第四章第102話 ゲラシム先生が来ました
えっと、じゃあ次はリリアちゃんを探さないといけません。
「ユキ、リリアちゃんの――」
「ローザ嬢」
「はい?」
「リリア嬢はおそらく、もう町の外に連れ出されているはずです」
「っ! だったら早く追いかけないと!」
このままじゃ連れて行かれちゃいます。
「そうしたいのはやまやまですが……」
公子さまはそう言って首を横に振りました。
「で、でも今から急いで追いかければ!」
「どうやって?」
「え? えっと……ユキ、リリアちゃんの居場所、分かりますか?」
「ミャー」
ユキは申し訳なさそうに小さく鳴きました。
「そ、そんな! じゃあホーちゃん!」
「ホー」
ホーちゃんも分からないみたいです。
「う……じゃ、じゃあピーちゃん」
「ピピー」
ピーちゃんもふるふると体を横に振りました。
「な、なら! きっとあの地下道の分かれ道です! あっちに行けば!」
「……そうかもしれません。ですが、ローザ嬢が行くべきではありません」
「え?」
「よろしいですか? 奴らの狙いはローザ嬢とリリア嬢の二人です」
「う……」
「ですから、そもそもローザ嬢がこうして外に出て追いかけること自体が良いことではありません」
「でも!」
「お気持ちは分かります。ですが私とラダ卿がこうして来たのは、ローザ嬢の従魔たちが後を追えていたからです。ですが、今はその手掛かりもないのでしょう?」
「……はい。でも、もしかしたらあたしを狙ってまた――」
「いえ。それはないはずです」
「えっ? どうしてですか?」
「目的を達成したからです」
「え? でもあたしとリリアちゃんの二人が目的だって……」
「はい。ですからその二人の『聖女』のうち一人を手に入れたのです。であれば一人だけでも先に連れて帰ろうとするのではありませんか?」
「う……それは……」
「それに奴らはゴーレムという攪乱の切り札を失いました。そんな状況でローザ嬢の誘拐に固執した場合、リリア嬢の誘拐も失敗する可能性があります。であれば無理してローザ嬢の誘拐にこだわるよりも、一人の『聖女』を手中に収めることを優先するでしょう」
「……」
「とはいえ、散発的な襲撃はあるかもしれません。王宮騎士団が来るまでは私のそばを離れないでください」
「は、はい……」
あたしが小さく頷くと、突然ユキたちがあたしに体を寄せてきました。
「ミャー!」
「ピピッ!」
「ホー!」
「おっと、そうでした。頼もしい三匹のお友達もいますしね」
「はい。ユキ、ピーちゃん、ホーちゃん、一緒に居てくださいね」
「ミャー」
「ピピッ」
「ホー」
ユキたちは満足げにそう答えたのでした。
◆◇◆
しばらくすると、ゲラシム先生が大勢の王宮騎士団の人たちと一緒にやってきました。
「勝手に外出するとはどういうつもりかね? 二人は生徒会のメンバーであろう」
「う……はい。すみませんでした」
あたしは素直に謝ります。
「はい。ですが必要だと判断しました。おかげで襲撃者の正体と目的、さらにゴーレムを止めることができました」
「何? どういうことかね?」
「はい。こちらへ」
公子さまはそう言うと、なぜかゲラシム先生を連れてまたあの階段を上っていきます。
「ローザ嬢、一緒に来て下さいますか?」
「は、はい」
あたしは慌てて二人の後を追いかけます。そうしてまた長い階段を上り、屋上へとやってきました。
「む? あれは!」
ゲラシム先生が遺体のところへ駆け寄ります。
「……レフ君、なぜ彼が死んでいるのかね?」
「それはゲラシム先生ご自身がよくご存じなのではありませんか?」
ゲラシム先生は険しい表情を浮かべ、公子さまの目をじっと見据えています。
え? ゲラシム先生自身がよく知っている? それってどういうことでしょうか?
そのままゲラシム先生と公子さまはお互いの顔を見合っていましたが、しばらくするとゲラシム先生のほうがふうっと大きく息を吐きました。
「そうだな。こいつの名はマレック。ゴーレム魔術師で、魔法大学の私の後輩だ」
「えっ? ゲラシム先生、その人と知り合いだったんですか?」
「うむ。といっても彼は中退し、古代のゴーレム魔術を求めて冒険者になった。それ以来音信不通だ」
ゲラシム先生はそう言って寂しそうにマレックさんの遺体を眺めています。
「ゲラシム先生、そこに落ちているロッドをご確認いただけますか?」
「む?」
ゲラシム先生は血だまりの中に落ちているロッドにようやく気付いたようで、慎重にそれを拾い上げます。
「ふむ……なるほど。これは言うなればゴーレム魔術の起動装置だな。これを彼が?」
「はい」
「……なるほど。そうか。なるほどな」
ゲラシム先生はふうっっと大きく息を吐きました。
「なぁ、マレック。お前はそこまで堕ちていたのか。そうなる前に帰って来ればよかったものを」
ゲラシム先生は寂しそうにそう呟いたのでした。
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