義父さまは教えなかったんじゃないかしら?」
「で、でも……もう十四歳です」
「……そうですわね。でも、もし積極的に関わりたいというのなら、ローザちゃんは最前線ではないにしろ、それに近い場所には行くことになりますわ。だって、貴重な光属性の魔法使いですもの。傷ついた将兵の治療は大事な仕事ですもの」
「う……はい」
そうでした。貴族は領民を代表していて、彼らを守るのはあたしがユキたちを守りたいって思うのと同じくらい自然なことだってお義父さまも言っていました。
「それに、今回の件は出征はかなり大規模ですのよ。何せ、総大将として王太子殿下が出征なさっているんですもの」
「えええっ!?」
王太子様も戦争に行くんですか!?
び、びっくりしました。普通に学年末のダンスパーティーにも出ていたのに……あ! それでレジーナお義姉さまは……。
あたしはちらりとレジーナお義姉さまのほうを見ます。するとあたしの視線に気づいたお義姉さまはニコリと微笑みながらこう言いました。
「出征するのは王族の務め。であればその帰りを待つのは婚約者の務めですわ」
す、すごいです。あたしだったらきっと気が気じゃないと思います。
それに比べてあたしは自分のことばっかりで……あたし、こんなに甘えていていいんでしょうか?
あけましておめでとうございます。本年も毎週土曜日 20:00 更新を目指して執筆を続けて参りますので、応援のほど何卒よろしくお願い申し上げます。





