表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
249/298

第四章第99話 突入しました

「ラダ卿、どうしますか? 私としてはこのままこの建物にいる連中を確保すべきだと思いますが」


 公子さまがそう言うと、ラダさんは少し迷った様子であたしのほうをちらりと見ました。


 え? あたし?


「えっと……ここにリリアちゃんがいるなら……」

「それは分かりません。もしかするとここで着替え、先ほどの地下道を通っていった可能性もあります」

「じゃあそっちに行って追いかけないと!」

「ですが、そうでないかもしれません」

「う……」


 どうしたらいいんでしょう?


「少なくとも、ここにいる者たちは何か知っている可能性は高いでしょう。そもそもこんな地下道を用意できるくらいですからね」


 えっと……あ! そうです! ユキなら!


「あの、ユキ」

「ミャ?」

「えっと、ここで着替えた人たちがどこに行ったか分かりますか?」

「ミャー」


 ユキはくんくんと匂いを嗅ぎ、とことこと歩き始めました。


「公子さま、あっちみたいです」

「ええ。行ってみましょう」


 ユキはそのまま部屋を出て、あたしたちが来た地下道とは反対の方向に歩き始めました。


「なるほど。連中は地下道には戻っていないようですね」

「はい」


 良かったです。地下道のほうじゃなかったんですね。


 そのままユキは突き当りにあった階段を上ります。そうして上り切った先にはぴったりと閉じられた木製の扉がありました。


「ここは私が」


 そう言ってラダさんが前に出ました。


「行きます」


 掛け声と共にラダさんは乱暴に扉を開け、素早く外に出します。


「貴様ら! その場で両手を頭の上に回してうつ伏せになれ! 私はマレスティカ公爵騎士団の騎士ラダ・ロスカだ。マレスティカ公爵家の名の下、貴様らを捕縛する!」


 ラダさんの怒声が向こうから聞こえてきます。


「ローザ嬢、行きますよ」

「は、はい」


 あたしたちも後を追って外に出ました。そこはあの気持ち悪い聖ルクシア教会のシンボルが掲げられた大広間のような場所で、大勢の人たちが集まっています。


 ほとんどの人はポカンとした様子ですが、何人かがラダさんを(にら)みつけていました。そのうちの一人で、ごてごてした飾りがたくさんついた服を着た中年の男がラダさんに抗議してきます。


「神聖な教会で剣を抜くとは何事ですか!」

「貴様らはテロへの関与が疑われている! 全員、大人しくしろ!」


 するとその中年の男はみるみるうちに般若のような表情になりました。


「なぜそれを!」

「ミャッ!」


 中年の男がそう叫んだのと同時にユキが小さく鳴き、突然周囲が凍り付きました。


「えっ!?」


 しかもその範囲はあっという間に室内全体にまで広がります。


 ドシン! ズシャァ!


「ほえっ!?」


 後ろで変な音がしたので振り向くと、なんと手に剣を持った黒ずくめの人たちが何人も氷漬けになって転がっているではありませんか!


 ええっ!? これ、もしかしてあたしたちを狙って?


「ユキ……ありがとうございます」

「ミャー」


 ユキはどうだとばかりに自慢気な様子であたし……あれ? あたしじゃない?


 ユキの視線の先には一歩前に踏み出していた公子さまの姿があります。


「えっと……公子さまもありがとうございます」

「いえ。まだ終わっていませんよ」


 公子さまは落ち着いた様子で周囲を見回しました。


 そ、そうですよね。


 あたしも周りを見回しますが、部屋全体が凍り付いているのであたしたち以外に動ける人がいない気がします。


「ば、バカな……。ベルーシの公子がこれほどなどとは……」


 その声に振り向くと、ラダさんがごてごてした服の男に剣を向けたままじりじりと距離を詰めていきます。男はラダさんを(にら)みつけていますが、ユキのおかげで足が凍り付いたせいで動けないみたいです。


「やはり貴様、知っているな? リリア嬢はどこだ?」

「……もはやこれまで!」


 男はそう言って懐から小瓶を取り出し、ふたを開けると一気に(あお)りました。


「なっ! 待て!」


 ラダさんが慌てて止めに入りますが、男は崩れ落ちて仰向けに倒れてしまいました。


「くっ。なんという……」

「ラダ卿、早く応援を」

「……そうですね。公子殿下、ローザお嬢様をお願いします」

「お任せください」


 ラダさんはそう言って入口らしき扉のほうへと走って行き、外に向かって信号弾を放ちました。


「ホー!」

「ひゃんっ!?」


 突然後ろからホーちゃんの声がして、びっくりして飛び上がっちゃいました。


「もう。びっくりさせないでください。ホーちゃん」


 あたしが後ろを振り向くと、ホーちゃんがピーちゃんの上に乗っていました。


 あれ? どうしたんでしょう? さっきも闘技場でああしていましたけど。普段はああいうこと、しないはずなんですけどね。もしかして、何か仲良しになるきっかけでもあったんでしょうか?


「ローザ嬢」


 そんなことを考えていると、今度は公子さまに呼ばれました。


「え? はい」


 あたしが振り返ると、公子さまは何かを飲んで倒れたあの男の首に手を当てていました。


「この男、治療はできますか? まだ息があります」

「え? あ、はい。やってみます」


 あたしは慌てて駆け寄ると、倒れている男の様子を確認します。


 えっと、顔面蒼白で、口からは泡を吹いていますね。それに呼吸がほとんどありません。


 ……たぶん毒、飲んだんですよね。えっと、それなら毒素を体から消すイメージのはずです。それで呼吸がないってことは、やっぱり肺に毒があるってことですかね?


 なら公太后さまの治療をしたときのイメージで、えい!


 ……ダメです。うまく発動してくれません。


 えっと、じゃあ肺じゃないってことですよね。えっと、じゃあ毒はどこに?


 あれ? えっと、えっと……?

 次回更新は通常どおり、2024/10/26 (土) 20:00 を予定しております。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ