第四章第96話 大変なことが起きていました
どうなっているんでしょう? ゴーレムたちはピクリとも動きません。
「ミャッ」
あ、ユキが帰ってきました。
「おかえりなさい。怪我はしていないですか?」
「ミャッ」
ああ、良かった。大丈夫みたいです。
あたしが頭を撫でてあげると、ユキは気持ちよさそうに頭を擦りつけてきます。
えへへ。
それにしても、ホーちゃんはどこに行っちゃったんでしょう? 怪我をしていなければいいんですけど……あれ? ピーちゃんがまだじっと闘技場の外を見ていますね。何があるんでしょう?
あたしもピーちゃんが見ている方向をじっと見てみますが、特におかしなことはなさそうです。
「ミャ?」
「ピ」
「ミャー」
「ピピー」
今度はユキとピーちゃんが何かお話しているみたいです。
「ピ……ピピ? ピピッ! ピーッ!」
「ミャ?」
何かに気付いたみたいで、ピーちゃんが突然ぴょんぴょんとジャンプして何かをアピールしてきています。ただ、ユキもなんだか分かっていないみたいですね。
「えっと? ピーちゃん?」
「ピッ! ピピー!」
ピーちゃんが必死に何かをアピールしてきます。
えっと、どうしたら……?
「ピピッ」
「ミャ? ミャー」
ピーちゃんに何か言われたのか、ユキがすっと立ち上がります。
「ユキ? どこに行くんですか?」
するとピーちゃんもぴょんとジャンプしてユキの隣に移動しました。
「ミャー」
「ピピッ! ピピー!」
「えっと……一緒に来て欲しいってことですか?」
「ミャ」
「ピピッ」
そうみたいです。
「お嬢様! 勝手に動かれるのは!」
「あ……じゃ、じゃあ、ラダさんも一緒に来て下さい」
「ですが……」
「ユキとピーちゃんがこんなに言ってくるってことは、きっと大事なことなんです! あたしがここに逃げてこられたのもユキたちのおかげなんです! お願いです!」
あたしは必死に頼みます。
「……かしこまりました。お嬢様がそう仰るのでしたらお供いたします。ですが、お嬢様の御身に危険が及びそうな場合はすぐに戻っていただきます。よろしいですね?」
「はい!」
「師匠! 私も!」
「ヴィクトリア……いいでしょう。お嬢様の背後をお守りしなさい」
「はい」
あたしはピーちゃんを抱っこすると、ユキの後を追いかけていきます。
そうしてたどり着いたのはなんと医務室でした。
「え? ……まさか!」
「お待ちください!」
あたしは慌てて中に入ろうとしたのですが、ラダさんに止められてしまいました。
「え? どうして?」
「敵がまだ残っているやもしれません。私が先に突入します」
敵! じゃあ……!
「行きますよ。三、二、一」
ラダさんが医務室のドアを勢いよく開け、顔をちらりと出して中を除きます。
「っ!?」
ラダさんの息を呑む音が聞こえてきます。
い、一体何が?
「ミャッ」
「ピピッ」
ユキがすぐに中に飛び込み、ピーちゃんもそれに続きます。
「あっ! 待ってください!」
あたしも急いで中に入ろうとしたのですが、後ろから手を引っ張られて引き戻されてしまいました。
「えっ?」
「ローザ、ダメだよ。まだ師匠が中の安全を確認していないでしょ」
「でも! ユキたちが!」
「ヴィクトリア、手を放して差し上げなさい。それよりもお嬢様! 早く中へ」
「わかりました」
ヴィーシャさんが手を放してくれたので、あたしは慌てて中に入ります。
するとなんと! そこにはツェツィーリエ先生が血だまりの中でうつ伏せになって倒れているではありませんか!
「ツェツィーリエ先生! ツェツィーリエ先生!」
あたしは慌てて駆け寄りますが、ツェツィーリエ先生はピクリとも動きません。
「ピッ! ピピー!」
ピーちゃんがツェツィーリエ先生の体の下に入ろうとしてます。きっとそこに傷口が!
「ツェツィーリエ先生!」
あたしはツェツィーリエ先生の体をなんとか仰向けにしようと肩の下に手を差し入れました。
「ん……お、重い……」
「仰向けにすればよろしいのですね?」
「え? あ、はい。お願いします!」
「かしこまりました」
ラダさんがツェツィーリエ先生を仰向けにしてくれました。
「う……」
ひどいです。この傷、もしかして何か尖った物でお腹を何度も……?
「お嬢様、まだ息はあるようですが……」
「本当ですか!? ならあのときみたいに!」
あたしはツェツィーリエ先生の服をすぐにたくし上げ、素肌が見えるようにします。
ああ……これ、絶対内臓もずたずたですよね。なら!
「ピーちゃん! お願いします!」
「ピッ!」
ピーちゃんは傷口を覆いつくすようにくっついたかと思うと、その表面を溶かしていきます。
あ! 見えました。やっぱりいくつかの内臓が傷ついています。
「治します!」
あたしはすぐさまラダさんたちのときと同じように傷ついた内臓を、筋肉を、そして皮膚まで治療しました。
ふう。きっと、これでもう大丈夫です。ああ、本当によかったです。
「す、すごい……」
あたしが心地よい疲労感に浸っていると、後ろからヴィーシャさんのそんな声が聞こえてきたのでした。
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