第四章第103話 休校になりました
それからあたしたちは魔法学園に戻りました。
もちろん、本当はリリアちゃんを探しに行きたかったんですよ? でも公子さまにまた説得されちゃいましたし、騎士の人たちが地下道をちゃんと探してくれるって約束してくれたので仕方ありません。
それとですね。なんと寮にも怪しい黒ずくめの男が襲ってきたらしいんです。ちょうど寮に帰ってきたビタさんが襲われそうになったんですけど、ものすごい速さでそいつらをやっつけてくれた人がいたそうです。
すごいですよね。警備のために王宮騎士団の騎士が学園に来てくれていましたから、きっとその中の誰かが守ってくれたんだと思います。
それとですね。なんと明日から二週間、休校になっちゃいました。
ちょっと残念ですけど、仕方ないですよね。
一応休校の間も寮に残っていてもいいそうなんですが、王都に自宅がある人は帰るようにって言われているので、お義姉さまと一緒にお屋敷に帰ろうと思います。
はぁ。リリアちゃんが早く見つかるといいんですけど……。
◆◇◆
その日の夜、お城の会議室では国王やアロンをはじめとする国の重臣たちが一堂に会していた。
「始めよ」
「はっ! ご報告いたします」
国王の一言から会議は始まった。
「マレスティカ公爵令嬢ローザ様とカルリア公国公子レフ殿下によって捕縛された聖ルクシア教の司祭への尋問の結果、魔法学園への襲撃はローザ様、並びにリリア嬢の誘拐が目的であったことが判明しました」
すると室内がどよめく。
「静まれ。報告を続けよ」
「はっ! リリア嬢は教会において聖導隊に引き渡されたようです。その後の行方については知らないと言っております」
「何? 聖導隊だと!?」
国王は驚きの声を上げた。
「はっ! そのとおりです」
「まさか聖導隊まで出してくるとは……」
国王は深刻そうな表情を浮かべた。だが宰相やアロンといった重鎮を除き、部屋に集まっている者たちの大部分は理解していない様子だ。その様子に気付いた国王が宰相に話を振る。
「……ふむ。聖導隊とはどういった組織か説明してやれ」
「はい。聖導隊とは、一言で言うと聖ルクシア教会の地下の実働部隊です。敵対勢力の暗殺を主な任務としているとされていますが、実際の活動内容やその規模は不明です。ただ、世界中に散らばって存在していることはたしかで、一説によるとその数は合わせて数万にも上ると言われています」
宰相の説明に再び室内はどよめく。
「静まれ。では尋問の結果報告を続けよ」
「はっ! その司祭は聖導隊に命じられて行動しただけで、理由など詳しいことは知らされていないようです」
「そうか。ではゴーレムの件はどうだ?」
「はっ! まず、ゴーレムの操縦していた容疑者はマレックという名の、我が国の出身の魔術師でした。その素性は魔法学園のゲラシム・ドレスク教諭によって確認されました」
「そうか。我が国の……」
「マレック容疑者を発見したのはローザ様と公子殿下で、マレック容疑者の後頭部には魔法学園の女子寮を襲撃し、死亡した聖導隊の者たちと同じ傷があり、それが致命傷になっていたと推察されます。よって、同一人物によって暗殺の可能性がりますが、それが誰なのかは不明です」
「女子寮の襲撃者が暗殺された? どういうことだ?」
「女子寮の寮母アリアドナ・コンスティネスク様の目撃証言によると、ほんの一瞬、何かの影が移ったかと思うと鈍い音がし、気付けば暗殺者たちは倒れていたとのことです」
すると室内はどよめいた。中には顔を青くしている者もいる。
「静まれ! では、彼女はその暗殺者の姿を見てはいないのだな?」
「はい」
「ふむ……」
国王はじっと何かを考える。だがまだざわついていることにいら立ったのか、不機嫌そうに部屋全体を見回した。
「静まれと言っただろう」
国王の不機嫌そうな声に再び静まり返る。
「その暗殺者については別途調べ、報告せよ」
「はっ」
「そのマレックとやらについての情報はないのか?」
「はっ。マレック容疑者は魔法大学を中退し、古代ゴーレム魔術を求めて出奔しました。その後の足取りは不明ですが、恐らくハプルッセン帝国に渡り、ゴーレム魔術を提供していたようです。マレック容疑者が所持していたロッドとハプルッセンのゴーレムの基本構造が一致していることから判明しました」
「では、聖導隊はハプルッセンからゴーレムの提供を受けたということか?」
「そう推察されます」
「証拠は?」
「ございません」
「捕らえた司祭はなんと言っている?」
「マレック容疑者は聖導隊が連れてきただけで面識はなく、単に場所を貸しただけだと主張しております」
「ふむ……ああ、そうだ。たしか以前、魔法学園で似たようなゴーレム騒ぎがあったそうだな? どこかの元男爵家の娘が騒ぎを起こしていただろう」
「それについては知らないと言っております」
「そうか。分かった。ゴーレムについてまだ何か報告は?」
「いえ、ございません」
「では次だ。教会の捜索の結果はどうなった?」
「はっ! 強制捜査の結果、大量の金品を押収したほか、オーデルラーヴァの王子を自称するレオシュ・ニメチェクの署名の入った依頼書が発見されました」
「うん? 依頼書だと? 内容は?」
「はっ! まず、依頼主はオーデルラーヴァ王国の王子レオシュ・ニメチェクで、依頼の受領者は聖導隊と記されておりましたが、聖導隊の誰であるかは不明です。依頼内容は、『オーデルラーヴァの聖女ローザをマルダキア魔法王国から奪還する』となっておりました」
「それだけか? 金額は?」
「記入はございません」
「ふむ……」
国王は真剣な表情で宰相を見るとアロンのほうを見た。それからすぐにまた宰相のほうを見る。
「宰相、どう思う?」
「怪しいかと」
「そうか。なぜだ?」
「報酬が書かれていないからです。暗殺者に口約束など意味がありませんし、先払いをすれば持ち逃げされるだけです。ですので、その依頼書はオーデルラーヴァに我々の目を向けるための偽装工作だと考えます」
「なるほど。やはりそう思うか。ではマレスティカ公爵、そなたはどう思う?」
「……依頼書の現物はありますか?」
「こちらに」
報告をしている男に付き添っている男が一枚の紙を取り出した。
「陛下、私が直接確認しても?」
「許す。依頼書をマレスティカ公爵に」
「はっ!」
アロンの前に依頼書が差し出された。
「陛下、感謝いたします」
アロンは依頼書をじっと見る。
「恐れながら陛下」
「なんだ?」
「これは本物であると思われます」
「何? 報酬が書かれていないのだぞ?」
「はい。相手が普通の暗殺者であれば先払いと成功報酬に分けて明記するでしょう。ですが、聖導隊はただの暗殺者ではなく、聖ルクシア教会の地下組織です。奴らは普通ではありません」
「どういうことだ?」
「娘がカルリアからの帰り道で襲われたことで調査をして分かったのですが、聖導隊には依頼と報酬という概念がないのです」
「む? つまり?」
「聖導隊は聖ルクシア教会の命令によってのみ動きます。ですから依頼者はこのような依頼書を聖ルクシア教会に提出し、寄付という形で十分な報酬を先払いします。そのうえで教会が必要と認めた場合にのみ聖導隊は動くのです。似たような依頼書が我が領都で奴らの教会を強制捜査した際にいくつか発見されておりますし、依頼を出した者たちからもそのような証言が得られています」
「なるほどな。つまりレオシュ・ニメチェクは聖導隊を動かすために聖ルクシア教会に多額の寄付をしたと」
「はい。奴はオーデルラーヴァを乗っ取り、聖ルクシア教会を引き入れました。その状況であれば動かすのは簡単だったはずです。特に今回は奴らがかき集めている『聖女』に関するものなのですから、なおのこと動きやすかったと思われます」
「ふむ。たしかにな」
国王が宰相のほうを見ると、宰相も頷いた。
「よし。まずは聖ルクシア教会を邪教と認定する。今後、我が国において信仰を禁ずる。信者は収監して改宗させよ。聖職者は例外なく、すべて処刑だ。これに背いた者は叛意があると見なす」
国王の宣言に室内はどよめいた。
「宰相、すぐに通達を出すように」
「かしこまりました」
宰相は表情一つ変えずに了承したのだった。
次回更新は通常どおり、2024/11/23 (土) 20:00 を予定しております。





