第四章第106話 お仕事をします
「実は――」
「……そうか。お前の事情は理解している。両親を一度に亡くしたことには同情している。だが、逆恨みをローザにぶつけるのは間違いだ」
ドレスク先輩から事情を説明された王太子様は、険しい表情でレアンドルさんを見ながらそう言ってくれました。
なんと驚いたことに、王太子様があたしの胸を見ていません。一方のレアンドルさんはというと、あたしのほうを憎々し気に見てきています。
「前タルヴィア子爵は我が国の公務の最中に殉職した。ただそれだけの話だ」
それを聞いたレアンドルさんは顔を真っ赤にし、王太子様にも食って掛かります。
「でも! 父と母はこいつを!」
「ああ、そうだな。ローザを狙った邪教の手先に殺された」
「なら!」
「だが、それも含めて前子爵の責任だ」
王太子様はぴしゃりとそう言い切りました。
「前子爵は外交使節団の団長として全権を与えられていた。当然、道中の警備も彼の責任だ。随行員には光の『魔法』を使えるローザがいることは判っていたのだ。オーデルラーヴァの件もあり、横やりが入る可能性は予見可能だったはずだ」
「う……ですが……」
「大体、お前にはローザを年齢でどうこう言う資格はない」
「えっ!?」
「お前はローザのことを、家にいる年齢なのだから家にいろと言ったのだな?」
「……はい」
「だがローザはその年齢でありながら、我が国の公爵令嬢としてカルリア公国との親善において、公太后陛下の治療するという成果を挙げた。これによってカルリア公国との友好関係は揺るぎないものとなった。この功績は高く評価されるべきだ」
「……」
「対してお前はどうだ? 前子爵の息子であり、コンスタンティネスク侯爵家の縁者として生徒会に入ったな」
「はい」
「ではお前はそこでなんの成果を残した? 小難しい理屈を並べることが成果か?」
「それは!」
「よもや、俺たちが仕事を与えないから悪いとでも言うつもりではないだろうな?」
「う……そんなことは……」
「レアンドル、貴族としての誇りを持て。大義の前に自らを捧げてこそ貴族だろう」
「……」
レアンドルさんはそれでも納得できないのか、不服そうな表情で唇を噛んで俯いています。
それを見た王太子様は大きなため息をつきました。
「仕方ない。どうしもといてっ!?」
「おかしなことをおっしゃろうとしていなくて?」
「う……わ、分かっている」
いつの間にかお義姉さまが王太子様の足を踏んでいます。えっと、これってもしかして、決闘をしろって言おうとしてたんでしょうか?
はぁ。なんだか相変わらずですね。でも、いつもどおりでなんだか緊張していた空気が一気に緩みました。
するとすかさず公子さまが話に入ってきます。
「アンドレイ、それよりも」
「ああ、そうだな。仕事の話をしよう」
そう言って王太子様はいつもの席に座りました。あたしたちもいつもの席に着くと、すぐに会議が始まります。
「聖ルクシア教会がテロを起こしたことで、邪教認定されたことは知ってのとおりだ。そこで、我々生徒会は魔法学園に潜り込んでいる聖ルクシア教徒のスパイを調査をすることになった」
えっ? でもあの気持ち悪いシンボルを踏んづけているんですから、ルクシアの奴らはいないんじゃないですか?
「無論、熱心な連中はシンボルを踏めないため、その時点で排除されている。だが、それだけではあぶり出せない。特に、金のために信仰を利用しているような連中だな。奴らは神ではなく金のほうが優先で、そういった連中は平気で金のために情報を売る」
そ、そうなんですね。怖いです。
「教会を一斉捜索したことで寄付をした者の名簿は手に入っている。それによると各学年にも数名、親が寄付をした生徒が在籍していることが分かっている。我々の仕事はその者たちが実際にスパイなのかどうかを調べることだ」
王太子様はそう言ってあたしたちに名前のリストを渡してきました。
えっと、三年生と二年生は一人も知りません。一年生は……え? ビタさんが!?
しかも名前の横にチェックが付いています。
「それぞれ、近づきやすい者を担当してもらう。この中に直接の知り合いはいるか?」
「は、はい。あの、ビタさんが……」
「ビタ? ああ、そうか。ローザは料理研究会だったな」
「はい。それで、その、ここにあるチェックはなんですか?」
「それは要注意のマークだ」
「要注意?」
「つまり、スパイの可能性が高いと睨んでいるということだ」
「えっ!? で、でも! ビタさんはあのとき殺されそうになったんですよ!?」
「だが、口封じと考えることもできる」
「でも……最初は料理研究会じゃなかったですし……」
「途中入会しているからといって疑いが晴れるわけではないだろう。指示を受け、クラブを変えた可能性だってある」
「で、でも……」
「しかも両親はかなりの大金を寄付していたことが判っている。関係を疑わないほうがおかしいだろう」
「そんな……」
とってもお話しやすい人だと思っていたのに……。
「……その様子、一人では無理そうだな。レジーナ、二人で当たってくれるか?」
「ええ、お任せくださいませ」
「ローザ、レジーナと協力し、気取られぬように内偵を進めろ」
「わ、わかりました……」
動揺しつつもなんとかそう答えたんですが、なんとレアンドルさんが小さく鼻で笑いました。馬鹿にしたような表情であたしのほうを見ています。
もう! なんなんですか! いい加減にしてください!
そりゃあ、イヴァンナさんたちのことは同情しますよ。あたしだって、助けられるなら助けたかったですけど、それどころじゃなかったんです! それなのにずっとずっと!
ええ、わかりました。それならあたしだってちゃんとできるってことを見せてやります!
……あれ? でもスパイかどうかって、どうやって調べるんでしょう?
次回更新は通常どおり、2024/12/14 (土) 20:00 を予定しております。





