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第四章第107話 調査開始です

 翌日の放課後、あたしはさっそく料理研究会の視察にやってきました。今日はですね。ミートパイづくりに挑戦することになっているんです。


 えへへ。ミートパイ、楽しみですよね。


 じゃなかった! ビタさんがスパイなのかどうか、一緒に料理をしながらしっかり探ってみようと思います。


 と、思っていたんですけど……。


「じゃあ、ローザはベティーナさんの班に入って」

「あ、一緒なんだ。ローザさん、よろしくね」


 えっ!?


「あれ? 嫌だった?」

「えっ? そ、そんなことないです。ベティーナさん、よろしくお願いします」

「うん。よろしくね」


 カルミナさんに決められちゃったので仕方ありません。ここは一つ、遠くから観察しながらスパイかどうかの調査、頑張ろうと思います。


 え? どうやって調べるのか、ですか?


 それはえっとですね。スパイかどうかを見分けるには、注意深く普段の会話を聞くのが大事なんです。なんでも、スパイだとちょっとおかしなことを言いだしたりとか、あとは不満とか、とにかく兆候のようなものがあるんだそうですよ。


 本当はビタさんと同じ班に入って話をしたかったんですけど、無理やり入るわけにはいきません。そんなことをしたら、もしビタさんがスパイだったら警戒されちゃいますからね。


 もちろんあたしは生徒会の視察で来ているので、事前にカルミナさんにお願いすれば同じ班になれたとは思います。でも、これは秘密の調査なのでそういうことはしない約束になっているんです。だって、もし生徒会が調査をしていることがバレたら、他の人の調査にも影響しちゃいますから。


「ローザさん、始めるよ」

「あ、はい」

「じゃあ、玉ねぎをみじん切りにしてくれる?」

「はい」


 あたしはベティーナさんに言われ、玉ねぎの皮をむいてみじん切りにしていきます。


 ううっ。これ、目に()みるんですよね。


 でもちゃんとやらなきゃ怪しまれちゃいますし、それにビタさんの観察もしなくちゃいけません。


 えっと、ビタさんは……普通に淡々と作業してますね。見事な包丁さばきです。


「あれ? ローザさん? 手が止まってるよ?」

「え?」


 ベティーナさんにさっそく怪しまれちゃいました。


「何か見てたの?」

「え? えっと、その、ビタさんの包丁さばきがすごいなって……」

「ああ、そうだよね。あの子、家でよくお母さんの代わりに作ってたんだって」

「えっ? ビタさんのご両親って商人ですよね?」

「そのはずだけど、なんかやらされてたんだって」

「へぇ……」


 そうなんですね。ビタさんを魔法学園に通わせられるくらいなんだからお金持ちだと思っていました。特待生じゃないらしいですし。


「それよりローザさん、手が止まってるよ」

「あ、すみません」


 あたしはすぐに玉ねぎを切るのを再開するのでした。


 ううっ。目が……。


◆◇◆


 ミートを包んだパイ生地をオーブンの中に入れました。焼き上がるまではちょっと時間がかかりますが、ちょっとしたら香ばしい匂いがしてくるはずです。


「あ、ビタちゃん」

「はい、なんですか? ベティーナ先輩」

「相変わらずすごい包丁さばきだったよね」


 するとビタさんは少し恥ずかしそうな表情で視線をベティーナさんから()らします。


「そんなこと……」

「いや、すごいって。ローザさんもすごいって言ってたよ。ねえ?」


 え? あ! ベティーナさん、ありがとうございます!


「はい。ビタさんのみじん切り、ものすごい速さですごいなって思いました」

「そうですか。ありがとうございます」


 あたしは頑張って褒めたつもりでしたが、なぜかビタさんは突然無表情になってしまいました。


 あれ? あたし、失礼なことを言っちゃったんでしょうか?


「えっと、どうやったらあんなに速くみじん切りができるようになるんですか? あたし、玉ねぎを切っていると沁みて、涙が出ちゃうんです」

「……毎日練習すればできるようになりますよ」


 ビタさんは素っ気なくそう答えました。なんだか、話しかけてくるなって言われているみたいです。


「ほら、ビタちゃん。そんな風に突き放さなくても……」

「突き放すも何も、他にどう答えればいいんですか? こんなのは慣れです。毎日切ってれば沁みなくなりますし、切るのだって速くなりますよ」

「それはそうだけど……」

「じゃあ、洗い物がまだ残ってるんで、失礼します」


 ビタさんはそう言うと、洗い物を始めてしまいました。


「……ローザさん、何かあったの?」

「分かりません」

「前に会ったのはいつ?」

「前の料理研究会のときです」

「休校前?」

「はい」

「そのときは普通だったの?」

「はい」

「うーん?」


 二人で首をひねっていると、香ばしい匂いがしてきました。あとちょっとで焼き上がりそうです。


 ビタさんは……もう洗い物を終わらせて一年生同士で楽しそうにおしゃべりしています。また話しかけに行ったら不自然ですよね?


 お義姉さまにはなるべく自然にって言われていますし、今日はもう観察は難しいかもしれません。


 それにして、どうして嫌われちゃったんでしょう? もしかしてビタさんは本当にスパイで、警戒されているんでしょうか?

 次回更新は通常どおり、2024/12/21 (土) 20:00 を予定しております。

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