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第四章第91話 避難しました

「はぁっ、はぁっ、はぁっ」


 あたしは走ってなんとかユキについていきます。ちょうど夕暮れで、クラブ活動が終わる時間だからでしょうか?


 寮に帰るところらしい人たちが大勢いて、不思議そうにあたしたちのことを見てきます。


「ねえ! ローザさん!」

「えっ?」


 突然声を掛けられ、思わず立ち止まって振り返ります。するとそこにはコンラートさんが何人かの男の人と一緒にいました。練習終わりのようで、皆さんテニスのラケットっぽい形のケースを肩にかけています。


「そんなに焦ってどこに行くの? もしかして、さっきの大きな音と関係ある? 何があったの?」

「えっと……わ、わからないですけど……」

「けど?」

「その、なんだか壁が爆発して……」

「えっ? 壁が爆発!? 何があったわけ!?」

「えっと、その、それで、その、よく分からないんですけど、ユキたちがこっちに行ったほうがいいって」

「ミャー!」

「ピピッ!」

「あ、はい。ごめんなさい。その、急いでいるので」

「はあっ?」

「ごめんなさい!」


 あたしはコンラートさんを置いて走り始めました。するとなぜかコンラートさんが追いかけてきます。


「だから待ってって。なんでこっちに走って行くの?」

「はぁ、はぁ。わ、わかり、ません」


 走っているのに話しかけないでほしいです。息が上がっちゃいます。


「なんでわかんないのに走ってるわけ?」

「……」


 もう! 喋りながら走るなんてできるわけないじゃないですか!


 あたしは首を横に振り、そのままユキの後を追いかけます。


「ちょっと! ローザさん!」


 ……なんでずっとついてくるんですか?


 答える余裕なんてないので、話しかけないで話しかけないでほしいです。


「ローザさん?」


 しつこいです。でも……ユキもピーちゃんも怒ってないんですよね。ということは、コンラートさんたちが一緒に来てもいいってことだと思います。


 あのとき、森の中で逃げられたのはユキたちのおかげですし、きっと安全なところに連れて行ってくれようとしているんだと思います。


 そうしてしばらく走っていると、なんと前に決闘をさせられた円形闘技場にやってきました。ただ、前に来た決闘をする人のための入り口じゃなくて、正面の少し大きな入口のほうです。


「あれ? なんでここなの?」

「はぁっ、はぁっ、わ、分かりません」


 あたしは膝に手をつきながらそう答えました。それから少しして息が整ってきたので、コンラートさんのほうを振り返ります。


 えっ!?


 な、なんでこんなに大勢いるんですか!?


 いつの間にか、ものすごい人数が集まっていました。


 あたしがあまりのことに呆然としていると、今度は後ろから声を掛けられます。


「お嬢様?」

「え?」


 思わず振り返ると、なんとラダさんが闘技場の中から出てきていました。


「なんでラダさんがここに?」

「なぜって……私は剣術部の講師ですので」

「あっ! そうでした」


 そういえば前にヴィーシャさんが言っていました。


 ……あれ?


「でも臨時だったんじゃ……」

「いえ、あのあと正式にお嬢様が在学されている期間は講師を務めることになりました」

「そうだったんですね」

「それよりも、どうなさいました? 何かございましたか?」

「えっと、実は――」


 あたしは事情を説明しました。


「なるほど。それでこれだけ大勢の生徒をお連れになられたのですね」

「え? それは――」

「さすがはお嬢様です。ご英断でした」

「えっと……」


 この人たちは勝手についてきただけなんですけど……。


「そういうことでしたらまずは中にお入りください。今日はちょうど剣術部と魔術関係のクラブの合同演習で、大半の教師たちもここに集まっています」

「は、はい。でも、あたしが連れてきたんじゃなくて……」

「ご謙遜なさらずとも結構です。さあ、どうぞこちらへ」

「は、はい……」

「生徒の皆さんも、一旦闘技場の観客席に移動してください。そちらで先生がたの指示を仰ぎましょう」


 こうしてあたしたちは闘技場の中に入るのでした。


◆◇◆


 一方その頃、トレスカの王城内の庭の一角にある倉庫で爆発が発生した。ちょうど近辺を歩いていたメイドたちがそれを目撃する。


「きゃっ!?」

「えっ?」

「何? なんなの!?」


 驚いた彼女たちは思わず尻もちをついてしまった。


 爆発の規模は中々のものだったようで、レンガ造りの倉庫の屋根は吹き飛び、壁も一部が崩壊し、土煙がもうもうと立ちのぼっている。


 やがて土煙が晴れてくると、その奥からは何やら大きな影がぼんやりと見え始める。


「え?」


 ズシン、ズシン。


 大きな音が響き、土煙の向こうから何体もの大きなゴーレムが姿を現した。その姿はローザが決闘で戦ったものと似てはいるが、二回り以上大きい。


「ひっ!?」

「だ、誰か!」


 彼女たちは慌てて立ち上がり、建物のほうへと逃げていく。しかしゴーレムたちはそんな彼女たちに気付いたのか、その後をゆっくりと追いかけていった。


「誰か! 助けてぇぇぇぇ!」


 彼女たちの悲鳴が王城内に響き渡るのだった。

 次回更新は通常どおり、2024/08/31 (土) 20:00 を予定しております。

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