第四章第90話 いきなり爆発しました!
それからは特に何事もなく、あたしは普段どおりの学園生活を送っています。レアンドロさんに何か言われることもなくなりましたし、生徒会のお仕事も順調です。
あ! でも王太子さまもいつもどおりで、やっぱり慣れるのは難しそうです。もちろんお義姉さまが踏んでくれるので大丈夫なんですけど……。
でも、料理研究会のほうは楽しいですよ! ビタさんもいい人で、お料理も上手ですし。
それでですね。ビタさんが料理研究会に入った理由を教えてもらったんですけど、なんと面倒だったかららしいです。
面倒って何? って思ったんですけど、ビタさん、お父さんに貴族とのコネを作れって何度も念を押されていたらしいんですよ。それで最初は刺繍部に入ったらしいんです。ただ、そこで布や糸の値段を自慢されて、それでお父さんに高いのを買ってくれってお願いしたら断られて、それで刺繍部を辞めたんだそうです。
ただ、クラブには参加しないといけないっていう決まりがあるじゃないですか。それでもう面倒くさくなって、平民が多いという噂の料理研究会に移ってきたそうです。
お義父さまがいい人なので忘れてましたけど、子供を利用しようとする親ってやっぱりいるんですね。
はぁ……。
えっと、はい。それでですね。ようやく今日の補習が終わったのでお部屋に帰ろうと思います。
ううっ、本当に疲れました。今日は料理研究会もあったんですけど、残念です。
え? なんの補習か?
そんなの数学に決まってるじゃないですか。
はっきり言ってもうついていけていないです。説明されればその場ではなんとなく分かるんですけど、ちょっと問題が変わると全然ダメです。
はぁ。あたし、試験大丈夫でしょうか?
あたしは茜色に染まった校舎をゆっくりと寮のほうへと歩いて行きます。
コンコン!
突然何かが叩かれた音がして、あたしは思わずそちらを振り向きます。
……あれ? ホーちゃんがどうして窓の外にいるんでしょう?
あたしは急いで窓を開けてあげます。
「ホー!」
「ホーちゃん? どうしたんですか?」
「ホー!」
……何かを伝えたそうにしていますね。なんでしょう?
えっと……あ! もしかして!
「お腹がすいちゃったんですか? いいですよ」
あたしはホーちゃんが止まりやすいように左腕を差し出しました。
「ホー!」
あれれ? 違うみたいです。えっと、だとすると、なんでしょう?
「ミャッ!」
「ピピー!」
「えっ!?」
なんとユキとピーちゃんが正面から走ってくるじゃありませんか!
「どうしたんですか? 何があったんですか?」
「ピピーッ!」
ピーちゃんがピョーンとジャンプし、そのまま窓枠に着地しました。続いてユキもジャンプして、音もなくピーちゃんの隣に着地します。
ユキはじっと南のほうを見ていて、ピーちゃんは体の一部を伸ばして南のほうを指し示しています。
「えっと、もしかしてあっちに何かあるんですか?」
あたしは窓に近づき、南のほうを見てみます。
……特になんてことはないいつもの夕暮れの景色です。芝生があって、その先には魔法学園の敷地を囲う壁があります。その先には住宅地が広がっていますね。
ここは五階なので街の景色が一望できるんですよ。
もしかして夕焼けの景色を一緒に見たかった……なんてはずはないですよね。
えっと、えっと……?
困惑しつつ、景色を眺めていたちょうどそのときでした。
ドォォォォォン!
なんと! 突然壁が爆発しました!
「えっ!?」
「ミャッ!」
「ピピッ!」
「もしかして、爆発が起きるって報せに来てくれたんですか?」
「ミャッ!」
「ピピー! ピッ! ピッ!」
ピーちゃんが窓枠から降り、あたしのマントを引っ張ってきます。
「えっと? ど、どこに行けば……」
「ピッ! ピピッ!」
「わ、わかりました。えっと……りょ、寮に――」
「ピピッ!」
う……ダメみたいです。
「じゃ、じゃあ……生徒会し――」
「ミャー!」
「え? 違うんですか?」
ユキがぴょんと飛び降りると、出口のほうに向かって走って行きます。
「あ! ユキ! 待ってください!」
あたしは慌ててユキを追いかけます。するとピーちゃんがジャンプして、あたしの頭の上に乗ってきました。
「ピピッ!」
「あ……はい。もちろんピーちゃんも一緒ですよ」
「ピピー」
「あと、ホーちゃんは……」
窓の外からついて来ています。飛べるからきっと大丈夫ですね。
あたしはそのままユキの後を追って駆け出すのでした。
◆◇◆
一方そのころ、レオシュはオーデルラーヴァにある自室に帰ってきた。扉を開けて中に入ると、なんと極端に丈の短いメイド服を着たオフェリアが恭しく頭を下げて出迎える。
「お帰りなさいませ、レオシュ様」
「ああ」
オフェリアのまるで生気が感じられない声にレオシュはニタリと下卑た笑みを浮かべ、乱暴にオフェリアを抱き寄せた。オフェリアは抵抗することなく、素直にレオシュに身を任せている。
「オフェリア・ピャスク。あのガキもいよいよ、俺のモノになるはずだぞ」
するとオフェリアは顔を上げ、虚ろな目でただじっとレオシュの目を見つめている。
「なんとか言えよ!」
レオシュは突如激昂し、オフェリアの頬を叩いた。だがオフェリアは虚ろな目のままぼんやりとレオシュを見つめ続けている。
するとレオシュは小さく舌打ちをした。
「そうだったな。まあいい。おい、オフェリア・ピャスク。お前の存在意義を答えろ」
するとオフェリアは相変わらずの生気が感じられない声で答え始める。
「はい。私は偉大なるレオシュ様にお仕えする奴隷です。レオシュ様のご命令に従うことが私の全てです」
するとレオシュはニタァと昏い笑みを浮かべる。
「そうだ。さあ、いつものように俺に奉仕しろ」
そう言ってレオシュはオフェリアをベッドに押し倒した。するとオフェリアはまるで恋人にするかのように優しくレオシュの体に抱きつき、そっと唇を重ねる。
「レオシュ様、失礼します」
するとオフェリアとレオシュは自然に体位を入れ替え、今度はオフェリアが上になった。オフェリアはすぐさまレオシュの服を脱がせ始める。
「ああ、そうだ。オフェリア、それでいい」
レオシュは満足げな表情を浮かべている。オフェリアもまた、恋人とのセックスを喜んでいるかのような表情を浮かべているが、その瞳は虚ろなままなのだった。
次回更新は通常どおり、2024/08/24 (土) 20:00 を予定しております。





