第四章第94話 ヴィーシャさんとおしゃべりしました
2025/03/28 人物を取り違えていたミスを修正しました
ゴシャッ!
カランカラン……。
鈍い音と共に乾いた金属音があたりに響き渡る。
「え?」
ビタが金属音のしたほうを見ると、そこには黒ずくめの男が握っていた短剣が転がっていた。
「なんで短剣が……?」
ゴシャッ!
ビタ振り返ろうとした瞬間、再び鈍い音が聞こえてきた。
「え? え?」
ビタがそちらを振り返ると、なんと黒ずくめの男が倒れている。
ゴシャッ!
さらに別の方向から再び鈍い音が聞こえ、再びビタがそちらを見るとやはり同じような黒ずくめの男が倒れている。
ビタがアリアドナのほうを見ると、目を大きく見開き、驚愕した表情を浮かべながら硬直していた。
「あ、あの……アリアドナ先生?」
ビタに呼びかけられ、アリアドナはハッとなったようだ。
「え、ええ。ビタさん。後ろを振り返ってはいけませんよ。さあ、こちらにいらっしゃい」
「え? は、はい」
アリアドナに言われ、ビタは小走りに女子寮の中へと入っていく。そしてビタは中に入るとき、ちらりと門のほうへと視線を移した。
すると自分が立っていたほんの一メートルほど門側の場所に三人目の黒ずくめの男が横たわっており、なんとその男は血だまりに沈んでいたのだった。さらに他の二人の男たちも血だまりに沈んでいる。
「ひっ!?」
◆◇◆
ゲラシムが爆発があったとされる場所へと小走りで向かっていると、正面から騎士たちに学長室へ行くように指示された生徒たちが走ってくる。
「む? 諸君、どうしたのかね?」
「あ! ゲラシム先生!」
「大変なんです! 実は――」
生徒たちは自分たちが見てきたことを説明する。
「ふむ。そうか。では諸君はそのまま学長先生に状況を報告してきたまえ。加えてこちらに増援は不要であること、そしてゴーレムを倒す方法は頭部の中央にあるコアを破壊するか、溶かすかのどちらかであることを付け加えておきたまえ」
「は、はい! わかりました!」
生徒たちは大声で返事をすると、学長室に向かって駆け出した。それを見送ったゲラシムは再び小走りに爆発があった場所へと向かう。
すると騎士たちがゴーレムと戦っている場所へと到着した。騎士たちは大量のゴーレムに囲まれており、かなりの劣勢を強いられている。
そんな騎士たちにゲラシムは大声で呼び掛ける。
「騎士の諸君! そのゴーレムはハプルッセンの兵器である。倒す方法は頭部の中央にあるコアの破壊か、溶かすことである!」
「っ!? 感謝する!」
騎士たちはすぐさま攻勢に転じ、頭部に剣を突き立てた。するとゴーレムは再生することなく、そのまま機能を停止した。
別の騎士は盾でゴーレムの拳を受け止めると、魔術でゴーレムの左足に火を放った。ゴーレムは徐々に赤熱し、やがてぐにゃりと変形する。
ガシャーン!
バランスを失ったゴーレムは派手に転んだ。しかも左足の太ももにあたる部分の先がもげている。
だがゴーレムが再生することはない!
「おお! さすがゲラシム先生だ!」
どうやら魔術を使った騎士はゲラシムの教え子であるらしい。
「む? 君は……リヴィウス君か。懐かしいが、今はゴーレムを止めるのが先であろう。早くそのゴーレムのコアを潰したまえ」
「はい!」
騎士はすぐさま頭部のコアに剣を突き立てた。
こうして倒し方を教えられ、騎士たちは徐々に劣勢を跳ね除けていくのだった。
◆◇◆
それからしばらくヴィーシャさんが今日あったっていう試合のことをお話してくれていたんですけど、話題が尽きたのかコンラートさんたちのほうにちらりと視線を向けました。
「そういえばさ」
「はい」
「あの人たちの避難誘導をローザがしてきたんだよね?」
「え? えっと……」
「すごいよね。まだ貴族になって一年も経ってないのに、なんだかすごく貴族らしくなってきたよね」
「あ、えっと、そういうわけじゃ……あたしはただ走っていただけで……」
「そうなの? じゃあなんでコンラートくんとか来てるの? 一緒に行こうって誘ったんじゃないの?」
あたしは首を横に振ります。
「え? じゃあ勝手についてきたの?」
「はい」
「へぇぇぇぇ、そうなんだ。やっぱりねぇ」
「え? やっぱり?」
「あ、ううん。こっちの話」
「え? え? どういうことですか?」
でも、ヴィーシャさんは意味深な笑みを浮かべながら首を横に振ります。
えっと……?
「ホー」
「「えっ!?」」
後ろから突然ホーちゃんの声がしたのでびっくりして振り返ると、いつの間にかホーちゃんが戻ってきていて、しかもなぜかピーちゃんの上に乗っかっていました。
あれ? 一瞬赤っぽい何かが見えたような?
でも今は何もないですし、気のせいですね。
「ホーちゃん、どこに行っていたんですか? 心配していたんですよ」
「ホー!」
ホーちゃんは片方の翼を上げて返事をしてくれました。あたしはそっとホーちゃんを抱き寄せます。
えへへ。ホーちゃんもふわふわで温かいんですよね。
それから少し温もりを満喫していると、ホーちゃんが身じろぎをしたので放してあげます。
「ホー」
「はい」
ホーちゃん、なんだか機嫌が良さそうですね。それを見るとあたしまでポカポカした気分になっちゃいます。
「ホー!」
ホーちゃんは力強く鳴き、再び空へと飛び立っていきました。そしてすぐに姿が見えなくなります。
「ね、ねぇ、ローザ」
「はい? なんですか?」
「ホーちゃん、いつの間に戻ってきてたの? 全然気配がなかったよね?」
「え? でもいつもですよ?」
「そうなの?」
「はい」
「そういえば、今飛んでいくときも羽ばたく音がしなかったような……」
「あれ? そういえばそうですね。でもホーちゃんが飛んでいくときっていつもほとんど音がしないですよ? 鳥が飛び立つときって、そういうものなんじゃないんですか?」
「いやいやいや、普通あの大きさの鳥が飛んだらもっとこう、バサバサバサッっていう音がするよ?」
「そうなんですね。知りませんでした」
するとヴィーシャさんは複雑な表情を浮かべ、大きなため息をつきました。
「まあ、いいか。ホーちゃん、一応なんとかって魔物なんだもんね」
「ホーちゃんはお友達ですから、魔物じゃありませんよ」
「うん。分かってるって。種族の話」
「それはそうかもしれませんけど……」
魔物って、やっぱりゴブリンみたいなやつのことですよね?
ホーちゃんは優しいですし、魔物って呼ぶのは違うと思うんです。
そんな風にちょっとモヤモヤしていると……。
ドォォォォォン!
突然外から爆発音が聞こえてきました!
「えっ!?」
「ひゃっ!?」
次回更新は通常どおり、2024/09/21 (土) 20:00 を予定しております。





